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もっと僕に甘えてください。 2話

「俺は……あんな思いするのはもう嫌だ。離れていくなら初めから側に居なくていい……でも、碧を好きになって、好きになるほど、辛くなって、もし、碧も居なくなったらって考えたら、好きなんて言えなかった……けれど、佐々木に取られるのは嫌だったし、碧なら離れて行かないかもって思ったんだ。」 「ちひろさん……」 西島がどんなに傷ついていたか、その言葉でわかる。 碧はもし、自分が西島の立場だったら?って考えてみた。 大好きな両親と兄と姉、そして、祖母に祖父。 いきなり引き離されて、ひとりぼっちで知らない家で暮らさなきゃいけないなんて、自分なら、きっと、毎日泣いて、悲しすぎて死んでしまうかも知れない。 それを西島は耐えてきた。 自分よりも、もっと幼い子供が。 今の自分の年齢でさえ、耐えられない。 一人暮らし始めても、週末には家に帰っていた。 西島はそれさえもできない。 ずっと、ずっと、1人で耐えてきたんだ……。 碧は西島をギュッと抱きしめて、 「ちひろさん、もっと、僕に甘えていいんです!!悲しかったら泣いてください!!僕が側にずっといますから」 そう言った。 「わしもおるばい、ニッシー。酔っ払わないと本音が言えんとは辛か話ばい!碧は子供みたいに見えてちゃんと、しとる!!ワシはニッシーよりもじいさんばい?心の中、さらけ出してと良かと!」 諭吉がポスんとベッドに飛び乗り、西島の髪を毛づくろいを始める。 「碧!!!諭吉!!!優しいなあ…おれ、ほんと、碧と諭吉に会えてよかった。碧の家族も好き!!昔の家に戻ったみたいな感じになれるから」 西島もギュッと碧を抱きしめる。 「はい!!僕も兄達も、みんな、ちひろさんが好きですよ?夏姉ちゃんはいつも、ちひろさんの話聞いてくれるし」 「家族の仲間に入れるかなあ?」 「はいれますよ!!ううん、とっくに家族ですもん!」 碧がそう言うと西島はありがとと耳元で呟き、その後直ぐに寝息が聞こえてきた。 「ちひろさん?寝ちゃいました?」 西島の身体を揺するが返事がない。 碧は西島の下から、よいしょと抜け出して、彼の顔を覗き込む。 長いまつげが濡れている。 もしかして、泣いてた? 碧はそのまつげを指先で撫でた。 「ほんと、ニッシーは子供ばい、碧より子供やなかや?」 「ふふ、子供っぽいちひろさん、僕好きです」 碧は西島の頭を撫でる。 もっと、僕に甘えていいですよ、ちひろさん!!! なんて、心で言いながら。 「なあ、碧……」 「はい?」 「気のせいか?ワシの言葉、聞こえとる?」 諭吉の言葉に碧は目を見開いて諭吉をみた。 「僕の名前呼んだ?」 「呼んだばい……会話が成り立っとう」 諭吉は碧を見つめる。碧も諭吉を見つめる……諭吉の姿がボンヤリと涙で霞む。 「諭吉…僕、諭吉が言ってる事わかるよ……」 「ん、そうやな!!やっと、声が届いたな碧!!」 そう諭吉が言うと碧は諭吉をギュッと抱きしめた。 「諭吉、碧って呼んで?」 「なんや、碧、なんば泣きよるとか?碧もやっぱ、子供やな」 「……子供でいいよ。今は子供でいいもん。諭吉の声が聞こえてる」 碧は涙をポロポロと零している。 諭吉!!!!諭吉の声が聞こえるよ? 凄く懐かしい声。 「碧、ワシの声聞こえんとにいつも、話かけてくれてありがとな」 「うん、うん…諭吉もたくさん、話聞いてくれてありがとう…諭吉の声だ。諭吉が喋ってる」 「うん、そうばい、喋っとるばい」 「諭吉……大好きだよ」 「知っとーばい!!ワシも碧が好いとーばい。」 「諭吉……いっぱい、話せるね」 碧は涙で顔がくしゃくしゃだった。 その涙をぺろりと舐める諭吉。 「しょっぱいな」 「うん…あした、ちひろさんビックリするね」 「そうやな。自分のせいで、ワシと話せなくなったって凹んどったもんな」 「ふふ、話できるのはちひろさんのおかげかもしれないね。」 「そうやな」 これから、たくさん、たくさん、話をしたい!! 話せなかった時間の分だけ、たくさん話たい。 また、話せるようになって嬉しい。

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