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もっと欲張りになりましょう 3話

◆◆◆◆ 「おじいちゃん、こっち!」 駅の改札口、祖父を見つけて元気に手を振る碧。 「おお、わざわざすまんな」 改札口を出て祖父が碧の元へとやって来た。 「ううん、いいよ」 「ほい、コレお土産」 祖父は碧に紙袋を渡す。 「ありがとうお土産とかいいのに」 「諭吉とちひろ君と食べなさい」 祖父の口から西島の名前が出て、碧は嬉しくなった。西島もちゃんと家族の中に入っているのだと、再確認。なので、 「うん、分かった。ところで、何しにこっちに出て来たと?」 とお土産を受け取った。 「ああ、懐中時計の会って言ってな、たまに集まるんよ」 「えっ?それ、僕居たら邪魔じゃ?」 「いいよ、いいよ、おいで!若い子が居ないから碧はつまらないかも知れないけど」 「ううん、僕、同じ年頃の人よりもおじいちゃんとかの方が好きだもん」 碧はどちらかといえば、おじいちゃんっ子。両親が共働きだったので、祖父や祖母に面倒を見てもらっていた。 「それより、首、どうした?虫刺されか?」 祖父が首筋を指さす。 あっ!!と思わず手をそこに置いて隠してしまう。 「う、うん、虫刺され」 そう言って顔が赤い碧を見れば虫刺されじゃない事はわかる。 「そうか、あまり掻きむしらないようにな」 分かっていてもからかうと、碧が照れてしまうだろうし、孫の成長は寂しいけれど、嬉しくもある。 「う、うん、気をつける」 碧は気付かれていないと思いホッとする。 ◆◆◆◆ 神林は文句を言いながらも2人にコーヒーを出す。 西島は神林からカップを受け取る時に彼の胸元へ何気に視線を向けた。 ボタンが外れ見える肌に見慣れた印。 今朝、碧の身体でみたキスマーク。 思わず、じーっと見てしまい、その視線に神林も気付き、ハッ!!とその場所を手で隠した。 顔が少し赤い。 「あ、なんか、悪い」 神林の仕草にちょっと罪悪感。見てはならぬものというか、気付かないフリをしてあげなきゃいけないモノ。 でも、神林のそういう仕草や表情は初めてみるかも知れない。 学生時代は恋愛の話はした事なかったから。 「あからさまにそんな態度取るとからかってください!って言ってるようなものだぞ?」 ニヤニヤしながら佐々木に言われる。 自分でもそうだと思う神林。 「佐々木はこういうの好きだよな」 呆れた顔の西島。 「当たり前だろ?そこに人がいるなら恋愛は生まれる。まあ、こんな可愛い態度取られるとからかいたくなるよな」 「う、うるさい!コーヒー飲んだら帰れ!」 神林は2人に背を向ける。 丁度、佐々木の携帯が鳴り、佐々木はコーヒーを持ったまま、部屋を出て行った。 で、残される神林と西島。 あああ!!!千尋と2人かよおおお!! 佐々木、こういう時は空気読まなくていいんだよ!電話だけどさ。 アイツ居た方が気まずさも何もかも軽くなるのに。 佐々木の存在の有り難さをヒシヒシ感じる神林。 「なんか、新鮮」 「な、なにが?」 西島が言葉を発したので、何を言われるかドキドキしながら返事を返す神林。 「そんな顔、初めてみたから」 「はい?」 「照れたような?なんていうの?恋してる顔?うーん、凄く良い顔?上手く言えないなあ、語彙力ないな、俺」 ふふふっと笑う西島。その西島の顔も初めて見る顔だった。 ちゃんと笑っている。無理をしていない顔。 その顔は碧と居る時だけしか見れなかったのに。 凄く可愛い。成人男性に失礼な例えなんだろうけど、本当に可愛く笑う。 学生時代にこんな顔で笑っていたら、更にモテていただろうな?なんて、ぼんやり考える神林。 「付き合っている人がいい人なんだなって、神林見てたら分かるな。色々詮索しなくて良さそうだ」 「えっ?」 「話聞いた時は碧も良い人って言うから1歩引いたけれど、もしかして、騙されてたりとかしたら嫌だなって」 「騙さないよ、あの人は」 「うん、神林が選んだ人だもんな」 西島にそう言われて複雑な神林。お前があの人の良さは1番知っているだろ?って言いたくなる。 言いたくなるけれど、言葉にはまだ、出来ない。 覚悟決めているのに、土壇場で尻すぼみ……俺って最低。 「服のボタンは上まで閉めた方がいいぞ?誰かに冷やかされる」 「あ、うん」 神林は慌ててボタンをキッチリとはめた。 「また、家来いよ、碧も喜ぶし」 「う、うん行く」 「じゃあ、仕事戻る」 西島は手を振って部屋を出て行った。 はあああ!!! 大きな溜め息をついて、神林は机に倒れ込んだ。 悩まないって決めたのに!!本人を目の前にしたら、グルグルと色んな感情が駆け巡っていった。 西島の好きな人を取ったみたいな気持ちがまだ、残っているから。 何時になったら完全に消えるのだろうか?

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