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第24話
◆◆◆
「碧、ドアあけれ」
湯船に浸かる碧の元に諭吉の声。
碧はドアを開けて諭吉を入れる。
「碧は良かとや?話に入らんで」
「ちひろさんと此上さんの事?」
碧はそう言いながらまた浴槽に戻る。
「そうばい」
諭吉はぴょんと浴槽の縁に飛び乗ると座る。
「此上さんが来たのはきっと、ちひろさんが何か悩んでいる事だもん……僕だって話を聞きたいし、もし何か悩んでいるなら力になりたいって思うよ?でも、僕はまだ子供で大人のちひろさんにアドバイスとかできそうにないもん。此上さんなら適切なアドバイス出来るでしょ?」
「そうや……ニッシーはちぃーと頑固もんやけん、ちょっとやそっとじゃ素直になりきらんもんな、此上でも手こずるやろうな、無理やり酒ば飲ませよったし」
「お酒?ちひろさん酔うとお喋りになるもんね、僕、酔ったちひろさん好き。僕に甘えてくれるから」
「アルコールの力ば借りんば素直になれんとも切ないもんやね。碧にいっぱい甘えてたいとやろうけど、ほんにあの男はヘタレばい」
「ヘタレでもいいの!僕は好きだから……だから、僕も何か力になりたいよ、諭吉……僕はどうしたらいい?」
「碧の好きにすれば良かさ、甘えてくるなら甘やかせば良かし、側におりたかならおれば良かとやもん」
諭吉の言葉に碧は笑顔になり、「うん!甘やかしたいな。ちひろさんが寂しくならないくらいに」と言った。
寂しいなら側にいるし、抱き締めて欲しいならずっと抱き締めてあげたい。
今は此上に任せて、もし、彼が何か碧に要求してくるなら喜んでそれを受け入れようと思った。
◆◆◆
「何がどーしたのか、何かあったのかお兄ちゃんに言ってごらん」
此上はわざとふざける。真面目に話をすれば西島は逃げるタイプなのだ。わざと煽って勢いをつけさせて話やすくする作戦。
ココアはすっかり空っぽで此上はアルコールをそのまま持ってきてグラスに注いでいる。
「別に……何もないし」
西島はテーブルに両腕を組んで置き、そこへ顔を伏せる。
「ほんと、手強いな」
此上は西島の髪の毛をわしゃわしゃと乱す。
「あーもう!やめろってば」
顔を上げて文句を言う。
「俺がしつこいの知ってるだろ?」
「神林にもそうなん?」
「トオル?トオルにしつこくする時はほとんどエッチの時だけだな」
真顔で答えた此上を真剣に殴ろうかと思ってしまった。
「エロジジイ……あまりしつこくすると神林に嫌われても知らないからな」
「お前だって、碧ちゃん相手ならしつこくするだろ?それと同じ。好きな人が相手ならそういうもんなの!」
そりゃそうだ!と思ったが言葉にはしない。
「此上ってさ……一途なんだな」
「は?いきなりどーした?」
「だって、神林の事……かなり前からだったじゃん?もし、神林に他に恋人が出来てたらどうした?諦めた?」
「それ聞く?お前、俺の性格知っているだろ?」
「……知ってるけど」
「なら分かるだろ?」
西島は黙った。此上は諦めないと知っているから。無駄な質問だった。
「俺を振ったからな」
「振って良かっただろ?だって、碧ちゃんに出逢えた」
思わず、うん!と言いそうになってしまった。
本当にそうなのだ。碧に出逢えた事。それが西島には人生最大の幸せなのだ。
まだ自分が人を愛せる事を教えてくれて、優しくなれる事も楽しいって感じれる事も。笑う事も泣く事も。全部思い出させてくれたのだ。
あの日……心が凍ってしまった。
そのまま死ぬまで凍ったままだと思っていた。
「振られて良かった……此上が恋人だったらきっと、先の未来で喧嘩別れとかしてて、会えなくなってしまってるかも知れない」
「もし、そうだったとしても、俺はそれでも影から見守っているとは思うぞ?お前は放っておけないからな」
「何だよそれ?」
西島はちょっと笑った。
「約束は守るよ?俺はお前をずっと守ってやるって約束したし、側に居るって……父親とかじゃないけど、まあ?兄的な存在?」
そういう存在はきっと恋人では無理だった。
此上は本当にずっと側に居てくれるつもりだったから振られたのだろうと思う。
「……ほんと、どこの騎士だよ。碧が此上を騎士って言ってるのそのままだよな。忠誠でも誓うみたいじゃん!」
「千尋にはそれだけの価値があるんだ」
此上はそう言って西島の頭に手を置いた。
その手は凄く優しくて懐かしい感触だった。子供時代を思い出せる程の。
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