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愛されるという事。3話

◆◆◆ 泊まる宿だけを決めた行き当たりばったりの小旅行。長崎市内を観光して温泉宿に泊まるというざっくりとした内容を車内で話す2人。 目的のケーキ屋は明日寄ろうという事にした。持って帰りたいからだ。それに楽しみは後での方がワクワクが続くのでヨシとした。 碧は小学生の時に修学旅行で来たっきりで西島も同じだった。 福岡から結構近いのもあっていつでも行けると思ってしまうから結局は行かないパターンなのだ。 「ハウステンボスも行きたいんですけど、離れてますよね?」 「そうだな……佐世保市だから1時間半はかかるな、長崎からは」 「そうですよね」 ちょっとしょんぼりの碧。 「イルミネーションのCMをやってたから」 「あー、そうか、宿はハウステンボスで取れば良かったな」 「気にしないでください!今度はハウステンボスメインで行けばいいので」 ニコッと笑う碧。 「そうだな、また碧と旅行したいし」 西島はそう言って碧の頭を撫でる。 「いっぱい、旅行行きたいです」 西島とならどこでもいいのだけれど、イルミネーションや綺麗な場所、そういう所は好きな人と行きたい。 「ワシもいくばい」 諭吉も声をあげる。 「もちろん連れていくよ」 「マグロの1本釣りとかいかんとや?」 「行けるわけないだろーが!お前はマグロ、マグロとうるさいんだから」 西島は文句を言いながらも笑っている。 ◆◆◆ 長崎市内の地図をスマホで出してめぼしい観光地を探す。 眼鏡橋、亀山社中、オランダ坂、中華街と色々と出てくるし、グルメも出てくる。 そのグルメをガン見していたのは諭吉。 「ニッシー、角煮まんじゅうばくいたかけん、買え!」 「ばか!あれは醤油とか濃いから猫はダメだ」 「なんやけちくされ!」 諭吉は西島の腕を猫パンチする。痛くもないし可愛いだけなのだが「けちくされ言うな!お前の為だ」と言い返す。 「ワシはお前らより早う死ぬとばい?生きとるうちに美味しいもんば食べたいと!」 「ばーか!長生きしてほしいからダメなんだろーが!」 「なんやバカニッシー」 車内で言い合う成人男性と猫。碧は声を出して笑う。 「仲良しですねちひろさん」 「だ、だって諭吉が……」 猫と真剣にやり合うのが恥ずかしくなったのか西島の顔は少し赤い。 「諭吉も我慢して、ちひろさんはケチじゃないよ?」 碧は諭吉の頭を撫でる。 「フン!碧に感謝しろよニッシー」 諭吉は諦めてくれた。 喧嘩も終わったので車を駐車場に停めて観光に繰り出す2人と1匹。 ◆◆◆ 「あれ?西島くんは?」 専務が神林の所へ顔を出す。 「あ、今日は有休取ってますよ」 神林もさっき聞いたばかりだった。 「碧くんも?」 「そうみたいですね」 「へえ、仲良しだね。有休とって何してるんだろう?」 「わかんないです。急に決めたみたいで」 「そうか……ね、今夜、此上くんと家においでよ」 「えっ?今夜ですか?篤さんに聞いてみます」 「うん、彼には僕から電話するよ、神林くんが都合が大丈夫ならおいで」 人懐っこい笑顔に神林はつい「はい」と返事をした。

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