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もっと欲張りになりましょう 2話
◆◆◆◆
「あれ?西島部長って来ていないんですか?」
斉藤は自分の机に鞄を置き、西島のデスクを見る。
「西島部長なら会議に行ったよ?」
先輩スタッフが居ない理由を教えてくれた。
「ちぇっ、来てるって聞いたから」
「さっき、女性スタッフも同じ事言ってたよ。西島部長は若い男の子にも人気あるなあ」
「その言い方、なんか誤解招きそうですね」
ニヤニヤと笑う斉藤。
そして、隣の碧の机を見るが鞄はない。
ちぇっ、碧はまだ休みかあ……。
つまんない!!なんて思ってしまう。
「ちえっ、神林先生とこ行こう」
斉藤はつまらない気持ちをどこかで紛らわせたかった。
◆◆◆◆
「仕事戻れよ!」
「俺、仕事、午後からだもん」
「じゃあ、会社は午後からくればいいだろ?」
「やる事あったんだけどさ、予定狂って暇になったんだよ、相手しろよ」
「俺は仕事中なんだよ!」
神林は佐々木と言い合っているが、ちっとも利きやしない。
「昨夜もお盛んだったんだな。此上氏は絶倫そうだから神林大変だろ?」
「大変じゃないよ、優しい……」
と言いかけてあっ!!と気付く。
「優しいんだ?」
ニヤニヤして自分を見ている佐々木。
くそう!!コイツからは逃げられないのか?
「や、優しいよ!文句あるか!」
ならばいっそ、開き直るしかない。
「へえ、ちゃんと決めたんだな」
「なにを?」
「覚悟!お前、今、凄くいい顔してんぞ?スッキリしました?的な?」
佐々木の言葉に一気に顔が熱くなる。
覚悟を決めた。確かにそうだ。
迷わないって決めた。
いや、きっと、何かしら迷うだろうけど、不安はない。
此上は何があっても側に居てくれる。そんな確信があるから。
「神林って、なーんか、遠慮しているっていうか、気を使うっていうか……苦労を背負い込むタイプだからさ、ストレスも人一倍だろうし、でもまあ、スッキリした顔してるんだから何かしら良い方向に向かってんだなって思った」
「そ、そんな感じだったのか俺?」
「そんな感じだったぞ?俺は昔っから能天気で過ぎた事は気にしないしさ、今が幸せら未来もそうじゃん?って妙な自信さえ持ってるけど、お前と千尋は本当、どーしてそこまで抱え込めるんだ?って感心してたよ」
なんとなく、言い返せない神林。
確かにそうかな?なんて、思い当たる節はある。
佐々木は人を良く見ている。どんな人間か直ぐに理解ができる。すごい才能だ。
だから、人事部の部長をやれるのだろう。
「なんか深刻に悩んでいたみたいだから、無理矢理でも聞き出してやろうかと思っていたけれど、自分で解決出来たなら良かったな」
佐々木は肩を軽く叩くと部屋を出ようとする。
「おっと、」
入り口で誰かにぶつかりそうになり、佐々木は交わそうとした。
「佐々木」
ぶつかりそうになった人物が名前を呼ぶ。
「なんだ、千尋たんか」
相手の顔を見て笑う。
「千尋たん言うな!」
「本当に来てたんだな?碧ちゃんは?」
「碧はまだ、有休残っているから部屋に居るよ」
「なんだあ、碧ちゃんは来てないのかあ」
露骨にガッカリする佐々木。
ちょっとイラっときてしまう西島だったが、
「書類……片付けてくれてたって」
「ああ、誰かに聞いた?」
「…………聞いた。それで、まあ、助かったっていうか」
西島は素直に礼を言うつもりでいたけれど、実際目の前でニヤニヤして、自分が何を言うかをあっという間に理解して待っている男になんだか、素直になれない。
「何かな?千尋たん」
ニヤニヤが更にまして、イライラしてしまうが、ぐっ!!と堪える。
「ありがとう、助かった」
「傘持ってくるの忘れた」
「はい?」
佐々木の言葉に一瞬、何を言われたか分からなくなった。
「お前が素直に礼を言うから雨降るんじゃないかなあーって」
佐々木は西島の肩にポンと手を置き微笑む。
「お前なあ!!人が素直になれば!!」
カチンときて、怒る西島。
「あはは、お前やっぱ、怒ってる方がお前らしい」
佐々木は慣れたように怒る西島を交わしている。
2人のやりとりを見ていた神林は、佐々木が早く来た意味を理解した。
なるほど、千尋のとこ行ってたのか。
本当、佐々木はからかいながら、さり気なく助けてくれるから、罪悪感とかお礼をしなきゃとか気を使う気持ちを和らげるんだなって思う。
後腐れ無し!!そんな感じ。
「お前らうるさい!!中に入るか、外に出るかどっちかにしろ!!」
入り口で言い合う2人にストップをかける神林。
学生時代からこれは変わらない。凄く嬉しい事だった。
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