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もっと、僕に甘えてください。 22話
「もしもし……」
慎重に電話に出る神林。
「遅くなるって仕事?」
「……いえ、違います」
自分がやましいと思っているのか此上の声に迫力があるように感じてちょっと、ビクビクする神林。
嘘なんてつくとまた顔に出るだろうし、嘘つかれたら此上だって嫌な気持ちになるだろう。だから、
「千尋の部屋に……あいつ、車買うからって相談されて」
「…………へぇ」
帰ってくる返事に間が空いててさらにビクビクする神林。
どうしてこんなに自分はビクビクしているのだろう?と思ってはいるが、ビクビクしてしまうのだから仕方ない。
「夕食はどうする?」
「えっ?帰ってから食べますよ?」
「いや、千尋の事だから飯は作ると思う」
あ、確かにそうだ。作りそう。
「で、でも、帰ってから食べますから!!」
「……何、テンパってるの?」
クスクスと笑い声が耳元に届く。
そんなテンパってるかな俺?
「いや、テンパっては……」
「必死な感じするよ?でも、それって俺に気を使っているって事だよね?千尋に会うから俺が気にするかも?って」
……うっ、この人ってば俺の心読み過ぎ!!
心の中で思っている事を言葉にされると何も言えなくなる。
「ヤキモチ妬くって思った?」
「うっ……いや、その……」
「妬くよ?特に千尋にはね。君はずっと、千尋が好きだったし」
くっ!!!本当にこの人は言いにくい事を。
「でも、いいよ。昨日、気持ちを聞いたし。千尋とどうこうならないと分かっているから」
どうこうって……どうもならない。
「なりませんから!!!」
「分かってるよ。俺は部屋で待ってていいの?」
「はい……あ、鍵!!!」
「そっちに取りに行くよ。じゃあ、後で」
そう言って此上は電話を切った。
なんだろう、ホッとした。どうしてホッとするんだろう?なんて考えると、答えは簡単!此上が怒っていないから。
それと同時にもうちょっとヤキモチ妬いて欲しいなあなんて、思ったりもする。
とりあえずは千尋に会いに行かなければ……と思って電話をポケットに押し込み、仕事に戻ろうと振り返る。
「うわあ!!!」
振り返って直ぐに悲鳴をあげた。
「ちょ、大丈夫ですか?」
目の前には斉藤。
「あ、いや、まさか、後ろに居るとか思わないから」
「声かけましたよ?」
「えっ?マジで?ごめん、気付かなくて、何か用事?」
「ベッド空いてないかな?って思って。昨日、あまり寝てないから」
斉藤はえへへと笑う。
「佐々木?」
「そう!!もう、ゆうちゃん激しいし、絶倫なんだもん!!」
「絶倫!!!」
確かに佐々木は絶倫そうだなと思う。それと、此上。
「なに、反応してるんすか?あー、もしかして、神林先生の恋人も絶倫とか?」
「ば!!馬鹿いってないで、ベッド空いてるからどうぞ!!」
神林は斉藤をグイグイとベッドの方へ押す。
「絶倫の恋人持つ同士仲良くしましょうよ?相手を楽しませる技術も俺、持ってますよ?ゆうちゃんに仕込まれてるから」
背中を押されながらもしつこくそう言ってくる斉藤。
さすが、佐々木と付き合っているだけあるな?なんて感動さえする。
「はいはい、もういいから寝なさい」
「いつでも相談乗りますよ?碧も俺に相談してくるし」
「碧ちゃんに何教えてんだよ!!西島に怒られるぞ!」
「恋人はエロい方が良いに決まってるでしょ?碧からは星夜くんのおかげで西島部長が気持ち良くなってくれるって言ってるし」
「お前は……」
「神林先生の恋人ってあのイケメンですよね?此上さん」
名前を出されて斉藤の口を慌てて塞ぐ。
「お前、それ、まだ、千尋に言うなよ!!」
斉藤は塞がれたままに頷く。
「分かったら寝ろ!」
神林は斉藤をベッドへと放り投げた。
佐々木が知ってるなら斉藤だって知ってる……
いつか、言うけど……言うつもりだけど。
あああ!!!!
千尋ごめーん!!ほんと、お前の好きな人と……
神林は頭を抱えてその場に座り込むのであった。
その様子を仕切られたカーテンの間から見ている斉藤。
ゆうちゃんの言う通りだよな……神林先生って面白い。
と面白がっていた。
◆◆◆◆◆
「ちひろさん、神林先生って何が好きなんですか?」
スーパーでカートを押しながら碧は西島に話かける。
「あ~好き嫌いは無かったな。」
「和食ですか?洋食?中華?」
「うーん、和食かな?神林は」
西島はそう言いながら野菜を見ている。
西島の近くにはピーマンがある。碧はそれが目に入りちょっと、ビクッと反応する。
神林先生、ピーマンとか食べれるんだろうなあ。
西島は碧がピーマンを見ているのに気付き、「大丈夫だよ、ピーマンは使わないから」と碧の頭を撫でた。
「あ、ちが、違います!神林先生はピーマンとか食べれるんだろうなって思っただけで」
碧は恥ずかしそうに言い訳する。
「俺も大人になってからピーマンは食べれたから無理しなくていいんじゃない?」
「ち、ちひろさんもピーマン嫌いだったんですか?」
「うん、食べれるようにって、よく此上……あ、世話してくれた人に無理矢理食べさせられてたな。懐かしい」
西島はニコッと笑ってピーマンを避け、その横の玉ねぎを手に取り、カゴに入れた。
うっかり、懐かしい名前を口にしたな。なんて、思いながら西島は食材を物色する。
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