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僕はちひろさんの1番ですか?16話
◆◆◆◆
チカチカと点滅する神林の電話。
熟睡中の彼は気付かない。
神林の寝顔を見つめながら、頭を撫でていた此上が気付き、手に取る。
着信は西島千尋と名前が出ている。
凄いタイミングだな………と此上は迷いながらも電話に出た。
「もしもし、神林?」
懐かしい声。
少しも変わらない………
喧嘩して、離れてからこんな風に直接耳で聞くのは本当に久しぶりだった。
「頼んでた公園の……」
と西島が話出した瞬間、電話の向こうで何か派手な音がした。
食器が落ちるような音と、
「あ~、諭吉!!こらっ!!」
と少年の声。
「碧、どーした?って、神林、またかけ直す」
慌ただしく電話が切れた。
此上はさっきの声の主が碧ちゃんなのかと思った。
そして、西島と話せなくてホッとしたような残念のような。そんな複雑な感情があった。
「ほんと、相変わらず」
此上は笑う。
元気そうな声と、碧と呼ぶ声が優しかった。
神林が言うように溺愛しているんだなって感じる。
凹むよな………
此上は神林の電話を元の場所に戻し、眠る彼を抱き寄せた。
◆◆◆◆◆
「諭吉、なにやってんだよ!」
西島が碧と諭吉の側に来た時はお皿が床に落ち、諭吉の毛にケチャップやら、ホワイトソースやらが少しついていた。
「ジャンプに失敗したと、気にするな」
諭吉はペロペロと毛についたホワイトソースやケチャップを舐める。
「こら、ダメだってば!ケチャップは刺激強いだろ!………って、お前わざとやったな?」
西島は諭吉の身体を抱き上げる。
「良かやっか!ケチャップ好いとーと」
「だめ!!碧、諭吉洗うぞ!」
「ごめんなさい、ちひろさん、諭吉が」
碧はお皿を拾って、床に飛び散ったケチャップやらの後始末をしている。
「いいよ!猫、洗うのは子供の頃からの夢だったし」
西島はニヤリと笑う。
「諭吉、お風呂好きだから大人しいですよ。たまに湯船に浸かったりしてます」
「オッサンだな」
西島は諭吉を連れて風呂場へ。
「ちひろさん、誰かに電話してたでしょ?大丈夫でした?」
風呂場へ碧もついてきた。
「あ、うん、神林に公園の猫にご飯あげたかを聞きたくて……でも、返事聞く前に切った」
「えっ?本当ですか?わあ、僕、神林先生に謝ります。きっと、心配してるかも」
「悪い!!お願いできるか?」
「はい」
碧はお風呂場から荷物がある方へと戻り自分の携帯を手にする。
神林の番号をだして、彼に電話をする。
3コール目で相手が出た。
「神林先生!!碧です!!さっきはごめんなさい、諭吉がお皿落としちゃって」
碧は一気に喋った。
出た相手は神林だと疑わないから。でも、
「こんばんは。トオルは寝ちゃったよ。碧くん」
と初めて聞く声が聞こえてきた。
碧は一瞬固まる。
えっ?あれ?
「ごめん、驚いているみたいだね。トオルが寝ちゃったから、代わりに出たんだけど、何か用事なんじゃない?」
初めて聞く声だけど、凄く優しくて聞き取りやすい声。
声優さんみたいに良い声だなって碧は感じた。
「あ、あの、こ、こんばんは!!初めまして!!僕、あの、神林先生の会社に勤めている佐藤碧と申します。あ、あの、」
碧はかなり緊張して、自分で何を言っているか分からないでいる。
もう、頭が真っ白だった。
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