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愛されるという事。

◆◆◆ 「ちひろさんおはようございます」 西島が目を開けると碧の可愛い笑顔が視界に入ってきた。 あれ?此上は?と思った。 「此上は?」 「此上さんなら昨日帰りましたよ?」 碧の返事に昨日?と思った。それに碧はおはようございますと言ったような? 「昨日?」 「はい。もう朝ですよ?」 げっ!!朝だとおお!! 西島は勢い良く起き上がる。 「でもまだ6時前ですから大丈夫ですよ?」 ニコッと微笑む碧。 「ちひろさん、昨日お風呂入ってないから朝から入りますか?僕、お湯入れてきますね」 碧はそう言い残すと寝室を出て行った。 また……やらかしたか。 昨日の記憶がほとんどない。 「ニッシーどげんしたとや?」 諭吉が考え込む西島の側に来た。 「また、寝てしまったなって思って」 「何や?今更やん?気にしとったとや?」 「当たり前だろ?いい歳こいた大人が酒に弱くて寝てしまってベッドに運ばれるとか」 「いいやん、ニッシーは中身お子ちゃまやし」 「なんだそれ?」 西島はちょっとムッとする。 「最近、ニッシーの中の子供がチョロチョロ顔出すようになってきたやん、人見知りっぽかったけん、中々顔出す出さんやったけど、1人で泣かなんで良かごとなってきたけん、出てくるようになったとやろな」 「……だから、何だよそれは……」 諭吉の言葉はちょっとズキっときた。 前にも言われた事だ。ニッシーの中には泣いている子供が居るとか何とか。 言われる前は気付いていなかった、小さい頃の自分。その自分が心のどこかにまだ居座っている。 それに最近、本当だと気付いた。 ちょいちょい、懐かしくなったり過去を思い出すのはその自分が表に出て来ようとしているからだ。 「良か傾向やとワシは思うぞ?ニッシーが心ば開いてくれてるって事やろ?ワシや碧や此上や神林に」 「別に閉ざしてたわけじゃないし」 「本人はそう思うとかんば辛かもんな!ニッシー、人間も動物ぞ?忘れる事ができんこといっぱいあると、ばってんな、忘れる振りばしとるだけさ、そいけん、ふとした時にそいが出てきて変な事件とか起こるっちゃないとや?」 「諭吉、お前って前世人間だろ?いや、中に小さいおじさんが入ってるんじゃないか?」 西島は諭吉の背中を撫でる。ここら辺りにファスナーとかありそうなだっと馬鹿げている想像をしてしまう。 「ワシは中身じいさんばい、いくつやと思うとっとや?」 「いや、そういう意味じゃなくて」 西島はそう言って笑い出す。 諭吉は本当に最高だな?と笑いが出てしまうのだ。 「諭吉ってほんと、最高」 「そうや?昨日も此上に諭吉師匠っち呼ばれたばい」 「あはは、確かに諭吉師匠だな」 西島は諭吉を持ち上げて自分の胸に抱き締める。 「モフモフの毛玉め!!」 西島は諭吉の毛玉に顔を埋める。 「止めんか、こしょばいかぞ!」 「いんや、やめん!」 西島は頭をグリグリと押し付ける。 「やーめーろおお!!」 諭吉の声が寝室に響く中、「何やってるんですか?モフモフ体感ですか?諭吉の毛は気持ちいいですもんね」と碧が戻ってきた。 「お風呂、お湯入りましたよ?」 その言葉で諭吉は解放されたのだった。

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