270 / 526

もっと、僕に甘えてください。 17話

◆◆◆◆◆ 「ちひろさん、ニャンコにご飯あげてきます」 碧は猫達のご飯を容器に詰める。 「待て、一緒に行こう」 西島はそう言って上着を手にすると同時にタイミング悪く電話が鳴った。 クソ!!!誰だよ?と表示された名前を確認すると、会社関係者からで出ないわけにはいかない。 「悪い、先に行っといてくれる?後から行くから」 「はい」 スマホを手にしている西島に手を振って碧は玄関へ。 後ろから小さな足音がついくる。 「わしも行くばい」 「うん。一緒に行こう」 碧は諭吉と一緒に公園へ向かう。 坂を下りて、数分の公園が見えてきた。 公園にはブランコと滑り台とドカンのような潜り込める遊具が少しとベンチがある。 夕方近くになると、誰も居なくなる公園だけど、今日は珍しく誰か居た。 ベンチに座る男性。 碧の祖父と年齢が変わらないように見える。 近くの人かな? 碧はその男性をチラリとみる。 男性の足元には公園の猫達が居て、何か食べている。 ああ、この人も公園の猫達にご飯あげてる人かあ!! 碧は嬉しくなった。 そして、男性が碧に気付いたように視線を向けてきた。 「こ、こんばんは」 碧は咄嗟に頭を下げた。 「こんばんは」 男性はニコッと微笑む。 その笑顔は凄く優しそうで、親しみが湧く。 「お散歩してるんですか?」 「……そうだね。ここの前を通ったら猫達が来てね、お腹空いてるみたいだったから、この先のスーパーで食べ物買ってきたんだよ。」 碧の質問にニコニコ笑って答えてくれる男性。 自分の祖父と重なる。 「君は?あ、もしかして、君もご飯あげに来てるのかな?」 男性は碧が手にしている容器を指さす。 「はい」 「そうか、だからこの子達は人懐っこいのかな?」 男性は猫の頭を撫でる。 「にゃー」 諭吉が男性の近くに行く。 「この子も公園に住んでる子かな?」 「あ、いえ、それは僕の猫です」 「名前は?」 「諭吉です」 「諭吉かあ。こんばんは」 男性は諭吉の頭を撫でる。 「にゃー」 「おお、凄いね。ちゃんとこんばんはって言ってるみたいだね」 男性はそう言って碧に笑いかける。 本当に優しく笑う人だなって碧は感じた。 「ベンチに座るかい?」 男性は碧に手招きする。 「はい」 碧は男性の隣に座る。 「近くに住んでるですか?」 ベンチに座ると男性に話しかける碧。 「うん、そうだね。君は?」 「僕はこの坂の上のマンションです。」 「御両親とかな?」 「いえ、僕の実家は隣の県で農場してて」 「じゃあ、兄弟の誰かと?」 「えっ?いえ、その……」 恋人と!!!と言いたいけど、恥ずかしい。 「中学生とかじゃないの?」 中学生!!! 男性の言葉に碧は「ぼ、僕、社会人ですう!!!」と思わず力んでしまった。 「おやおや、そうなのか!!ごめんね。凄く可愛らしいから。初めみた時は女の子かとも思ってしまったし」 男性はゴメンゴメンと笑う。 その笑顔が凄く良くて碧も一緒笑ってしまう。 「僕、もっと大人っぽくなりたいなあ」 「どうして?君は可愛くて凄く良いと思うよ?」 その可愛いがちょっと、って言いたい。 可愛いは男に言う言葉じゃないよね? 「早く大人にならなくてもいいんだよ?ゆっくり、ゆっくりとね。気付けば大人になって、私みたいなおじいちゃんになってるよ?安心して。時間は平等だからね」 男性はそう言って碧の頭を撫でた。 ふわりとした感触。碧の祖父と同じ優しい撫で方。 「あっと、すまない。社会人だったね」 男性はそう言って笑う。 「大丈夫です。おじ……いえ、祖父みたいだなって」 「そうだね。