◆◆◆◆◆ ちひろさんどうしてるかな？会議はもう終わったかな？ 碧はぼんやりと西島の事を考えていた。 時間はお昼過ぎ。時間通りならばランチのはずだけれど、側に居ないからランチなのか会議中なのか分からないから連絡も出来ない。 声が聞きたいな。なんて思う。 会議邪魔しちゃうかな？でも、メール送るくらいならいいよね？電話じゃないもん。 碧は西島に「ちひろさん、お仕事どうですか？僕はおじいちゃんが福岡に来たので会ってます」と送った。 送ってほんの少しして、電話が掛かってきて碧は慌てた。 「どーした？」 祖父が声をかけてきた。 「ち、ちひろさんから」 「ああ、話てくるといい」 ニコッと祖父が笑ってくれたので、碧はその場から離れて西島の電話を取った。 「碧」 電話の向こうから聞こえてくる西島の声にドキドキした。 今朝、聞いた声なのにドキドキしてしまう。 「ち、ちひろさん会議は？」 「大丈夫だよ？もう終わった」 「そうですか、良かった。お仕事の邪魔しちゃったかと思いました」 「碧、身体は？」 身体は？と聞かれて昨夜の事を思い出して顔が熱くなる。 「大丈夫です」 「そっか、おじいさんは今日帰るのか？」 「うん、夕方には僕も帰ります」 「迎えに行こうか？」 「だ、ダメです！疲れているでしょう？」 「いや……今日は車で来てるし、碧に一秒でも早く会いたいし、おじいさんにも挨拶したい」 自分に一秒でも早く会いたいと言われて碧は嬉しくなる。 「ぼ、僕も早く会いたいです」 元気にそう答えた。 「何時にどこにいけばいい？」 「えっと、6時に博多駅です」 「今いる場所でもいいぞ？」 「いえ、貸切りバスが駅まで送ってくれるんです。まだ、観光が少し残ってるし」 「貸切りバス？」 「おじいちゃんが懐中時計の会って集まりに入ってて、その会員の皆さんと観光してるんです。結構遠くから来てる人もいるんですよ？それに皆優しいです」 碧なら直ぐに人気者になりそうだな。と西島は話を聞いて思った。 「じゃあ、６時に博多駅に行くよ」 「はい。待ってます！」 碧は電話を切った。 そして、祖父の元へ戻ると「ちひろさんが夕方、駅まで迎えに来てくれるって」そう報告をする。 「千尋君、来てくれるのか？じゃあ、お土産買わなきゃな」 「えっ？もう、貰ってるよ？」 「お土産はいくつあってもいいだろ？それに誰かにお土産を選ぶって楽しいぞ？」 祖父の言葉に碧も、「僕もちひろさんに買おう！あと、星夜くんと、神林先生と佐々木部長」楽しそうにお土産を買いたい人達の名前を言う。 そっか、お土産選ぶの楽しいもんね！！ 碧は貸切りバスが立ち寄ったパーキングエリアでお土産を物色する事にした。 お土産を見ているとマスコットとかぬいぐるみとか可愛いものばかり見てしまう碧。 特に猫グッズには反応してしまう。 ちひろさんとお揃いで何か欲しいなあ。やっぱ、猫グッズかな？ちひろさんも猫好きだもんね。 色々悩んでお土産を選んだ。 バスに戻ると、「碧ちゃん、コレ、お土産ね」と仲良くなったおじいちゃん達が碧に袋を渡してきた。 驚く碧。 「えっ？ダメですよ？貰えない」 遠慮をするが、「いいんだよ、今日は楽しかったから。普段、孫とかに会えないし、碧ちゃんと過ごせて良かったよ。来てくれてありがとう。また、おいで」なんて言われると、素直にお礼を言って受け取ってしまった。 「碧くん」 ヒロちゃんまでもお土産をくれた。 「ぼ、僕、ヒロちゃんにお土産買ってないのに」 「皆の言う通り、碧くんが居てくれただけで楽しかったからお礼だよ」 「そ、そんな、僕……」 「貰っておきなさい。好意だよ？」 祖父の言葉に碧はヒロちゃんからのお土産を受け取った。 「ありがとうございます。今度、お土産持って遊びに行きますね」 「待ってるよ」 ヒロちゃんはそう言うと碧の頭を撫でた。 ◆◆◆◆◆ 貸切りバスの中は次第に人が少なくなってきた。降りたい場所を言えばそこで停まってくれるらしい。 バスに残ったのは碧と祖父とヒロちゃんの3人。 「ヒロちゃんは僕の近所ですよね？車で迎えに来てくれるんで、乗っていきませんか？」 碧は西島が迎えに来てくれるから、家まで送れたら……と思った。 でも、 「大丈夫だよ？こっちも迎えに来てくれるんだ」 「あ、そうなんですか？」 「うん、筑紫口の方にね。そこでバスを停めて貰う」 ヒロちゃんは運転手に降りたい場所を告げる。 西島が迎えに来てくれるのは丁度、駅の表側。ヒロちゃんは裏側で降りてしまった。 バスからヒロちゃんに手を振る碧。 彼も振り返してくれた。 碧が乗ったバスを見送っていると、車のクラクションが聞こえてきた。 ヒロちゃんが振り返ると迎の車がもう来ていた。 運転席から降りてきたのは此上。 「おかえりなさいませ」 此上はニコッと微笑む。 「早かったな」 「早目に来てないとフラフラどこかへ行きますからね！こっちがどれだけ探していると思っているんですか？」 此上はそう言いながら後部席のドアを開けた。 「そうだ、コレ、お土産」 此上に袋を渡す。 「ありがとうございます。コレ、何時ものようにミサキちゃん経由で千尋に渡せばいいんですか？」 「いや、お前にだよ」 「は？」 「今回はいいんだ」 ニコッと笑って車に乗り込むヒロちゃんは西島の父親だった。 「車、表の方から回ってくれる？」 「構いませんけど……」 此上は運転席に乗り込むとエンジンをかける。 ◆◆◆◆ 「ちひろさん！！」 バスから降りると西島が碧に手を振っていた。 「おかえり」 駆け寄ってきた碧を出迎える。 「ただいまです」 「楽しかったか？」 「はい！とても」 「千尋君！」 祖父が碧の後ろから歩いてきた。 「こんばんは」 頭を下げる西島。 「碧がお世話になりました」 また、ペコリと頭を下げる西島をみて、碧は何だか嬉しくなる。 碧がお世話になりました。って、本当に家族みたいだって……いや、家族なのだけど。 「それはこっちもだよ、いつも碧がお世話になって」 「おじいちゃんからお土産貰ったよ」 碧は嬉しそうに報告する。 「えっ？ありがとうございます。あ、お礼に夕食食べていきませんか？泊まってもいいし」 「いや、今日は帰るよ、夕食は今度お願いするよ」 「えっ？泊まっていけばいいのにい！」 碧は小さい子供みたいにつまらなさそうな顔をしている。 「今日泊まったら、抜け駆けだって責られる！碧に会うのも内緒にしてきたんだよ」 「えっ？なんで？」 「会うと言ったらバカ兄達がついてくる！可愛い弟に会う為に」 碧の兄達はハンパないくらいに弟大好きな奴らなので、やりかねない。 「なので、今日は諦めるよ」 「え～兄ちゃん達には僕から言うから諭吉もおじいちゃんに会いたがってるんだよ？」 「そうですよ、碧もこう言ってるし」 西島も誘う。 「着替えないから」 「買えばいいじゃん！バスセンターに安い洋服屋さんあるもん」 碧のお願い攻撃に祖父も弱かった。 「わかった！でも、本当にいいのか？千尋君は？」 「えっ？構いませんよ？」 「いや、いちゃつけなくなると思うから」 真顔で言われて西島は顔が赤くなる。 「千尋君も可愛いなあ！いいなあ！新鮮な反応で！うちの奴らはスレてるからな」 祖父に背中叩かれ西島は更に照れてしまうのであった。 ◆◆◆◆ なるほど……と此上は思った。 表へ回ると直ぐに西島に気付いた。 そして、ヒロちゃんが乗っていたバスから降りてきたのは碧。 何故、碧が居るのかは不思議だったが、お土産は今回はいいと言った理由はわかった。 碧に渡したのだと。 本当、この親子はいつになれば素直になるのだろう？と此上は思う。