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僕はちひろさんの1番ですか? 12話

◆◆◆◆◆ 「神林くん」 声をかけられたのは公園の猫達にご飯を与えた後の帰り道。 神林に声をかけてきたのは此上。 「ど、どうしたんですか?」 道路の端に停まっている車に近付く。 「それはこっちのセリフ。何してるの?神林くんの家ってコッチじゃないだろ?あ、引っ越したのかな?」 此上が言っているのは実家の事。 彼は神林の実家を知っている。昔、たまに送ってくれていたから。 「はい。一人暮らししてますよ」 「あ、………うん、そうだね。そんな年齢だ」 此上はそう言って笑う。 「あ、でも、借りている部屋はこの辺りじゃないです」 「えっ?じゃあ、何してたの?」 「ちょっと用事が」 まさか公園の猫に餌を与えにわざわざ来ているとは言えない。 「送っていくよ。乗って」 「えっ?でも、悪いですよ。電車で2駅くらいだし」 「それでもいいよ。乗って」 此上にそう言われ、彼の好意に甘える。 助手席に乗り込み、シートベルトをつけた。 「道案内して」 「はい。じゃあ、このまま進んで次の信号で右に曲がってください」 「りょーかい」 此上は車を走らせる。 「………此上さん千尋に会いに来たんですか?」 ストレートに聞いた。 彼がいる理由はひとつ。 西島のマンションがあるから。 「………会いに来たわけじゃないよ。様子を見にね……」 具合を心配していた彼。本当に大丈夫か心配だったのだろう。 本当、この人は………昔と同じく千尋の心配ばかり。 「やっぱ、どこに住んでいるかとかは知ってるんですね」 「彼の父親がね、いつも心配しているから」 「千尋のお父さん元気ですか?」 「元気だよ」 西島の父親の様子を聞きながら、千尋は親父さんの事心配しないのかな?って思う。 父親の方が先に年をとるし、年齢的にも心配な事が増えてくる。 「此上さん、こっち帰ってから仕事何してるんですか?」 「ん?相変わらず秘書勤めだよ」 「え?一度辞めませんでした?」 「辞めたね………でも、どうしてもって言われてね。中途採用とか難しい世の中だからさ………」 「戻ったのは千尋が心配だから?」 「それもあるね。あの子は見ていて心配になるから。今はちゃんと感情をコントロールできるようになっているし、精神的に大人になった分、前みたいに倒れたりしてないだろ?」 「そうですね。まあ、いまの仕事してから倒れたり、入院とかはないです」 「………よかった。会社休んでるって聞いた時はまた、前みたいにって心配になったんだ」 「相変わらずですね」 「え?」 「そうやって、ずっと心配している」 「それは君もだろ?」 此上は神林の頭の上に手を乗せて髪を撫でる。 「こ、子供じゃないんですから、あ、次、黄色い看板の弁当屋みえたら、左です」 子供じゃないって返しながらも撫でられる手は払い退けない。 「弁当屋か……神林くん食事は?」 「まだですけど?」 「何か食べに行こうか?」 「えっ?………あ、作るんで良かったら寄っていきません?」 神林は普段、外食はあまりしない。 好き嫌いがあるので、自分で作った方が早いし、節約にもなる。 「えっ?いいの?」 「もちろんです」 「じゃあ、遠慮なく」 此上は微笑む。昔と本当に変わらない笑顔で。 ◆◆◆◆ 「手伝うよ」 神林の部屋、キッチンに男性が2人立つとやはり狭い。 「此上さんはお客なんで座ってテレビでも見てて下さい」 「テレビみてもつまらないよ」 「ワガママ言わないで!!ほら、ソファーに座って」 神林は無理やり此上をソファーに座らせる。 この部屋の主は神林だ。 此上は仕方なく、彼のいう事を利く。 神林の部屋は男性の一人暮らしの割には綺麗できちんと片付いている。 「君は相変わらずちゃんとしるんだね」 部屋をキョロキョロしながら、キッチンに立つ神林に話かける。 「どういう意味ですか?」 「深い意味はないよ。……昔と変わらなくて嬉しいってだけ」 「それは此上さんもでしょ?変わらない」 「そうか?確実に老けたぞ?」 クスクス笑う此上。 「此上さん、独身ですか?」 「うん、そうだよ?どうして?」 「………いや、別に、深い意味はないです」 此上の真似をしてみる。 「年齢的には所帯持つ年だからね。そういう神林くんは?」 「結婚も恋人も予定ないですよ」 「…………それって、まだ、千尋を好きって事?」 その質問に神林の手が止まった。

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