君のおじいさんと年齢は同じくらいだからね」 「あ、あの、僕、碧って言います」 碧は突然、自己紹介。 「あおい……綺麗な名前だね?漢字はどう書くの?」 「へき……みどり?」 「綺麗な漢字だね。 美しく光り輝く青色の玉のような色……君に良く似合っているね。美しくあおく輝く。」 碧は顔を赤くしてしまう。 そんな風に言われた事がない。 「僕が生まれた空の色が碧みたいな色だったからって」 「名は体を表すって言うけど、本当だね。君は光り輝いているみたいに可愛く笑う」 どひゃー!!!! お、おじいさん!!!すごい、凄いです。そんな言葉をスラスラ言うなんて!!僕、照れてしまいます。 碧は顔が熱くてたまらない。 「お、おじいちゃん!!」 つい、サラッとおじいちゃんと言ってしまい、碧は慌てて「す、すみません!」と謝る。 「いいよいいよ、おじいちゃんだから。」 男性は笑ってくれる。そして、ポケットから懐中時計を取り出して時間をみる。 「あ!!それ、懐中時計」 碧は男性が手にしている懐中時計に食いつく。 「懐中時計知ってるの?」 「おじ、あ、祖父が沢山コレクションしてるんです。それ、高いモノでしょ?」 「そうだよ?良くわかるね」 「はい。小さい頃から懐中時計とか見に祖父に連れて行かれてたから」 「君は……凄く面白い子だね。こんなおじいちゃんと話をしてくれる」 「えっ?だって、諭吉が懐く人ってみんな、優しい人って分かるから」 そうなのだ。諭吉が率先して撫でられに行く相手は良い人ばかりなのだ。 「へえ、この猫ちゃんに選ばれたのかな」 男性は諭吉の頭を撫でると立ち上がる。 「そろそろ行くよ。家の者が心配しているだろうから」 「えっ?はい。また」 碧は男性に微笑む。 「またね。碧くんと諭吉。また、お喋りしようね」 男性は碧に手を振って公園を後にした。 「優しそうな人だったね諭吉」 「そやな」 「また、会えるかな?」 「会えるじゃろ?近くに住んどるいうとったけん」 「僕、おじいちゃんとかおばあちゃん好きなんだよ。話してて楽しいでしょ?色んな事知ってるし、助言もしてくれるもん!!あのおじいちゃんも、僕の名前を綺麗だって」 碧はふふふ、と嬉しそうに笑う。 「そげん嬉しかとな?」 「うん、僕、自分の名前好きだもん。だから、嬉しい。」 そんな会話をしていると、西島がやって来た。 「ちひろさん、聞いて下さい!!」 碧は今しがた男性に名前を褒められた話をした。 「凄く優しそうなおじいちゃんでした。近くに住んでるって」 「そうか、でも、気をつけろよ?」 碧に話を聞いて、少し心配をする。おじいちゃんとはいえ、今の世の中、変な事件も多いから。 「大丈夫ですよ!諭吉が懐く相手は良い人ばかりですもん」 「そうばい、あのじいさんは犯罪の臭いはせんやったし、人が良い普通のじいさんばい」 諭吉にもそう言われ、「なんかあったら、ちゃんと言う事!!」と碧の頭を撫でる。 「何もないですよ!!ちひろさんも会えば分かりますよ」 「ほんと、ニッシーは過保護ばい」 諭吉は尻尾で西島の足をパシッと叩く。 「うるさい!」 「うるさいは良かばってん、ニャンコがご飯待っとうばい」 諭吉に言われ、ニャンコがちょこんと、隅に座っているのに気付いた。 「にゃんこ」 碧は容器からキャットフードを出して離れた場所に置いた。 にゃんこは鼻先をフンフンとさせ、容器の方へと行き、静かに食べ出す。 ゆっくり、ゆっくりと。 「可愛いなあ。にゃんこ」 碧はその場にしゃがみ、にゃんこが食べる姿を見ている。 にゃんこも可愛いが、にゃんこをニコニコしながら見ている碧がかなり可愛いと悶える西島だった。

ともだちにシェアしよう!