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もっと、僕に甘えてください。 25話
◆◆◆◆◆
車が真横を通り過ぎていき、西島はふと、誰か知っている人が乗っていたような感覚に襲われ、走り去る車を見る。
「ちひろさん、どうしたんですか?」
道路側を見ている西島に気付く碧。
「えっ?あ、ううん、なんでもない」
碧に視線を戻すと、一緒に公園へと入る。
西島と碧の気配に気付き、猫達が顔を出す。
「おいで」
碧は諭吉を下へ降ろし、猫達の頭を撫でる。
2匹の兄弟猫は碧にスリスリと身体をすり寄せてきて、可愛い。
「お腹空いたよね。ニャンコは?」
2匹の兄弟猫達に話しかけると、猫達は公園の角の茂みへ視線を向ける。
まだ、側には来てくれないけれど、茂みから碧達を見つめるニャンコがいた。
ふふ、可愛い。
早く慣れてくれるといいなあ。触ってみたい。
碧はニャンコが怖がらないように気をつける。
西島がニャンコと兄弟猫達にご飯を与え、暫く食べている姿を碧と2人見つめた。
「おっす!」
猫達を見つめている2人の真後ろから声がして振り返る。
「神林」
「神林先生!」
西島と碧の声が揃う。
「遅くなってごめん」
「いや、いいよ。……駅からきた?」
西島はじっーと神林を見つめる。
「えっ?なんで?」
「俺らが下って来てた時に誰も居なかったから」
西島の指摘にドキッとする神林。
確かにこのタイミングならば彼らが公園に来る時に神林は公園に向かって歩いていなければならない。
うわ!!もっと、遅く登場すべきだったと、神林は焦る。
車で送って貰ったって言ったら誰から?って聞かれるだろう。そうしたら、会社の奴らの名前なんて言えるわけがない!!
きっと、直ぐに嘘だってバレる!!
じゃあ、言うか?此上に送って貰ったって。
「あ、実は……」
神林は口から心臓が飛び出してしまうくらいの心拍数で倒れてしまうんじゃないかと、焦っていた。
いや、焦らなくてもいいと思う。
「車で送って貰ったんだ」
「そうなのか?誰?会社のやつ……まさか、佐々木?」
きたーーー!!!!ほら、聞いてきたよ!!
言うか?言わない?
心拍数が上がって、目眩までしそうだった。
「神林先生、大丈夫ですか?顔色良くないですよ?」
碧が心配そうに神林の顔を覗く。
「えっ?うん、大丈夫……」
大丈夫じゃないけどね!!と言いたいが碧に笑いかける。
「ちひろさん、神林先生、汗かいてます。具合悪いんじゃ?」
碧は心配そうに西島を見る。
碧にそう言われ、確かに神林がいつもと違う気がして。
手を伸ばして額に触る。
いきなり西島のドアップ。
うひゃあ!!!!
神林は思わず、のけ反りそうになった。
西島をドアップで見る事なんて普段ないから、驚いていまう。
ほんと、こいつ、綺麗な顔してるよな。
不謹慎にもそう思ってしまった。
「だ、大丈夫だよ」
平静を装い笑って西島の手を掴む。
「んー、確かに熱はないっぽい」
「ないよ!!」
「ちひろさん、早く部屋いきましょ?神林先生が心配です」
碧に急かされ、西島はニャンコに「またな」と言う。
碧も猫達に「また、来るね」と挨拶をしする。
そして、神林と一緒にマンションへと向かう。
神林は内心ホッとしていた。
碧のおかげで車で送ってくれた相手を追求されなくて済んだから。
西島の部屋へ着くと、「神林先生、座ってください!!」と碧が甲斐甲斐しく水をグラスに入れて持ってきた。
「ありがとう碧ちゃん」
水を受け取ると一気に飲む。
緊張したせいか一気に飲んでしまった。
「もう1杯飲みますか?」
碧に聞かれ頷く神林。
すると、西島がペットボトルを持って来てくれた。
「ごめん、なんか、調子悪かったなら断ってくれたら良かったのに」
心配そうな西島。
「えっ?大丈夫だよ?」
「お前が大丈夫っていう時って大丈夫じゃないならな……結構無理してたりする」
西島の言葉に少し驚いた。
自分を見ていてくれた……その事に驚く。
他人には興味無さそうで、他人を寄せ付けない雰囲気を作り出していたから。
「神林先生、ご飯……食べれますか?」
「へ?」
「神林先生が来るから、僕とちひろさんでご飯を作ったんです。でも、具合悪そうだから」
「碧ちゃんも作ってくれたの?」
「はい!!って言っても僕は雑用です。ちひろさんがほとんど作りました」
ニコッと微笑む碧。
「そっか、ありがとう」
こういう時の碧は小さな子供が親の手伝いを頑張ったって感じに似ていて可愛い。
思わず頭を撫でた。
「ワシも撫でれ!!」
諭吉がピョンと神林の膝に乗る。
「諭吉も撫でてほしいみたいです」
「そっか、諭吉」
神林は諭吉の頭を撫でる。そして、
「あ、そうだ、マグロあるんだ」と持ってきた袋を出す。
「マグロおおおお!!!」
諭吉の目はキラリと光る。
「こら、諭吉!!今日はもうダメだ!」
西島が諭吉を捕まえる。
「いやばい!マグロば食うと!!」
「ダメだ!!さっき、食べただろう!!明日、明日食べなさい」
「なんや、せっかく、ワシにマグロばくれたとぞ、食べんば失礼やろうが」
「馬鹿野郎、太るぞ」
神林にはニャアニャアとしか聞こえないので、傍から見るとカオスな光景である。
「碧ちゃん、千尋ってあんなキャラだったか?猫と本気で会話してる」
「はい。いつもですよ!諭吉とちひろさん仲良しなんですよ」
ニコニコと微笑む碧。
…………ああ、なんだろ?この和む感じは。
猫と本気で喧嘩する千尋と、それをニコニコしながら見守る碧ちゃん。
好きだな。この感じ。
神林もつい、笑い出した。
◆◆◆◆◆
「神林、悪かったな騒がしくて」
やっと、諭吉を説得して戻ってきた西島。
「いや、楽しかったよ」
クスクスと笑ってしまう。
「あ……顔色、戻ってるな。良かった」
西島は神林の顔をマジマジとみて、安心したような表情を見せる。
「うん、ありがとう。大丈夫だよ」
「飯、食ってくだろ?神林の好きなものばかり作ったんだ」
西島の言葉に神林はちょっと嬉しくなった。
自分が好きな食べ物を知ってくれている事。
それをわざわざ作ってくれた事。
「神林先生ってピーマン食べれるんでしょ?凄いですねえ。僕は食べれなくって……今日のは僕のだけピーマン抜きなんです」
えへへと恥ずかしそうに笑う碧。
「食べれなくってもね、他の食材でピーマンの栄養取ればいいし、大人になっても食べれないものってたくさんあるんだよ?ちなみに俺はキノコとナスが食べれない」
「ほ、本当ですか?僕はナスもキノコも大好きです」
「ね、碧ちゃんは俺が食べれないのを食べれる」
神林に言われ碧は嬉しそうだ。
そして、自然な流れで夕食を食べる事になってしまった。
……篤さん、ちゃんと、篤さんの料理も食べますから!!!
心で此上に謝罪をする神林である。
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