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もっと欲張りになりましょう 7話
祖父からの土産は地酒から始まり、つまみやら、お菓子やらと凄かった。
その中に結構大きな袋があり、中身が気になる西島。
その袋を見ていると祖父が「あ、忘れていたよ、コレ、婆さんから」と袋を開けて中身を出した。
「碧と千尋君にって」
出されたのは浴衣。
「わあ!お婆ちゃんの手作り浴衣だ!」
碧は嬉しそに浴衣を手にする。
どうやら、貰い慣れているようだ。
「碧も社会人になったから少し大人っぽいのにしたって言ってたな。千尋君と色違い」
「本当だ!ちひろさんと色違い」
碧は西島を見る。
「えっ?俺にもいいんですか?」
西島は申し訳なさそうに祖父を見た。
「いいに決まっているだろ?」
当然だろ?見たいな表情で西島を見てくれる祖父。
「あ、ありがとうございます」
西島は照れながらお礼を言う。
「帯も色違いですよ!凄いです、ちひろさん着てみて下さい」
「えっ?いま?」
「はい、今です!」
「今……」
「僕も着たいです!!お揃いですもん」
「えっ?じゃあ、碧が着るなら」
碧が着るならみたい!!だって、可愛いから。
「ぜひ、着てくれ!写真撮りたいから」
祖父にも勧められる。
じゃあ、着ようって事になった。
「あ、でも、汗かいてるから、風呂入ってからなら」
「じゃあ、僕もお風呂入ってから着よう」
な、なに!!!碧の浴衣だとおおお!!
西島はピクリと反応する。
碧の浴衣姿は可愛い!!
ならば、早く風呂に!!!
心が急ぐ。
「ちひろさん、僕からのお土産も開けて下さい」
碧の言葉で我に返る西島。
「うん、ありがとう」
碧からのお土産を開けると、猫のマグカップやストラップ。色違いで2つあるので、どうやらお揃いで買ったみたいだ。
「えへへ、お揃いです」
照れたような顔で西島を見る碧。
「お揃い嬉しいよ、ありがとう」
西島は碧の頭を撫でる。
「それとね、会の皆がくれたお土産とヒロちゃんからのお土産」
「ヒロちゃん?」
「うん、おじいちゃんの友達のヒロちゃん。凄く優しいんだよ、あ!公園で会ったおじいちゃんなの」
「えっ?会ったって言ってた人?」
「うん、凄い偶然!ね、おじいちゃん」
碧は祖父を笑顔で見る。
「そうだな、こっちも驚いたよ。でも、ヒロちゃんは優しい人だよ?千尋君安心して良いよ」
祖父はきっと、西島が心配しているのを読んでそう言ったのだろう。
西島も碧の兄達と変わらず心配性だと分かっているから。
「はい」
祖父の言葉で西島もホッとした顔で返事をした。祖父の知り合いなら変な人ではないだろうし、全く知らない相手ではないと分かり、安心した。
「今度、おじいちゃんとヒロちゃんの家に遊びに行く約束したの」
「そうか、良かったな」
心配はしなくて良いなと思い、そう返す。
「あ、お風呂!おじいさん、先にどうぞ!」
西島は新しいタオルを探そうと立ち上がる。
「僕も一緒に」
入ると最後まで言い終わる前に西島に止められた。
どうして?と首を傾げる碧にキスマークの事をどう言おうか悩む。
「碧は千尋君と入ったらいい」
祖父は空気を読む。
「なら、ワシと入ろう」
諭吉が祖父の足元に寄って来た。
「おお、諭吉!久しぶりに一緒に入るか!」
祖父は諭吉を抱き上げる。
いいなあ!と言う目で追う碧。
こういう所は子供だと思う西島。
でも、身体は子供ではない。なんせ、昨夜つけたキスマークが身体中にあるから。
「新しいタオル出すから碧持って行って」
「はい……僕も入りたい……」
子供みたいにちょっと拗ねた顔。凄く可愛いけれど、行っておいでとは言えない。
「碧……その、夕食たくさん、キスマークつけたから……」
