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第23話
「此上さんどうしたんですか?」
此上に気付いた碧が声をかける。
「知り合いからキャットフードの試供品貰ってね、諭吉にあげようかと」
此上は持っていた袋を碧に見せる。中に試供品が入っているようだ。
「試供品ですか?わあ、諭吉喜びます」
「しかもマグロ味」
「最高じゃないですか!!」
微笑む碧。
「っていう事だから千尋、お茶出せ」
此上は西島を見てニヤリと笑う。
どういうわけでもきっと上がり込むだろうに……と心で思う西島だった。
◆◆◆
「こりゃ、うまかばい」
諭吉は相変わらずの食欲でガツガツ食べている。
「諭吉、いい食べっぷりだな。持ってきた甲斐があるってもんだな」
此上は諭吉の頭を撫でる。
「此上さん、ありがとうございます、あのお茶いれました」
碧から声をかけられて此上は諭吉の側から離れる。
「ありがとう碧ちゃん」
「はい。あの、僕……お風呂入ってきますからゆっくりどうぞ」
碧はこういう時は凄く気を利かせてくる。此上が突然訪ねてくるのは西島に用があるからだと思っているのだ。
「えっ?俺も……」
「ちひろさんは此上さんとお話しててください」
ニコッと微笑み碧はその場から離れた。
「ちくしょー、此上のせいだ」
不貞腐れて此上に文句を言う。
「お風呂はいつでも入れるだろ?」
「子供に言うみたいに言うな」
完全に不貞腐れた西島はドカッと椅子に座る。
「で?何か用事なんだろ?神林の事とか?」
西島も此上が用も無しに来るとは思わないのでそう聞いた。
「トオルとは上手くやってるよ、ラブラブ、惚気けていいなら惚気けるけど?」
「ケッ、遠慮するよ」
プィッと横を向く西島。
「まあ、とりあえず……」と此上は立ち上がり、勝手知ったるキッチンでココアを作って西島の前に置いた。
「何だよいきなり」
「いいから飲め」
ココアは碧がいつも飲んでいるもの。
「お前が凹むと作ってやってたろ?」
「は?」
「様子が変だって佐々木くんと専務さんから電話きた」
その言葉に驚いて目を開く。そう言えば、専務は途中どこかに電話していたのを思い出す。あの時、此上に電話していたのか!
佐々木まで!あいつ、余計な事を。
もちろん、心配してくれていると分かっていても恥ずかしいし、どうして良いか分からない。
「お兄ちゃんが聞いてやるよ」
此上は西島の頭をくしゃくしゃに撫でる。
その行為にカチンときた西島は怒ったように此上の手を払い「バカにすんな此上!」と言ってココアを飲む。
熱々ではなかったのですんなり飲めたけれど、何か味がおかしい。
「此上、ココアにアルコール入れたな!」
「入れたよ?」
それが何か?と返される。
「お前、アルコール入れた方が素直になるからな」
「うるさいよ!俺はいつも素直だよ!」
その言葉に此上は笑って頭を軽くポンポンと叩いて「溜まっているものがあったら吐き出せ、お前はもう1人じゃないだろ?碧ちゃんが居る。お前が倒れたら心配するのは碧ちゃんだろ?心配させていいのか?」と言った。
西島はずるいと思った。
碧の名前を出す事も、こうやって他人からの電話1本で駆けつけてくる此上も。
本当にずるい。
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