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素直になるって大事ですよ?

◆◆◆◆◆ 西島と碧がいちゃつき始めたので神林は、車の代金やら色んな書類は後日でと、言って帰る事にした。 此上に1秒でも早く会いたい……、それが本当の理由。 下の駐車場まで送るという2人を無理矢理玄関までの見送りで良いと言いくるめ、マンションを出る。 本当、最近の西島は人目もはばからずにイチャつくようになってきた。 良い……事なんだろう。 あんなに心を見せなかったのだから。 それに、良い顔で笑うようになった。 学生時代もそれなりに笑っていたと思う。でも、それは作り笑い。 ちゃんと笑えるようなってくれて、嬉しい。 寂しいけれど、喜ばなきゃいけない。 寂しいから余計に此上に会いたくなる。 迎えに来て貰う? でも、部屋でゆっくりしてたりしたら悪いな? ほら、お風呂とか入ってたりさ…… 色々考えながら携帯を手に掴んでしまった。 心とウラハラ、此上の電話番号を押してしまう。 ううっ、俺ってば!!! 3コールで此上は出てくれた。 「もう、帰るのか?」 此上からの質問。 あ、もしかして、ゆっくりしてた? 「す、すみません篤さん……ゆっくりしてました?」 「いや、後ろにいる」 「は?後ろ?」 「そう、後ろ」 神林は後ろを振り返ると、少し離れた場所に此上が立っていて、神林に手を振っている。 「へっ……」 なんで?あれ?帰らなかったけ? 「帰り……ませんでしたっけ?」 電話越しに話す神林。 「1度はね」 「……」 次の言葉が出ない神林。会いたいと願ったら目の前に居る。この人って、テレパシーでも持ってるのかな?なんて、非現実的な事を考えてしまった。 此上が直ぐ側まできた。 「いつまで電話越しに話すの?」 そう言ってクスクス笑うのが良く見える位置まできてる……だから、電話を切った。 ◆◆◆◆ 「ちひろさん、大変です!神林先生、財布忘れてます」 碧は椅子の下に落ちている財布を拾い上げる。 「は?マジで、あいつ、どうやって帰る気だよ」 洗い物をしている西島は振り向き、碧が手にしている財布を見つめる。 「僕、走って届けてきます。まだ、近くに居るはずだから」 「俺が行く。外は暗いから危ない」 「ちひろさん、洗い物してて大丈夫ですよ。きっと、まだ、駐車場くらいですもん」 碧は財布を掴み、急いで玄関へ。 神林が帰ってそんなに経っていない。まだ、間に合うはず!! 玄関で靴をはき、ドアを開けるとスルリと諭吉が外へ出た。 「諭吉!」 「わしも行くばい。ボディガードっちゅうやつ」 「ふふ、ありがと諭吉」 碧は諭吉と一緒に神林を追いかける。 ◆◆◆◆◆ 神林も此上に近付き、顔を肩に寄せた。 「どうしたの?いつもはこういう場所だと気にするのに」 神林の可愛い行動に驚きながらも嬉しい此上。 「うん……会いたいなって思ってたら居たから嬉しいんです」 その言葉で此上は神林の頭をくしゃくしゃと撫でる。 「俺も会いたいって思ってたから、トオルがそんな事言ってくれるなんて、本当……嬉しいよ」 「うん……めっちゃ会いたかった」 神林は顔を上げて此上を見つめた。 此上の顔が近付いてくるから、目を閉じた。 「神林せんせえ!!!」 碧の声がして、ドキリとして目を開けた。 目の前の此上も驚いたような顔をしている。 「財布!!」 神林は此上から離れて碧が走ってくる姿を確認した。 「碧ちゃん」 碧は一所懸命にこちらへ走ってくる。諭吉と一緒に。 本当、可愛いなあ碧ちゃん。 「神林せんせ、お財布忘れてます」 神林の近くに来た碧はハアハア息を切らしている。 「ありがと碧ちゃん、財布忘れてたの気付かなかったよ」 碧が手にしているのは紛れもなく自分の財布。いつ、落としたんだろ? 碧から財布を受け取る。 「諭吉もありがと」 碧の足元の諭吉にもお礼を言う。 「マグロもろうたけんな」 「ん?マグロ?」 神林は聞き直す。 「マグロは千尋が冷蔵庫に入れただろ?」 神林はしゃがむと諭吉の頭をなでた。 マグロだけ聞き取れたのだ。 財布を渡し終えた碧はふと、もう1人男性が居る事に気付いた。 ゆっくりと、その男性をみる。 うひゃあ!!!イケメン!!! そして、その男性も碧をみて、「こんばんは碧ちゃん」と言った。 「なんで僕の名前……」知ってるんですか?って聞こうとして、神林の電話に出たあの声だと思い出した。 「あ、あの、もしかして、神林せんせの?」 「そうだよ。トオルがいつもお世話になってます」 此上は碧に微笑む。 「わあ!!こ、こちらこそ、あの、神林先生にはいつも」 碧はペコペコと頭を下げる。その姿は可愛らしくて微笑ましい。 「声も可愛かったけど、こうやって近くで見ると女の子みたいに可愛いね」 此上は思わず碧の頭を撫でた。 背の高さは西島が中学生の頃を思い出させる。凄く懐かしい。 碧は自分の頭を撫でる男性を見ていた。 背の高さはちひろさんとあまり変わらない……カッコイイな。でも、ちひろさんがやっぱり一番カッコイイ!! なんて、思いながら。 「にゃー」 諭吉が直ぐ下で鳴く。 此上は諭吉をみて、「こんばんは」と挨拶をする。 「碧ちゃんの猫でしょ?」 「は、はい、諭吉です」 「可愛いね」 此上はスーツを着ているのにもかかわらず、諭吉を抱き上げた。 「スーツに毛がつきますよ!!」 碧は慌てる。だって、高そうなスーツ。 「ん?そんなの気にしないよ?」 ニコッと微笑む此上。 スーツ着て猫を抱く人に悪い人はいない!!碧はそう思い。此上がとても良い人だと確信した。 「神林先生の恋人さんはカッコイイですね、さすが、神林先生が選んだだけあります」 碧はニコニコして、神林を見る。 「ありがと」 神林は嬉しそうに微笑む。 「そろそろ帰らなきゃ千尋、心配するよ?」 神林に言われ、「はい」と返事を返す碧。 「おやすみ碧ちゃん」 此上から諭吉を渡される。 「はい、おやすみなさい」 碧は2人に挨拶をして、軽く会釈をした。 碧がマンションの方へ歩いて行くのを見送ると、神林は此上の車に乗り込む。 「碧ちゃん可愛いね。昔の千尋みたいだったよ。凄く懐かしい。背の高さが中学生の頃の千尋と同じくらいだった」 「ちょ、それ、碧ちゃんに言わないで下さいよ?傷ついちゃいそう」 神林は笑う。 「俺……恋人いるって千尋に言いました。今度会わせるって」 「えっ?」 此上は驚いて神林を見る。 「篤さんの名前は出してないですけど、今度会わせるって言ったら千尋が俺に相応しいか見極めるって言ってました」 「マジか……千尋に見極められるのか」 此上は笑ってしまった。 「じゃあ、相応しい男にならきゃ!!だな」 此上は笑うと車を走らせた。

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