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もっと欲張りになりましょう 12話

◆◆◆◆ 「あれ?斉藤くん、ランチにしては早くない?」 医務室へ行くと神林が出迎えてくれた。 「西島部長から医務室行って来いって言われて」 「えっ?体調悪いの?椅子に座って」 質問して戻ってきた返事にも彼自身にも覇気がない。 椅子に座った斉藤を触診し、体温を計らせた。 「佐々木は知ってる?」 「えっ?」 「朝から体調悪かったんじゃない?」 「いえ……ゆうちゃんは知らないと思います。普通にご飯食べて一緒に出てきたから」 斉藤がそう返した時に体温計の電子音が鳴る。 表示されている温度は微熱。 「ベッドで横になる?西島がここに行けって言ったって事は多分、佐々木にも伝わってるよ」 「へ?」 「ちひろ、そういうとこは気が効くから」 神林は斉藤と立たせて上着を脱がせた。 「ネクタイも外した方がいいよ、あと、靴下もね」 神林は斉藤の上着をハンガーに掛けながらに言う。 「先生……」 「なに?」 「最近、ゆうちゃん……変じゃないですか?」 「えっ?」 「朝も誰かに電話してて、何か怒ってて」 ああ、元気がない理由のひとつはコレか。 神林は斉藤とベッドへと寝 かせながら、 「気になるなら聞かなきゃ、斉藤くんってそういうとこ、バシって聞けるタイプでしょ?」 と言った。 「……うん、そう……なんだけど、なんか、ゆうちゃんは違うんだ。ゆうちゃんには聞けない」 「どうして?」 「女みたいにウザいって思われたくない」 「どうして、そう思うの?」 「ゆうちゃん、離婚してるでしょ?前に元奥さんの束縛も離婚の原因とか言ってたから」 斉藤は小さい子供が叱られたみたいに本当にションボリしていて、可愛らしい。 いつものお調子者でチャラそうな彼もこんな可愛いんだななんて思う。 神林は斉藤の頭を撫で、 「それでも、聞いてみなきゃ……勇気はいるだろうけどね」 斉藤は頷く。 「少し寝ると頭スッキリするかも知れないよ」 神林にいわれ、斉藤は素直に目を閉じた。 少し様子を見て、神林は側を離れる。 斉藤が言っていた佐々木が電話をしているという言葉。確かに最近良く電話をしていると思い出す。 仕事先か何かだろうとは思うけど、斉藤が健気に何か悩んでいるので気になる。 自分も悩みの現在進行形だから。 それに佐々木に話聞いて貰ったし、背中押して貰っ たのも事実。 でも……今どきの子はもっとあっさりしているものと思っていたから斉藤もそんな感じかと思ったけど、違うんだな。 碧と同じくらいに健気なのだと感じる。 ドアの向こうに誰かの気配がしたので、ドアを開けると、ちょっと驚いたような佐々木が居た。 「ノックする前に開けるって凄いな」 「斉藤君だろ?」 「そう……西島からLINEきた」 「微熱あるから寝かせてる」 「マジで?朝は元気だったぞ?」 佐々木は部屋の中へ入り、ベッドに近付く。 そこには斉藤がスヤスヤと眠っている。 額に手を当てると確かに少し熱い気がした。 「あ~連れて帰りたいけど、仕事が……」 「いいよ、俺が連れて帰ってやるよ」 「可愛いからって襲うなよ?」 真顔で見られ神林は、「襲うか!」と少し怒った顔で返事を返した。 「なーんか、斉藤君、悩んでるっぽいよ?」 「えっ?」 「お前が最近、変だって」 「変態なのはずっと前からだけどな?」 「そんな意味じゃないだろ?」 「……あ~仕事つまってるからかな?星夜に当たったりはしてないつもりなんだけどな?イライラしたらやっぱ分かるんだな」 佐々木は 斉藤の髪を撫でる。 「心配するような事じゃない?」 「ないよ」 佐々木はニコッと微笑む。 「なら、いいけど!」 「心配かけたな」 「別に……ただ、斉藤君がいつもと違ってしおらしいからさ」 「なに?まさか、惚れ」 「ません!!何度言えば分かる!用済んだなら戻れ」 イライラした表情を見せる神林。 「んじゃ、星夜をよろしく!」 佐々木はそう言うと部屋を出て行った。 本当、いつも騒々しいというか、慌ただしいというか…… でも、わざわざ様子を見に来るんだなって思った。心配してるし、好きだからの行動。 「心配しなくてもベタ惚れじゃんか!」 神林は斉藤を見てちょっと笑った。 ◆◆◆◆◆ 「あの、すみません……営業部って」 西島が受付け近くを通った時にそんな声が聞こえてきた。 声がした方には受付け。そこには派手めな男性が居る。 誰だろ? 西島はその男性を見つめる。 横顔は整っていて、なんか、誰かに似ているような? 「お約束ありますか?」 受付けの女性が質問をしている。 「あ、弟が居るんですよ、斉藤って言います」 「あ!!」 男性の言葉で誰に似ているか分かった!斉藤だ。 なので、思わず大きな声が出てしまった。 受付けの女性とその男性が一斉に西島の方をみる。 「西島部長、丁度良かった」 「西島部長?」 受付けの女性が西島の名前を呼ぶと男性が西島の名前を呼びながら見つめてくる。 そして、 「西島部長ですか?本当、星夜の言う通りカッコいい」 とニコッと微笑んだ。 その微笑みは斉藤に似ている。 間違いない……身内だ! ◆◆◆◆ 「すみません、お時間取らせてしまって」 男性は西島に頭を下げる。 受付から男性を預かってきた西島はとりあえず、客間に通した。 「いえ、大丈夫です」 西島は営業スマイルで返事を返す。 「眩しい笑顔ですね、そりゃ、星夜もうるさいくらいにカッコいいって言うな」 男性は西島を見ながら頷いている。 「あの、斉藤くんの?」 「あ、申し遅れました!私、斉藤星夜の兄で恵といいます」 「めぐみさん?」 「女の子みたいな名前でしょ?ほんと、学生時代はからかわれて嫌でした」 「わかります!自分も女の子みたいな名前なんで」 「千尋さんでしょ?」 斉藤兄は微笑む。 本当にアイツは……どこまで話してるんだよ!! 西島は変な事話してないだろうな?と思いながらコーヒーの用意をする。

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