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僕はちひろさんの1番ですか? 14話

「いま、一緒に住んでて……凄く仲が良いです」 此上の様子を伺うように動揺するような事をわざと言ってみる。 「ちひろ……物凄く大事にしてて、初めはその子を好きじゃないって言い張ってて、でも、彼が千尋を好きだって知ると……もう、押さえきれなくなったみたいに、一気に……キスするのだって、大騒ぎだし、あの子が少しでも調子悪いと心配して電話してくるし、ほんと、溺愛」 此上は顔色ひとつ変わらないように見える。 自分だったら、碧の存在を聞いたら動揺する。現にかなり動揺した。 どうして、自分じゃないんだろ?って切なくもなった。 中学からずっと一緒なのに、西島を好きだって気付いてもくれない。 挙句の果てに恋の相談をされる。 そう………前からそうだった。 恋愛相談される度に死にたくなるくらいなのに、笑っている。 泣くのを我慢して、笑ってアドバイスをするのだ。 学生時代、西島が好きだったのはこの人だ。 いつも、此上の名前を出さずに友達の話なんだけど?ってよくある友達の名前を借りた自分の相談を持ち込まれた。 此上が相手だと知っていたけど、知らないふりをして、アドバイスをする。 その、繰り返し。 でも、いつの頃からか、相談される事が無くなった。 それなのに、突然………碧が現れた。 でも、碧ならいいって思う。 「相手どんな子?」 顔色は変わらないけれど、相手が気になるように聞く此上。 「凄く可愛い子です。童顔で女の子みたいで、小さくて守ってあげたくなる子で……素直で優しくて、ちひろが大好きって全身で言ってる感じが凄く可愛い………ちひろが無くしてしまった感情を素直に見せてくれる魅力的な子です」 きっと、あなた、敵いませんよ?って付け加えて言いたくなる。 「…………それは、自分に諦めさせる為に言ってるみたいだね。だから、諦めろ!そう自分自身に言っている」 その言葉は鋭い刃みたいだった。 胸を一気に穿く。 違う、此上さんに言っているんですよ?って返したいのに、言葉が出てこない。 ちひろが好きなんでしょ?もう、ちひろは振り向きませんよ?どうして、手を離したんですか?って言いたいのに。 言葉が蔦みたいに神林の感情に絡み付いてくる。 「……ちがっ、」 そうじゃない。自分に言ってない。 「違わない。そうやって、自分に納得させてるんだね。ほんと、君を好きにならない千尋は見る目ないね」 フワリと彼の手が頭に乗せられて、優しく撫でられた。 「………見る目あります。碧ちゃんは本当に可愛くて、誰からも愛される……そんな子でっ、」 言葉が言い終わらないうちに唇にやわらかい何かが触れた。 やわらかくて、温かさを感じたのは、此上の唇。 目の前には彼の顔。 キス…………? 何をされているか理解出来るまでに数秒かかり、唇が離れて、 「固まってる………キス、初めてじゃないよね?初めてなら嬉しいけど?」 と言われて覚醒。 「えっ?えっ?なんで?」 神林は顔が熱くなるのを感じながら、驚くように此上を見た。 「君が可愛いから」 腕を引き寄せられて、また、唇を塞がれた。 さっきはくっつくだけのキスだったのに、塞がれた瞬間から、ヌルリと口内に此上の舌が絡んできた。 「んんっ、」 離れようとするけれど、そのまま、組み敷かれる。 キスは初めてじゃない。 でも、キスは久しぶり。 あ、いや、そんな事考えてちゃダメだろ!抵抗しなきゃ!! 神林は上に乗る此上を押しのけようとするけれど、力が入らない。 口内で絡んでくる舌を………つい、受け入れるように絡めてしまった。 快楽が勝ったのか、それとも、寂しいからなのか、神林は抵抗するはずの両手で此上の首筋に抱きついた。

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