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僕はちひろさんの1番ですか? 13話
上手く言葉を返せない。
嘘ついても、この人にはバレる。だって、学生時代に既にバレていたのだから。
「ほんと、君って嘘つけないよね」
微笑む此上。
この笑顔は前にも向けられた。
あの時は泣いてしまって、慰めて貰った。
「………いい加減、諦めたらって言わないんですね」
「どうして?それに、もし、諦めたらって言ったら君は諦めるの?」
「………それは」
神林はまた、言葉を返せずに黙る。
「ほんと、正直だね」
「………諦め悪いだけです」
神林はそう返すと料理を黙々と作り出す。
何を話して良いか分からない。
ほんと、自分って不器用。
お客の此上に気を使わせちゃうのも、悪いから、どうにかしないと………そう思っても、言葉を探せない。
沈黙が怖くなった頃、
「………アルコール、冷蔵庫ある?」
と此上にそう聞かれた。
「えっ?ありますけど、飲むんですか?飲酒運転になりますよ」
「明日は休みなんだ………ソファーでもいいけど?ダメ?」
「ダメじゃないですけど………どうしたんですか?此上さんってお酒のイメージないです」
「そう?……結構飲むよ?神林くんも一緒にね」
「はい」
此上の方へ顔を向けて、返事をした。
なんとなく、気まずくなりそうだったのを助けて貰った……そんな感じがした。
◆◆◆◆
食事をしながらたわいもない話をする神林と此上。
神林はもっと色々と聞きたい。
西島の事をどう思っているのか……
聞かなくても、きっと、彼も西島の事が好きなんだと思う。
あんなに心配して、大事にしていたのだから。
「ちひろ…………のこと、好きですか?」
神林は思い切って言葉にした。
酒が入っているし、酔った勢いっていうので誤魔化せる。
「………どうしてそんな事聞くの?」
質問を質問で返された。
「だって、大事にしてるから……戻ってきたのもちひろが心配だからでしょ?」
「大事にはするよ。あの子、ほっとくと何するか分からなかったし。子供の頃はね、ほんと、大変だったよ。」
「そうなんですか。中学からしか知らないから」
「中学の頃は少しは落ち着いていたからね。そこで、君が友達になってくれたから、本当に助かったよ。」
「………此上さん、千尋にいま、恋人いるって知ってますか?」
神林は様子を伺うように此上をみた。
ショックを受けるかな?それとも、もう知ってる?
「……そうか、良かった………ちゃんと、誰かを好きになってくれて」
此上は微笑む。
その微笑みの下にはどんな感情が隠れているのだろう?
凄く知りたくなった。
自分は碧の存在に寂しくなったり、羨ましく思ったり、複雑なのに。
目の前の男はそんな感情さえみせず、微笑む。
自分より、大人なのかも知れない。
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