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素直になるって大事ですよ? 17話

◆◆◆◆ 会社まではいつものように電車で行こうかと思ったけれど、腰がやはりだるいので車で行く事にした。 車で出勤なんて初めてだ。なんせ、交通機関が便利過ぎて、車検やら保険やらでお金が飛んで行くものを手元に置こうとは考えた事もなかった西島。 なのに、車を欲しいと思った。 欲しい物を考える事さえ忘れていて必要最低限あればいいって望まなかったのだ。 面白いくらいに自分の考えが変わっていく。 それは全然嫌ではなく、むしろ、楽しんでいる。 ほんの少し、前に足を出しただけで、見えてくる物が変わった。 あの頃、見えなかったものも、いつかは見えるのだろうか? ◆◆◆◆ 「西島部長!!もう大丈夫なんですか?」 車を駐車場に停めた時にスタッフに声をかけられる西島。 「おはようございます。大丈夫ですよ」 ニコッと微笑む。 「朝から眩しいですね、その笑顔。女性スタッフが寂しがってましたよ」 「寂しがってた?うるさいのが居なくて喜んでいたんじゃなく?」 「寂しがってる方ですよ、部長は居なかったら寂しがられる上司ですよ?人気あるの、知らないんですか?」 「は?誰が?」 「だから、部長が」 「おれ……が?」 西島は自分が女性スタッフに人気があるのを自覚してはいない。自覚していないというより、興味がない。 「きっと、喜びますよ」 そんな事言われても、お世辞にしか取れない西島。 自分ではいつも、眉間にシワ寄せてると思っていたのに。不思議だ。 「あ、書類机に結構溜まってましたよ」 その言葉に、あああ!!と叫びたくなった。 そう、休むと仕事が溜まる。 まあ、それは覚悟していたし、仕方ながない事。 今日は残業になるかな? 碧に後で連絡しよう。 なんて、考えていたが 「でも、半分は佐々木部長がちょこちょこ片付けてましたけどね」 スタッフがそう続けた。 「は?佐々木?」 「はい。昨日も少し残業して片付けてましたよ?」 はい?マジで? 佐々木が?なんで? 西島の頭には沢山、クエスチョンマークが並ぶ。 そして、確かめようと、部署へ急ぐ。 まだ、スタッフは西島と駐車場で一緒になったスタッフだけ。 自分の机に行くと、覚悟していたはずの書類が少ない。 残業はしなくてすむレベルだった。 普段は西島をからかう材料にしている佐々木。 でも、彼が本当に嫌な奴だとは思ってはいない。 本当に嫌だったら、初めから仲良くはなってはいないだろう。 なんだかんだで、学生時代から続く腐れ縁。 たまには素直に礼でも言うかな? 西島は席に着くと書類を片付け始めた。 ◆◆◆◆◆ えっ?あれ?車…… 見馴れた車が駐車場に停めてあるのに気付いた神林。 「どうした?」 一点を見つめる神林に声をかける此上。 「俺の車……って事は千尋、会社来てる?」 嬉しいような、心臓が破裂しそうな、どちらにせよ、ドキドキしないわけはないのだけれど。 「千尋は真面目な子だから、仕事が気になったのかもな」 此上の言葉にその理由が妥当だなと思う。 休めば休むだけ、仕事は溜まっていくのだから。 あれ?じゃあ、碧ちゃんも来てるのかな? 神林は車から降りると此上に手を降って会社の中へと入った。 「おうおう!!同伴出勤ですか?」 入った瞬間、待ち構えたように佐々木と斉藤が神林を見てニヤニヤしている。 「カッコイイですよね、あの人」 斉藤の言葉に思わず頷きそうになったが我慢した。佐々木に何言われるか分からないから。 「俺よりも?」 「やだなあ~ゆうちゃんがカッコイイよ」 「知ってる」 ニヤリと笑う佐々木。 そんな2人を無視して、先へ行こうとするが、「つれないなあ、神林くん!根掘り葉掘り聞こうと思ってるのに」と行く手を阻まれる。 「根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だ」 「んじゃあ、根掘りまででいいから」 「あはは、なにそれ、ゆうちゃん」 なんだろう?この2人は…… 神林はこの2人から逃げ出したい。 「千尋来てるからここでは話さないからな」 「西島きてんの?」 「車が停めてある」 「車?アイツ、車持って……あ、神林の車か!じゃあ、碧ちゃんも来てるのかな?」 「えっ?西島部長と碧来てるの?」 よほど嬉しいのか斉藤の声が大きい。 「やっぱさあ、西島部長と碧がいないとつまんないもんな」 「そうだな、西島はともかく、碧ちゃんくると華やかでいいな」 「えっ?西島部長も華やかですよ?」 「俺よりもか?」 「ゆうちゃんヤキモチ?」 「ヤキモチだよ」 あ……早くどいてくれないかなあ? 2人の腹立つイチャつき具合にげんなりとくる神林。 ◆◆◆◆◆ 「碧、電話ばい!起きろ!」 ドスンと身体に何か乗ってきて、碧は目を覚ました。 「ん?諭吉?」 「電話鳴りよるばい」 諭吉の言葉通り、自分のスマホが鳴っている。 半分寝ぼけたままに電話に出た。 「碧か?おはよう」 「じいちゃん?」 電話の向こうから聞こえてきた声は自分の祖父の声。 「碧、今日はまだ休みか?」 「ん?どうして?」 「友達に会いに福岡まで行くけん、碧にも会おうかと思って」 「えっ?じいちゃん、こっち来るの?」 碧の眠気は一気に飛んだ。

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