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もっと欲張りになりましょう 6話
「お前、こっち帰ってから千尋に会ったのか?」
その質問に此上はミラーで後ろをチラリと見た。
「会ってません」
「何故会ってやらない?千尋はお前にかなり懐いていただろ?」
「きっと、会いたくないだろうと思って」
「お前らしくないな、そんな逃げ腰」
「お互い様です」
此上は少し笑った。
「碧くんの事……知ってて参加したんですか?」
「違うよ。あの子が来たのは偶然だ。友人のお孫さんだとは知らなかった」
「反対はしないんですか?1人息子の恋人が男の子で……」
「しなきゃいけない理由があるなら教えてくれ……千尋には好きにさせてる。引き取ったのも別に跡継ぎが欲しいとかじゃなかったし」
「いい加減、本当の事を教えてあげたらどうですか?そしたら、千尋は貴方を憎まないのに」
「教えても……千尋の生活を変えてしまったのは事実だからな。大切な子供時代を奪ってしまった」
「それは、ちゃんと説明してたら」
「子供には何言っても理解されないよ」
「でも」
「いいんだ……千尋が幸せなら、それでいい。碧くん、いい子だったよ、あっという間に会の皆のアイドルになってた」
「そうですね、あの子と話した事ありますけど、いい子でした。素直で可愛くて」
「お前もちゃんと見てるじゃないか……千尋、あんな顔出来るんだな」
少し寂しそうな、そして嬉しそうな顔を此上はミラー越しに見た。
「お前、ちゃんと千尋に会ってやれ」
「分かってますよ」
此上はそう返事を返した。
会いたくないわけがない。
いつも、心配なのに。
本当に、自分もこの人も素直じゃないな……と此上は思った。
◆◆◆◆◆
祖父の買い物を済ませ、次にスーパーへ寄り道。
諭吉への土産もちゃんと買ってマンションへと戻って来た。
ガチャリと鍵を開けると「にゃーん」と諭吉の鳴き声。
流石、諭吉!音で分かったようで玄関でお出迎えしてくれた。
「諭吉、おじいちゃん来たよ」
「マジか!」
諭吉は碧の後ろから顔を出した祖父の方へ寄っていって、顔をスリスリ。
「諭吉」
祖父は諭吉を抱き上げた。
「よう来たな」
諭吉は祖父に話しかける。
「諭吉に土産持ってきたぞ、オヤツ!」
「何?オヤツとな!流石じいちゃんばい!!早うオヤツくれ!!マグロか?マグロやろ?」
諭吉はうにゃうにゃ暴れ出す。
「おじいちゃん上がって!」
碧は祖父を手招きする。
「うん、お邪魔するよ」
祖父は後ろに居る西島に挨拶をした。
「どうぞ」
「ニッシー、アイスこうて来たやろな?」
諭吉はじっーと西島を見つめる。
スーパーの袋の中から猫用のクリームを出す。
「上等ばい!」
キラリと目を輝かせる諭吉。
「今日は贅沢できるな!」
諭吉はスルリと祖父の腕から抜けるとキッチンへ猛ダッシュ。一刻も早くクリームやらお土産を食べたいのだ。
「おじいさんは座ってて下さいね」
西島は材料をテーブルに置く。
「手伝うよ」
「だめだめ!おじいちゃんはお客様なんだよ?諭吉と遊んでてよ」
碧も料理を作る気満々だ。
「そげんことより、マグロ!!マグロば早うだせ!!腹空いとーとばい」
諭吉は西島の足元をウロウロ。
「諭吉、マグロは後でちゃんとあげるから向こう行ってなさい!」
「いやばい!マグロば先に出せ!!腹空いとーとばい!」
気まぐれな猫はワガママ。分かってはいるけれど。
ため息をついて、マグロを袋から出す西島。
「なあ、千尋くんに碧、聞いていいか?
」
「なあに?」
碧は顔を上げて祖父を見る。もちろん西島も。
「諭吉、やっぱり喋れるんだな」
「は?」
祖父の言葉で2人は固まった。
「なんや、じいちゃん、やっぱりワシの声聞こえとったんか」
諭吉の言葉にも碧と西島は固まる。
「へ?なんで?」
碧と西島の言葉がハモる。
「じいちゃんはワシが言う事をさり気なくしてくれよったけん、もしかしたら?って思いよったんよ」
「そうだな……はじめは碧が小さい時に諭吉と会話しているのを聞いてな。その時は酒飲んでたから、酒のせいかと思ってたんだよ、でも、その内、碧と会話しなくなったから、気のせいかとずっと思ってて、でもなあ、聞こえるんだよ、諭吉がマグロくれとか、酒飲みたいとか、温泉行きたいとか、……自分にしか聞こえてなかったみたいだから、黙ってたんだけど、碧とちひろ君が普通に会話するみたいな感じだったから」
祖父の告白に2人は顔を見合わせた。
「お、おじいちゃん……諭吉の声」
「聞こえてたんですね」
碧と西島の言葉が綺麗にハモる。
「うん、今、確信したよ」
ニコッと笑う祖父。
「で、どうでも良かけん、マグロば出せさニッシー!!」
驚きのムードを壊す諭吉。
「い、今出すから」
西島はマグロを諭吉専用の器に入れた。
「こいで酒があれば最高ばい」
「おう!酒ならあるぞ」
祖父は買った地酒を袋から出した。
「さすが、じいちゃんばい!」
「千尋君も後で一緒に飲もうな」
「おう!そうばい、ニッシーオス同士の話ばしよう」
祖父と諭吉から誘われる西島は複雑だ。
猫に酒を誘われるなんて!!
「えー、ずるーい、僕は?」
「碧はだめだ!あと、2年待ちなさい」
西島の言葉にちょっと、つまらなさそうな碧。
でも、「はい」とちゃんと返事をして、西島を笑顔にさせる。
拗ねて返事する顔も可愛い!!!そんな笑顔だった。
◆◆◆◆◆
多少……というかかなり驚いた事件はあったが食事は無事済んだ。
衝撃がまだ冷めない2人は祖父と諭吉を交互に見ている。
「そがん、ジロジロ見とらんでクリームばださんか?」
「お前、マグロ食べただろ?」
「だけん何や?」
西島に言い返す諭吉。
「本当にわかるんだな、諭吉の言葉」
祖父は感心している。
それは碧と西島も同じで祖父が諭吉の言葉が分かるという事に感心していた。
「凄い……」
呟く西島。
「あ、そうだ、お土産」
祖父は持ってきた袋をガサガサいわせ、中から買ってきたものを出した。
「これ、今開けていいの?お婆ちゃんとかお父さん達のお土産じゃ?」
「いや、元から碧と千尋君と諭吉にしか買ってない」
「えっ?お婆ちゃん達ガッカリするよ?」
「毎日会う人達に土産買う理由は何や?」
祖父の質問に碧は困る。
「毎日会う奴らよりも滅多に会わない碧と千尋君に買った方がいいだろ?」
祖父はその場で袋を開け始めた。
「あ、僕もちひろさんと諭吉にお土産あるんだあ」
碧も嬉しそうに袋を持ってきた。
その中にはヒロちゃんから貰ったお土産もあった。
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