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僕はちひろさん1番ですか? 23話
◆◆◆◆
公園へ寄った後、神林の部屋に2人で帰って来た。
此上は上着を脱ぐと椅子の背もたれへとかける。
「食事作るのから着替えてきていいよ」
「はい。……此上さんの上着もかけてきますね」
神林は此上の上着を手に着替えに向かう。
上着をハンガーにかけると、ふわりと香水の匂いが微かにした。
此上さんの匂いだ………
昨夜、一晩中、この香りに包まれていた。
彼の香りは初めて会った時から変わっていない。
彼によく似合う香りだと思う。
ラフな長袖シャツに着替え、何気に立て掛けてある姿見式の鏡をみた。
そこに映る自分の露出した肌に赤いシルシを見つけ、顔が赤くなる。
シャツをずらして、良くみてみると、結構な数のキスマーク。
昨夜は気付かなかったし、今朝もワイシャツを着てから鏡を見たから気付かなかった。
改めてキスマークを見てしまうと、また、悶えてしまいそうだ。
職場であれだけ悶えたのに!!
顔が熱い。
あああ!!!俺って、成人男性でしかも!!三十路なんだぞ?
何、これくらいで動揺して顔を熱くしてんだよおおお!!
碧ちゃんならわかる!!
まだ、未成年だし、小柄で細くて可愛くて、あんな感じの子が動揺して顔を赤くしていたら、物凄く可愛いと思う。
オッサンな俺がこんな風に狼狽えてる姿は気持ち悪いじゃんか!!
しっかりしろ、俺!!
神林は頭をブンブン振って邪念を振り払う。
よし!!!
気合を入れてキッチンへと戻る。
「トオル、食器出して?」
戻ると直ぐに此上から指示を受け、神林は食器をテーブルへと置いていく。
…………ん?トオル?
いま、さらりと下の名前で呼ばれたよね?
そういえば昨日もトオルと呼ばれていた。
………トオル、可愛い。
………トオル、気持ちいい?
……もう、いきそう?イッていいよ?
昨夜、囁かれた言葉が頭でリピートされる。
うわあああ!!!!!
頭をブンブン振りまくる。
「どうしたの?」
此上の声にハッと我に返り、
「いえ、なんでもないです」
あはは、と笑って誤魔化す。
動揺しつつ、神林も料理を手伝った。
キッチン立って、ふと、誰かとこうやって料理作ったり、食べたりするのはどれくらいぶりだろう?
たまに佐々木や西島が遊びに来ても飲むだけだから、料理はしないし、向こうが何かしら持ち込んでくる。
それに料理を作って貰うのは……………ああ、そうか、高校生ぶりくらい?
大学からは1人暮らしだから、自分で作っても誰かに作って貰う事はない。
次第に美味しそうな匂いが部屋中に漂う。
もう直ぐ、出来るぞっ!!って時に携帯の着信が鳴る。
ま、まさか千尋?
神林は慌てて携帯を手にする。
着信の名前の表示はミサキ。
ああ、ミサキちゃんか………
ホッとしながら電話に出る。
「もしもし、神林くん?」
「うん、どうしたの?」
「ちーちゃんどうかな?って思って」
「おじさんとの食事の事?」
「それもあるけど、仕事休んでるからさ、ご飯とか」
「ご飯は大丈夫!!意外と元気だし、食事の事はまだ、話してないよ。どう切り出して良いか分からないし」
「そうだよね……私でも切り出しにくいし………ちーちゃん頑固だし」
「うん、顔に似合わず頑固」
「………顔だけはいいんだけどなあ、ちーちゃんは」
「あはは、それは千尋が可哀想だよ」
「……神林くん、何か良い事あった?」
突然のミサキの言葉に神林はキョトン。
「何が?」
「声のトーンが明るいっていうか、凄く楽しそうな声だよ?」
ドキッとした。
えっ?そんなにトーンが違う?
「そうか?何もないけど?」
「そう?でも、明るいのはいい事だよ。神林くんも、ちーちゃんに劣らずイケメンなんだよ?笑顔でいればモテるよ」
「モテなくていいよ。……千尋に話したら連絡するよ」
「うん、ごめんね。じゃあ、また」
ミサキの電話はそう言って切れた。
明るい………
いい事?えっ?まじで?
そんなつもりはないし、自分では変わらないと思っている。
「ミサキちゃん?」
電話を置いて戻ってくると、此上に聞かれた。
「はい。彼女にちひろを食事に誘い出して欲しいってお願いされてて」
「ああ、なるほどね。ミサキちゃんが食事行こうって誘うと必ず断わるんだろ?」
「必ずってわけではないみたいですけど、千尋って勘がいいから、親父さんがくる食事は逃げるって」
「……そう。」
此上は少し寂しそうに見える。
料理が出来上がり、2人でテーブルにつく。
「千尋はね、悔しいんだと思う」
「えっ?」
食べ始めて此上が話を始める。
「幸せだったのに、突然それを取り上げられて、大人の事情ってやつでね。子供には凄くショックで、悲しくてどうしようもない……大人だって、辛いだろう。だから、悔しくて、悲しくて、全てをシャットアウトしてる」
「………そうかもですね」
「ごめんね、君まで巻き込んで」
「いいえ、俺は大丈夫です。千尋はお父さんとはあまり会っていないんですよね?」
「そうだね」
「お父さん………学生の頃に会った事あるけれど、悪い人には見えなかった……むしろ、千尋に悪いって思ってるみたいで」
「君は………よく、見てるね。千尋も君みたいにそうやって見てくれたらいいのにな」
此上はそう言って神林の頭を撫でた。
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