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もっと、僕に甘えてください。 24話
マジかー!!!!
神林は焦る。だって、ここ!!駐車場!!
人が通るかも知れないし、何より西島が来る可能性が高いのだ。
拒絶したら怒るかな?
脳裏に過ぎるから押しのけられない。
ヌルリと舌が口内へと侵入してきた。
「んん、」
ヤバイでしょ!!本格的なのは。
少し身体を引く。でも、直ぐに引き寄せられた。
ダメ!!
そう思いながら、拒否出来ない神林。
どうしてだろう、凄く興奮していた。
◆◆◆◆◆
「神林先生、何時頃来るんですかね?」
諭吉にご飯を食べさせ終わり、碧は時間を気にする。
会社は終わっている時間。
「そろそろじゃないかな?車は俺が借りてるから電車だろうし」
「じゃあ、僕、下まで見に行きます」
「電話すればいいだろ?」
「ニャンコ達にご飯もあげたいから」
「じゃあ、一緒に行くか?」
「はい!!」
碧は嬉しそうに返事をする。
猫達のご飯を容器に詰めて2人で玄関に。
「ワシも行くばい」
諭吉もトテトテと小さい足音をさせながら玄関へ来た。
「諭吉がいると、通訳して貰えるから助かる」
碧は靴をはくと、諭吉を抱き上げた。
◆◆◆◆◆
「んん、」
神林はいつの間にか此上の舌に自分の舌を絡ませていた。
息が荒くなってきた時に唇が離れた。
「ふふ、物足りない顔」
此上は神林の顔を見つめ微笑む。
「ちょ!!」
そんなわけない!!と言いたかったけど、興奮していたのには変わりはないからその先の言葉が出て来ない。
此上は神林が座る助手席にあるシートを倒すレバーを押す。
急にシートが倒れ驚く神林。
まさかここでする気?
慌てて起き上がろうとするのだが、此上に押さえつけられた。
「なにするんですか!!ここでする気ですか!!」
神林は少し声を上げる。
「大人しくして……千尋がいる」
「へ?」
神林は少し上半身を起こして外をみる。
!!!!
確かに西島がいた。
横には諭吉を抱いた碧もいる。
もしかして、自分を迎えに?
この状態を見られたら……
神林の心拍数はかなり上がって、口から心臓が出そうだった。
「あの子が碧ちゃん?」
此上は西島の隣でニコニコ笑う碧を見ている。
頷く神林。
「確かに可愛いね。……千尋、ショタコンだったのか?あの子未成年だよな?高校生?えっ?中学生?」
真顔で言う此上に、神林はたまらず吹き出す。
「確かにショタコンですね、千尋。でも、碧ちゃん社会人ですよ?まあ、未成年ですけど。それ、碧ちゃんに言うと拗ねちゃうから言っちゃダメですからね」
「声だけでも充分若いとは思ってたけど……見た目は本当に幼いね。ほんと……思った通りの子だね」
「えっ?」
「……あの子、昔の千尋に似てる」
「似てる?えっ?似てますっけ?」
似てるかな?と神林は考える。
「顔とかじゃないよ。雰囲気……引き取られる前の千尋はあの子みたいに幸せそうに笑う子だった。愛されて育った子供……愛情をたくさん貰った子供特有の笑い方」
「……俺の知らない千尋ですか」
「うん、君と会った時はもう、あんな風に笑わなくなってたからね」
「千尋、雰囲気変わったな……前の千尋みたいだ」
此上の目に映る西島は始終笑顔で、その笑顔は見た事がないものだった。
此上は懐かしむように、そして、寂しそうな表情で呟く。
「それ……俺も感じます。碧ちゃんに会ってから少しづつ変わって」
「トオルがあの子に劣等感持ったの分かる気がするよ。同じ気持ちだよ、凄いなあの子、俺だってあの笑顔は出せなかった」
「そう……碧ちゃん凄いんです」
「俺に言わせれば、君も凄いんだけどな」
「へ?」
「君も千尋を変えてくれた。俺はそう思っているよ。君の名前を何万回聞いたか分かんないくらいだし」
神林は目を大きく開いて此上を見ている。
「君もあの子も凄いよ」
此上は微笑む。
変わった……
此上に話を聞いても実感がわかない。
千尋、俺と居て楽しかった?
俺の話をするくらいに楽しかったのか?
色々と思い出そうとするが、ちゅっ、と軽く唇に何か触れた。
それが此上の唇だと直ぐにわかった。
「千尋の事、考えているだろ?」
「う……、いや、あの、」
目をそらすとバレると分かっているけど、目をそらす。
「まあ、いいや……君が好きなのは千尋じゃなくなったから」
ふふ、と勝ち誇ったような顔に神林は笑う。
「篤さんってもっと、大人だって思ってました。今の篤さん、子供っぽいですよ」
「それくらい好きだって事だよ」
ニコッと微笑まれ、照れる神林。
本当にこの人は……
「さて、後を追いかける?」
西島と碧が駐車場を出て行ったので、シートを起こす此上。
「きっと、公園だろ?猫」
「ですね。公園」
神林は車を降りる。
「部屋で待ってるよ」
此上は軽く手を振り、助手席のドアを閉めて、エンジンをかける。
神林にもう1度、手を振ると車を走らせた。
駐車場を出て、道路に出た所で西島と碧の姿を見つけた。
此上には気付いていない西島。
気付いていないというよりも碧を見ているから。
碧に向ける表情は此上が見た事がないものだ。
ああ、あんな表情出来るようになったんだ。
突き放して心が傷まなかったわけじゃない。これ以上、傷つけたくなかったから。でも、それは大人の身勝手だったんじゃないのか?って何度も悩んだ。
自分が笑顔にしてあげたかった。
弱い子だと思った事もあったけれど、「千尋、やっぱりお前は強い子なんだな……ちゃんと、立ち直ってきてる」なんて思う。
幸せなんだなって此上にも伝わってくる。
彼の横にいる、あの可愛くて小さな男の子があっという間に笑顔を取り戻してくれた。
凄いな、本当……
此上は西島の横を通り過ぎる。
バックミラーに映る西島を少し見つめて、神林への部屋へと車を走らせる。
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