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もっと、僕に甘えてください。 23話

◆◆◆◆◆ 「ちひろさん、お客さんが来るってワクワクしますね」 買い物を済ませて部屋に戻った2人は仲良く食事の支度をしている。 「そうだな」 ニコニコと嬉しそうな碧に微笑む西島。 お客さんが来るのがワクワクする……、そんな感情忘れていた。 子供の頃、友達が泊まりにきたり、両親の友達が来たりと訪問者が絶えなかった。 その頃は確かにワクワクした。 友達が泊まりくるワクワクや、両親の友達がお土産持って来てくれるワクワク。 碧に言われ、ふと、そのワクワクを思い出した。 楽しかった思い出は思い出さないようにしてい西島。 思い出すと恋しくなるし、もう戻れないと知っているから余計に泣きたくなるからだ。 子供時代はその楽しい思い出がフラッシュバックして彼を苦しめた。 心のバランスが取れなくて、食事が取れなくなったり感情的になったり。 その度に倒れて入院。 新しい家族に迷惑かけてしまったと、また、心を閉ざすの繰り返し。 西島の側に居てくれた男性が居なかったらとっくに自分は壊れていたかも知れないと思う。 大人になった今は望んでもどうしようもないという感情が記憶を薄れさせてくれたから思い出す事もあまり無くなった。 けれど、碧に出会って、その頃の記憶がたまに蘇るのだ。 でも、それは不思議と嫌じゃなかった。 ああ、そうだ、楽しかったと素直に思い出せる。子供時代のあの虚しさは全くない。 本当に不思議だ。 此上が知ったら驚くかな?なんて、思ってしまう。 そして、思い出そうともしなかった懐かしい彼の事さえ、動揺もせずに思い出せるようになっているのに気付く。 「ちひろさん、どうしました?」 何か考え事をしているように黙る西島に不思議そうに首を傾げる碧。 その姿が可愛くて、愛おしい。 「なんでもないよ」 西島は碧に微笑むとギュッと彼を抱きしめた。 「えっ?えっ?どうしたんですか?」 いきなりの行動に驚く碧。 「充電してる」 「えっ?充電?」 「うん、碧を充電してる」 西島はギュッと強く碧を抱きしめる。 碧は不思議な子だ。この子といると、悲しい思い出も楽しかったんだと思える。 愛には形がないと思っていたけど、そうじゃない。ちゃんと形をしている。 碧は愛の塊だ。 彼を抱きしめると幸せな気持ちになる。 「じゃあ、僕も充電します」 碧も西島の背中に両手を回してギュッと抱きしめる。 碧の温かい体温を感じる。そして、彼から香る甘い香り。 「好きだよ」 言葉にしないと勿体ないと思い、言葉にする西島。 「僕も!!僕もちひろさん大好きです」 顔を上げて西島を見上げる碧は頬が火照って可愛い。 好きという度に照れる碧。 「碧のその可愛さは本当に最強だな」 「えっ?」 意味が分からずキョトンとする碧。 「全部、好きって事だよ」 そう言うと碧の目がキラキラと輝き、パァーと花が咲くみたいに笑顔になる。 ちひろさんが!!ちひろさんが!!僕を全部好きって!!全部!! 僕も!!僕も大好きです。 「僕もです!!ちひろさんが世界一好きです」 嬉しそうに抱きつく碧。 好きって言うだけで、こんなに幸せな顔をしてくれる碧。 そうだ……碧が居れば俺はもう平気だ。 「いちゃついてる所すまんばってんがワシ、腹減っとーとばい」 諭吉の声がして、2人は離れる。 「えへへ、ごめんね諭吉。お腹空いてるよね」 照れたように諭吉に微笑む碧。 「邪魔ばっかしやがって!」 と拗ねる西島。 「ワシには関係なかばい!飯が先」 諭吉は尻尾でパシッと西島の足を叩く。 「いちゃつけって言ったり邪魔したり、本当に猫ってきまぐれだよな」 「そいは人間も一緒ぞ!人間よりは猫の方がわかり易かばい。ワシらは好き嫌いははっきりしとうけんな。人間は無理するやろ、嘘ついたりな。ワシらみたいに生きたら楽ばい?」 諭吉はかならず倍言い返してくる。しかも、言い返せない。 「まあ、ニッシーは碧に素直になってきたけん、よかろう」 ふふんと鼻を鳴らすと自分専用の容器の前にちょこんとと座り、ご飯を貰うポーズ。 いっちょ前な口きくけど、その猫らしいポーズに西島はつい、笑ってしまう。 ほんと、諭吉には敵わない。 「碧、冷蔵庫にマグロあるから諭吉に」 「えっ?いいんですか?」 「マグロううう!!!」 諭吉の目がキラリとハンターのように光雄叫びをあげる。 碧が冷蔵庫を開けると諭吉は我慢できないのか、「マグロううう!!!」と再度叫ぶ。 「もう!良い子にして!!」 碧はマグロが入ったプラスチックの容器を取り出しながら諭吉に怒る。 「ほんと、マグロ好きだな諭吉」 クスクス笑う西島は、本当に碧と諭吉に出会えて良かったって思う。 碧を好きになって良かったと心から思うのだ。 ◆◆◆◆◆ 「篤さん……なんで、ここまで」 神林はハラハラしながら駐車場に居た。 鍵を取りに来た此上に無理やり車に乗せられて西島のマンションの駐車場まで連れて来られたのだ。 「送りたかったから」 ニコッと微笑む此上。でも、笑顔の裏がちょっと怖いと思う神林。 「早めに帰りますから」 神林はシートベルトを外して車を降りようとする。 が、腕を掴まれて引き寄せられた。 「あつ……し」彼の名前を呼んでどうしたんですか?って聞く前に唇を塞がれた。

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