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もっと僕に甘えてください。 4話

◆◆◆◆◆ 碧と諭吉は色んな話をした。 今まで話せなかった時間を埋めるように。 諭吉は碧の毎日を見てきて知っているのだが、それでも話足りない。 「碧は良く頑張ったばい。まさかニッシーと一緒に暮らすまでになるとは思わんかったな」 「えへへ、僕もビックリだよ。ずっと、見てるだけだと思ってたもん。」 「勇気ば出せば、ちゃんと返ってくるとな……ニッシーはまだ、ちゃんと全部は見せてなかけど、その内見せてくれるやろうな」 「うん……ねえ、諭吉は、いつものちひろさんが本当だと思う?それとも酔った時の甘えん坊のちひろさんが本当かな?」 碧は眠る西島の頭をなでる。 「両方、ニッシーやろうな。ただ、酔った時だけ、心に閉じ込めとる子供のニッシーが顔ば出すとさ。不器用なんやろうな」 「我慢してたのかな?幸せじゃなかったのかな?」 「幸せやとわざと気づかずに来たんやないかな?」 「どうして?」 「さっき、言うとったやろ?もう無くしとうないって、幸せを願うと無くなるって思っとっとやろうな」 「そんなコトないのに!!」 「普通はそうばい!!ばってんな、1度味わうと、そうそう、忘れられんとさ。人間は、直ぐ忘れるって言われとるやろ?ばってん、ワシら猫や犬はずっと、覚えとる。怖かったこと、悲しかった事は特にな。命に関わるやろ?」 「うん……」 「ニッシーは子供のうちに大きな哀しい事と強い事ば同時に体験したけん、忘れられんとさ」 「忘れられない……のかな?」 「今まではな。ばってん、碧に会うて、少しづつ、変わってきとるみたいやしな」 「ほんと?そう思う?」 「思うばい!!碧がこれからも、大丈夫ってニッシーに教えてやれば良かとさ」 「うん!!」 「ほら、碧ももう寝ろ、朝起きられんばい?」 「うん、そうする、諭吉、一緒に寝よ!!」 碧はシーツを上げて、西島の横に滑り込む。 諭吉もシーツの中に滑り込んだ。 「おやすみ碧」 「おやすみ、諭吉」 碧は諭吉をギュッと抱きしめて眠りにつく。 ◆◆◆◆◆◆ 「はい、コーヒー」 「すみません」 此上からコーヒーが入ったカップを受け取る神林。 突然の告白にパニックになり、頭が真っ白になった神林を落ち着かせる為に此上がコーヒーを持ってきてくれたのだ。 「アルコールが良かった?」 「いや、それはちょっと」 「残念、酔わせてからもう1回やろうかと思ったのに」 此上はそう言って笑う。 「気づかなかった?」 「えっ?」 「君が好きだって」 「……はい、すみません」 神林は俯く。 「まあ、気づかないよね?君はちひろ、一筋だから」 西島の名前にピクリと反応する神林。 あ……そうだ、俺、ちひろが好きな人と寝て、そして、告白されたんだ。 それってどうなん? 俺はちひろの友達なのに。 友達が好きな人と…… 俺、最低だあ!!!! 「上向いて!」 此上の言葉で、咄嗟に反応して上を向いた。 チュッ!! 唇にキスされた!! でええええ!!! 動揺する神林。 「おっと、」 此上は神林の手を掴む。動揺で、カップが揺れたからだ。 「火傷しちゃうよ、気をつけて」 「だ、誰のせいですか!!」 そう叫ぶ神林の顔は真っ赤だ。 「さっきまで、セックスしてたのにキスで動揺するって、トオルってかわいい」 「ちょ、からかわないで下さい」 「からかってないよ?俺はいつも、君に対しては真剣なんだけど?」 なんで…… なんでこの人は恥ずかしくなるセリフを真顔で言えるの? 神林は余計に恥ずかしくなってしまう。 「ほんと、君って直ぐに顔に出るね」 クスクスと笑われる。 どうせ、そうですよ!!佐々木やちひろからも散々言われてきたし!! 「そういう所も好きだな」 「ちょ、だから!!もう……」 からかわないでって言いそうになるのをグッと堪えた。 真剣だよ?って言われたのだから、きっと、この言葉もからかってはいない。 「いつからですか?」 「君を好きになった時期?」 「はい」 「初めて会った時からずっとね。自分でも、ショタコンか!!って突っ込みたかったのを覚えているよ。でも、君は凄く可愛くて、そして、ちひろが好きなんだなって、直ぐに気づいたけど、諦める理由にはならないだろ?」 ……そんなに? ちょっと、びっくりした。 「いま、ストーカーか?キモイとか思った?」 その言葉に神林は首をブンブンと振る。 「あ、良かった、ドン引きされるかと思っていたから」 「引かないです」 神林はそう言って俯いた。 引かない……でも、申し訳ないと、思った。 そんなに長い間、気づかなかったから。 「もしかして、いま、俺に悪いって凹んでる?」 顔を覗かれて神林は素直に頷く。 「いいんだよ。勝手に好きでいたのはこっちなんだからさ」 ふわりと頭に手を置かれた。 凄く懐かしく思った。 慰めて貰った記憶が蘇る。 此上さん……ほんと、俺に優しすぎです!! 神林は我慢出来なくて、涙を零した。

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