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もっと、僕に甘えてください。 16話
◆◆◆◆◆
えーと、何だろう?この気まずい雰囲気は?
此上が運転する車の助手席で、神林は悩んでいる。
チラチラと彼を気にするように見るが不機嫌そうに見えるのだ。
俺……何かやらかしたかな?
怒らせるような発言しちゃったとか。
神林は先程までの会話を思い出してみるのだが、どこに地雷があったのか分からない。
何だろ?
あ、もしかして、昨日とか?朝とか?
うーん!!
腕組みをして考えるが思い当たる節がない。
本人に聞いてみる?
えっ?何って聞く?
俺何かしましたか?とか?
神林は眉間にシワを寄せながら悩む。
◆◆◆◆◆
助手席に座る神林が1人で百面相をして、腕組みをしている。
時に首を傾げたり、項垂れたり。
挙句に首をブンブン振ってみたり。
その様子は此上には微笑ましく映って、会話を振るのが勿体ないな?なんて思っている。
チラチラと自分を見たりするから、その仕草の原因は自分なんだと分かる。
分かるからこそ、見ていたい。
ドSだな。って自分でも思った。
◆◆◆◆◆
神林の部屋に着いた。
神林の真後ろに居る此上が気になる。
「入らないの?」
此上がようやく、言葉を話してくれて、嬉しくて振り向いた。
あれ?何で嬉しいんだろ?なんて、思いながら。
「は、入ります」
神林はドアを開けて、中へと此上と一緒に入る。
ドアが閉まり、内鍵を閉めようとドアに手を伸ばした神林の手を急に掴む此上。
驚いて、彼の顔を見た瞬間、身体が反転し、ドアに押し付けられた。
何?
そう声に出そうとしたのを唇で塞がれた。
「んんっ、」
声が漏れる。
神林の口内に此上のヌルっとした舌が侵入してきた。
ここ、玄関!!!
神林は此上を押し退けようとするが、腕を掴まれる。
何、この体力の差は?
ビクともしないよ。
俺だって男なのに……
此上を押し退ける事さえできない神林はキスされながらも凹むという複雑な感情を抱いている。
そして、ようやく離れた唇。
突然のキスに、「な、なんか怒ってますか?」と此上に聞いてみた。
「怒ってる」
即答された。
えっ?ええっ?なんで?どこで怒りかったんだ俺?
「ど、どうして怒ってるんですか?」
「……遠くから見たらね、本当に女性を泣かしているように見えて、嫉妬した……近くに行ったらミ
サキちゃんだと分かっても凄くイラついた。」
「お、俺が泣かせたわけじゃ……」
焦る神林。
「分かってる。分かってても、嫉妬するくらい君が好きなんだよ」
その言葉に神林は顔が熱くなった。
本当にこの人は情熱的過ぎるだろう!!
こんなに好きや愛してるを言葉にされた事が無かった神林。
自分自身でさえ、言葉にあまりしないのに。
「顔が赤いけど?」
それはアナタの所為でしょ?って言えたらなあ!!!
「それと、千尋の話するとやはり君は切なさそうな表情するよね?そんな顔させる千尋が羨ましいし、嫉妬さえしてしまう」
「嫉妬って……」
西島に嫉妬される側かも知れないのに、此上にそんな風に言われると複雑だ。
「するよ、嫉妬……」
此上はそう言うと神林の前で背を屈めたかと思うと、簡単に肩に担いだ。
「ちょっとおおお!!!」
急に視界が変わった。
此上と向き合っていたのに、今は床が視界に入る。
ジタバタ暴れようかと思うが彼も自分も危ないよな?って、瞬時に冷静になってしまう自分が凄いと思った。
担がれたまま、着いたのは寝室。
寝室に来るとする事はひとつ。
ドスンとベッドに下ろされて、思った通りに押し倒される。
「ま、待って!!俺、汗臭いです!!」
咄嗟に叫ぶ神林。
押し倒した此上は抵抗されるのを覚悟していたのに、まさかのその台詞。
神林を押し倒したまま、爆笑した。
「ちょ、ちょっとお、そんなに笑わなくても……」
笑われて神林は少し戸惑う。
「トオルらしいなって……本当に君は最高だよね」
此上は笑いながら、彼を見下ろす。
「何ですか?そのらしいって」
「可愛いって事だよ」
「か、可愛くないです!!可愛いって言うのは碧ちゃんみたいな子を言うんですよ?」
「残念ながら、俺はその碧ちゃんを見た事ない」
「そ、そうですけど」
「トオルは自分の魅力に気付かないからね」
「み、魅力なんてないです!!」
「あるよ?凄く、綺麗な顔してる」
此上は神林の頬に手をあてる。
「き、綺麗じゃないです!!千尋じゃあるまいし!!」
「俺は千尋より、君に魅力感じるし、綺麗だとも思う」
本当にこの人は……
なんで、こうも照れるような事を……
「顔、赤いよ?」
「アナタのせいでしょ?」
「俺のせいなら嬉しいな」
「なんで、そうポンポンと赤面するような言葉出てくるんですか?」
「それは相手が君だから……君を自分のモノにしたいから徹底的に口説くって前にも言っただろ?」
「そ、そうだけど……」
「君が俺の事でいっぱいになるくらい口説くから」
此上はそう言うと唇を重ねてきた。
神林もそのキスに応える。
「お風呂……一緒に入ろうか?」
そう言われて、神林は頷いた。
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