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もっと欲張りになりましょう 9話
撮影会の後、碧がウトウトとしだす。
「碧、眠い?眠いなら浴衣脱がないとシワになるよ?」
「ん……」
目を擦りながら返事は返ってくるがどうやら限界のようだ。
しょうがないなと碧を抱き上げて、
「寝かせてきます」
と祖父に告げ、寝室へ連れて行く。
「碧、ほら、パジャマに気替えて」
ベッドに降ろして声をかけるが碧は完全に眠っていた。
本当、しょうがないなあ。
西島は浴衣を脱がせ、下着だけにする。
浴衣姿も可愛かったけれど、やはり1番興奮するのは裸だ。
流石に眠っている相手とセックスするわけにもいかないし、なにより祖父が居る。
碧にパジャマを着せると祖父に枕と掛ける物を用意した。
「碧は寝てしまったか」
西島が戻ってくると祖父に聞かれた。
「はい」
「こういう所は変わってなくて碧らしいな」
「花火大会の帰りに寝てしまっていたって本人が言ってました」
「そうだね、あの子は良く眠る子だから」
祖父はそう言って笑う。
「これ、使って下さい。ソファーは背もたれ倒すとベッドになるので」
西島は枕と掛ける物を渡す。
「急遽泊まってしまって悪かったね」
「いいんです。碧も嬉しそうだったし……大家族で去年まで賑やかだったのにこっちで1人暮らしは寂しかったと思うし、泊まって貰いたいと思ったので」
「ふふ、ありがとう。千尋君、酒に少し付き合ってくれ」
「はい。あ、オツマミ何か作りましょうか?」
何時もならアルコールは断る西島だが、折角の祖父の誘いもあるし、家に居るからと誘いに乗った。
「いや、ツマミは土産にあるものでいい」
「ワシも飲むばい」
諭吉は自分もとアピール。
「少しだけな」
「ツマミはマグロが良いかばい」
「マグロはダメだ!猫用オヤツがあるだろ!」
「なんや、ケちくされが!」
諭吉は祖父の膝の上への飛び乗る。
西島は苦笑いをして諭吉に猫用オヤツを出す。
「お!こいも結構美味かばい」
諭吉はアニアニと噛みながらに言う。
「現金なヤツ」
まあ、猫らしいけれどね。なんて西島は思う。
「千尋君もほら、おいで一緒に酒飲もう」
祖父に手招きをされて、西島も近くに座る。
「おじいさんってなんか凄いですよね」
酒を交わしながらに西島は言う。
「何が?」
「諭吉に驚かないし……俺なんて、自分の頭がおかしいのかな?って凄く悩んでて、諭吉の声は無視してましたから」
「そうばい、ニッシーは無視しとったけんな」
諭吉は酒をペロペロと舌で舐めながら言う。
「年も取れば驚く事は少なくなるな」
ふふふ、と祖父は笑う。
「それに俺と碧の事、反対しないですし……俺、殴られる覚悟で碧の実家へ行ったんです」
覚悟はあった。何を言われても仕方のない事。男同士だし、部下と上司に年まで離れている。
普通は反対されて当たり前。なので、正直、拍子抜けだった。
「うん、覚悟してるって伝わってたよ」
西島に微笑む祖父。
「ちゃんと覚悟して来って目を見れば分かったし、この年まで生きれば、見ただけで大体、どんな人間かは分かるもんなんだよ。それに碧を見てれば分かる。あんなに幸せそうな顔しているだ、きっと、沢山の愛を貰ってるって伝わるんだよ」
祖父の言葉は西島の顔を赤くさせた。アルコールのせいではない。照れて赤くなっている。
「ありがとうございます」
「千尋君は仕事上の立場も何もかも碧の為に捨ててくれるんだな……って思ったらこっちも嬉しくなったんだよ、凄く良い人を見つけたんだなってね、碧は見る目あるよ」
「や、やめて下さい!!!」
西島は照れて祖父の顔を見れない。
「なかなか、そういう人に巡り会えないものだろ?ほら、運命の人……その運命の人に碧はたった18歳で巡り会った。素晴らしいよ」
運命の人……
ああ、そうかも知れない。碧は自分の運命の人だ。
碧にとっても自分がそうならどんなに嬉しいか……
「俺にとって碧はそうですね……運命の相手です。碧もそう思ってくれているなら嬉しい」
「思っているよ、あんなに全身で言っている」
「……そうですか……嬉しいな。そんな資格与えて貰ってるかな?」
嬉しそうでそれでいてどこか寂しげで自信なさげな西島の表情を読み取った祖父は、
「碧も自信なさげな事を言っててね、ヒロちゃんに自分を卑下するのは相手に失礼だよと言われてたよ」
と言った。
「ヒロちゃん……?あ、お土産くれた人」
「ヒロちゃんの言う通りだよ、碧が悪く言われたら千尋君は怒るし悲しいだろ?それと同じで碧も千尋君を悪く言われたら怒るし悲しいと思う。碧が好きな人を悪く思っちゃダメだよ、たとえ自分の事でも」
祖父は笑うと西島の頭を撫でた。
西島は一瞬驚いたが嫌がらなかった。
凄く懐かしい感覚。
小さい頃に頭を撫でて貰った遠い昔を思い出した。
「はい……」
西島は頭を撫でてくれた祖父に微笑む。
「千尋君はね、孫みたいなモノだからね」
そこ言葉も嬉しい。
「ありがとうございます」
素直に笑って礼を言えた。
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