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もっと欲張りになりましょう 11話
◆◆◆◆
「おじいちゃん、また来てね」
駅まで見送りにきた碧と西島。
碧は名残り惜しそうにしている。
「千尋君と遊びにおいで」
祖父は碧の頭を撫でながらに言う。
「千尋君もいつでもおいでね」
西島にも微笑む。
「はい」
笑顔で返事をする西島。
出発の時間になり、祖父を乗せた電車は走り出す。
名残り惜しそうに電車が見えなくなるまで見送る碧。
「また、来てくれるといいな」
碧の頭にポンと手を乗せる。
「はい!」
西島を見上げてニコッと微笑む碧。
祖父が西島が寂しそうだと言ったのを思い出す。
家族に縁が薄い西島。もっと、楽しそうな顔になって欲しいし、寂しいと思わないくらいに沢山の愛をあげたい。
碧はぎゅっと西島の服の裾を掴む。
「寂しくなっちゃった?」
祖父が帰って寂しくなったのだろうと思う西島。
「いいえ、僕幸せだなって思ったんです」
「幸せ?」
「大好きな人が隣にいるから……おじいちゃんが朝、ちひろさんを大事にしなさいって言ってて」
「俺も昨日、碧をよろしくって言われたよ」
「改めて、よろしくお願いします」
碧は深々と頭を下げた。
西島はその仕草が可愛くて、思わず顔がほころぶ。
「うん、よろしくお願いします」
西島も頭を下げた。
「ちひろさん、遠慮しちゃダメですからね」
「えっ?」
「おじいちゃんも言ってたでしょ?ちひろさんも孫だって!僕にもおじいちゃんにも遠慮しちゃダメですから」
「うん……ありがとう」
西島は碧の頭を撫でる。
「凄く嬉しかったよ、おじいさんに孫って言って貰って」
懐かしい気持ちになれた。ああ、自分も昔は家族の中に居て愛されてた事を思い出せた。
無理矢理、心の奥に沈めてしまっていた感情。
欲しいと言っても手に入らないと知っているから言うだけ疲れるし、傷つくだけ。だったら、考えてないようにした方がいい。
けれど、最近は違う。
上手く言えないけれど、前みたいに苦しくならないし、イライラもしない。
目の前で自分に可愛く微笑む愛しい存在があるから。
不思議なくらいに元気が出るし、強くもなれる。
「浴衣着てお祭り行こうな」
西島は碧の手をギュッと握る。
「はい」
握られた手を握り返しながら碧は元気に返事した。
◆◆◆◆◆
「ゆうちゃーん、ご飯!」
斉藤は朝食をテーブルに置きながら叫ぶ。
最近は斉藤も朝食を作るようになっていて、当番制だ。
叫ぶが佐々木の返事はない。
「ゆうちゃん、何やってんだろ?」
斉藤は佐々木を探すように部屋中を歩き、ベランダにその姿を見つけた。
電話をしているようで後ろ向きだ。
ベランダのガラス戸を開ける斉藤。
「ほんと、シツコイな!」
いつもの佐々木の声よりトーンが低く、何か怒っているようで、斉藤は声をかけようか悩む。
「だから、もういい加減に」
相手に怒りながら、姿勢を変えたので佐々木は斉藤に気付いた。
「仕事行くから」
佐々木はそう言って電話を切った。
「どったの?星夜?」
ニコッと微笑む佐々木はいつもの彼だ。
「あ、うん、朝ごはん」
「そっか、ありがとう」
佐々木はベランダから部屋の中に戻り斉藤の頭を撫でる。
「電話……誰だったの?」
「ん?あ~面倒くさい奴から」
「会社関係?」
「違うよ?何だ?どーした?いつも、聞いて来ないのに?」
「だって、なんか、いつもと違うから」
「心配してくれたんだ?星夜は優しいな」
佐々木は斉藤の肩を抱き、朝食が用意されているテーブルまで連れて行く。
「ご飯食べよ?遅刻するよ」
「う、うん」
斉藤はこれ以上聞いてはいけないのかな?と空気を読んでそれ以上を聞かなかった。
でも、気になる……
最近、気付いたら誰かと電話をしている。
前は気にしなかったけど、もしかして同じ相手なのかな?
あんなに怒って……
「斉藤!」
ゴンっ!と頭に軽い衝撃があって、顔を上げた。
「西島部長」
「何度も呼んでるんだぞ?ボケっとしやがって!」
顔を上げるとそこに西島が居た。
ああ、そうか……仕事中か。
「すみません」
元気なく答える斉藤に拍子抜けな西島。いつもなら、痛いっすよ!!とか文句言ってくるのに。
「体調不良か?神林のとこ行け」
「あ、あの、部長……碧は」
「佐藤はまだ有給だ……まあ、明日には出てくるけど」
「ほ、本当ですか?」
パァーと斉藤の顔が明るくなる。
「あ~、斉藤君が元気無かったのは碧ちゃんが居なかったからかあ」
女性スタッフが納得したように言う。
「碧ちゃん居ないと確かに寂しいもんねえ」
他のスタッフも同意している。
「なんだ?佐藤に逢いたかったのか?」
「あ、はい……」
返事を返す斉藤はまた、元気がない。
「とりあえず、神林のとこ行ってこい!このままじゃ仕事進まない」
西島に言われ、斉藤は医務室へと向かった。
斉藤が出て行くのを見送り、西島は佐々木に一応、LINEを流した。
斉藤を医務室へいかせた!体調管理くらいしとけ!
と嫌味込めて。
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