言いにくそうに言う西島と、あっ!!とようやく気付く碧。
「そ、そうでした」
真っ赤な顔の碧。
「ははは、ごめん、今度からは気をつけるよ」
西島は申し訳ない気持ちで謝る。
「えっ?き、気を付けなくて大丈夫です!!だって、ちひろさんとお風呂入ればいいでしょ?だから、いっぱいつけて下さい!」
必死に西島の腕を掴んで大胆な事を言う。きっと、自分で大胆な事を言っているなんて気付いていない。
ただ、そうして欲しいから。それだけ。
「うん、そうだね。俺も碧を目の前にして気をつけるとか……我慢出来ないだろうし」
「はい!我慢しなくていいですよ」
碧はぎゅっと西島に抱きつく。
「ちひろさんの浴衣姿楽しみです!いっぱい写真撮ってもいいですか?」
「もちろん!碧の浴衣姿もたくさん写真撮りたいな」
「あ、もうちょっとしたら、地元でお祭りるんですよ!浴衣着て一緒に行きたいです」
「うん、そうだな、行こう!花火大会とかもこっちであるから」
「はい!僕、こっちの花火大会、家族で来てました!帰りは凄く混んでて、僕はいつも寝ちゃってて、目が覚めたら自分のベッドで寝てたんです、恥ずかしい」
碧はそう言って照れ笑いをする。
「子供の頃?」
「あっ……その、去年まで……です」
顔が凄く真っ赤になった。
碧らしい。
「あ、こ、今年は寝ませんよ?大丈夫です!近いし!!」
焦る碧につい、笑ってしまう西島。
「いいよ、寝てしまっても、俺がちゃんと運んであげるから」
それを聞いて、眠ってしまってもいいかな?なんて、ウットリしてしまった。
だって、ちひろさんから抱っこされるの好きだもの。
だから、抱っこして欲しいなあって思った。
◆◆◆◆
「ババンババンバンバん」
祖父に抱っこされた諭吉は軽快に歌う。
「どこで覚えてくるんだ?ほんと、諭吉は……」
くすくす笑う祖父。
「ばってん、じいちゃんもワシの声聞こえとったとは嬉しかな」
「そうだな、私も嬉しいよ。まさか、猫と話せるなんてな……子供の頃から夢だったし」
「なんや?言葉分かったら嬉しか事あるとや?」
「あるさ、飼育している馬とか病気の時とか話せたら分かるだろ?」
「そうやな……こっちも、ありがとうとか伝えたかったりするけん、分かってもろうた方が嬉しかな……マグロ食べれるしな」
「そうか、諭吉はマグロ好きだからな」
「ニッシーがなんだかんだ言いながらこうてくれるとばい」
「千尋君、いい子だからな」
「ばってん、アイツはヘタレばい……そいに素直じゃなか」
「ははは、人間の男はそんなものだよ」
「人間は面倒かな……伝えんばわからんしな。ワシらより長く生きれるとにさ」
「だからかもな……その内分かって貰えるとか、長い分、いつか!って気持ちが先にくるんだよ」
「ワシらはいつか!はないばい。言わなんとな」
「なあ、諭吉、少しでも長生きしてくれよな?」
「そいは約束できん」
「そう、言わんと……1日、一秒、少しでも長く碧と一緒に居てあげてくれ……千尋君とも」
「ワシもそう願っとうばい!人間の飯は美味かもんな、もっと食べて、遊んで、暮らしたかばい」
「ははは、そうだな」
「じいちゃんはワシより少しは長生きできるとやけんな」
「少し言うな!まだまだ元気ばい!」
「風呂上がって酒ば飲もうぞ!ワシの一生は短いとぞ?一秒も大事ばい」
「そげん言うて、酒飲みたいだけやろう?」
「そうばい!」
祖父は笑って諭吉と一緒に風呂を出た。
◆◆◆◆
「おーい、上がったばい、風呂上りのミルクばくれ!」
祖父ではなく、諭吉が風呂から叫ぶ。
その声を聞いた西島はアイツめ……と笑いながらミルクを器に入れた。
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