262 / 526
もっと、僕に甘えてください。 9話
◆◆◆◆◆
「神林!」
「おわ!!!」
佐々木に肩を叩かれた瞬間、神林は驚きの悲鳴を上げる。
「なに?なに?どーしちゃったの?驚いて」
興味津々な顔。
佐々木のその顔は何かを企んでいるというか、何かを知っているぞ?って顔だと長年の付き合いで神林は知っている。
「恋人の事、考えてたのかな?青春だねえ」
ニヤニヤして、背中をバンバン叩いてくる佐々木。
ああ!!くそ!!完全に面白がっている。
「何の用だよ?」
ぶっきらぼうに答える。
「否定はしないんだな」
さらにニヤニヤしている佐々木。変に色々誤魔化してもコイツは茶化してくる……なんて神林は考えている。
確かに此上の事を朝から考えている。
彼と一緒に部屋を出てきて、会社の近くで別れた。
別れ際に今夜何食べたい?なんてまた聞かれて、つい、食べたいものを答えてしまった。
だから、今夜も……。
彼はグイグイ行くからな!!なんて、自信満々な顔で宣言してきて、どうしようなんて悩むくせに、嫌だとは思えない。
拒む事だって出来るのに。
自分が分からないのだ。
ああ!!俺って、結構優柔不断……いや、優柔不断って言葉であってるのか?
良く分からない。
「はいはいはい!!恋に悩む青年の百面相見に来たわけじゃない。ほんと、自分の世界に入るよな?お前も千尋も!」
神林の目の前で手を叩く佐々木。
「朝からずっと、そんな調子だろ?ほんと、お前どーした?」
「えっ?あ、いや、そんな調子って?」
「朝、声かけても眉間にシワ寄せたままスルーして行くし、挙句にため息ばかりついてるってココに来た奴らが言ってたから見に来たわけよ」
「あ……」
ああ、そう言えば数人、頭痛薬貰いにきたり、湿布貰いに来たりしてたっけ?
俺、ため息ついてたのか?
自分がやっている行動でさえ、分からないでいる。
「で?どーしたんだ?」
佐々木に詰め寄られて神林は後ろに下がる。
どうしよう?
1人で悩むのは怖いというか、深海まで気持ちが落ちそうで嫌だから、誰かに……って思うけど、佐々木は……。
うーん!!!っと神林は悩む。
佐々木は一件軽そうに見えるが意外と口がかたい。
高校時代は良く相談されていた方だと思う。
それに佐々木も同性愛者で、恋人は男だ。
こういう話は一般の人にすると、あっという間に広められてしま
、だろうし、ドン引きされてしまうだろう。
「と、友達に相談されてて、それを考えてた……」
咄嗟に出た言葉。
「何の相談?」
「こ、告白されて」
「へえー、付き合うの?」
「いや、悩んでるって」
「なんで?」
「そ、それは……えーと、あの、友達の話だからな!!!」
神林は一瞬、話すのを躊躇う。
「はいはい!良いから話せよ」
まあ、直ぐに佐々木に急かされるのだが。
「……えっと、告白された相手が友達の友人がずっと好きだった相手で……その友人が前に入院する程、悩んだ相手で、その友達のせいで、留学とか……しちゃって。告白してきた人はその友達をずっと好きだったって」
ずっと好きだった……
此上の言葉が頭の中でリピートされる。
どうしたらいいんだろ?
千尋が悩んでいたのは俺のせいで、留学したのも……心の病で入院したのも、全部俺のせい……
好きな人を追い詰めていたのはまさかの自分。
考えても仕方のない事を何度も何度も考えてしまう。
「その告白した人には返事は?」
「えっ?……あ、まだ」
「まだ?なんでしないの?」
「だって……」
「お前はどうなんだよ?」
「俺?俺は……」
と言いかけて、「ち、違うよ!!友達の話だってば!!!」
「お前だろ?その首筋にキスマークつけた人」
佐々木の言葉に慌てて、首筋を押さえようとして、
「何度も引っかかるかよ!」
と言い返す。その言い返した時点で既に引っかかっていると神林本人は気付いていない。
「いや、マジでついてるから」
佐々木は襟首をグッと掴み神林の肌を露出させると小さな鏡を渡す。
鏡には赤い印が映り込んでいて、神林の顔は一気に赤くなる。
「此上さんなんだろ?相手」
名前を出されてしまった。
友達の話が自分の話って良く聞く。
バレないわけがないと思いながら話した自分はきっと、話を聞いて欲しかったんだと思う。
神林は静かに頷いた。
「お前と千尋ってさ、嘘つくの下手って気づいてる?」
ニヤニヤ笑われて、気付いていないと首を振る。
「ほんと、わかりやすいよな。」
ドンマイ!!なんて、佐々木に言われ、神林は苦笑いをする。
「話、聞いてやるけど?」
そう言われ、神林は覚悟を決めた。
◆◆◆◆
ちーちゃんの話って何かしら?
ミサキは自分の車の中で西島と碧を待っている。
しばらくすると、2人が出てきた。
仲良さげに歩いてくる。
碧が幼く見えるから兄弟のようだ。
親子には見えない。
あの2人って何で一緒に居るのかな?
碧くんも会社休みなのかしら?
色々と考えてみるが答えには行き着かない。
そして、西島がミサキの車の窓をノックする。
窓を開けると、
「マンションにこのまま帰るからついて来い」
と言われた。
「えっ?ちーちゃんの部屋行っていいの?」
ミサキは驚く。
だって、1度も部屋に上げて貰った事がない。
「特別!」
ちょっと、上から目線じゃない?なんて返したかったが、言い返すと部屋に呼んでくれなくなりそうで我慢した。
「わかった!」
そう言うと鍵を回しエンジンをかける。
西島も荷物を乗せ、碧が車に乗り込むのを確認すると車を走らせた。
「ち、ちひろさん……き、緊張します!!」
碧は西島の隣でかしこまって座っている。
「緊張なんてしなくていい。ただのミサキだ」
笑って答える西島。
「お、お姉さんですから」
碧の心臓は破裂するんじゃないかってくらいに心拍数がかなり上がっていた。
ともだちにシェアしよう!

