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愛されるという事。6話
「なになに?何見てるの?」
専務が画面を覗き込む。
写真の西島をじっーと見つめて「へえ、こんなに可愛く笑えるんだね」と目を細めた。
「こんなに幸せそうに笑っている……なんか、凄く嬉しい」
専務は自分の事のように嬉しそうに微笑む。
「俺にはこんな顔しないですよ、碧ちゃん相手だから」
「篤さんヤキモチ?」
此上の言葉にクスクス笑う神林。
「でも、ここまで笑えるようにしてくれたのは君と神林くんでしょ?」
ニコッと此上に微笑む専務。
「心を閉ざした千尋の側にいてちゃんと生活出来るようにしてくれたのは間違いなく此上くんだもん。それに気付いてないの?君と話す千尋は本当に楽しそうだし、本気で戯れてる感じだよ?愛すれば相手もそれに気付いてくれるんだ」
専務の言葉に此上は少し照れたような表情を見せた。
「神林くんも同じ。千尋と仲良くしてくれてありがとう……兄達に変わってお礼を言うよ」
専務は2人に深々と頭を下げた。
「ちょ!!頭下げないでくださいよ!」
慌てる此上と神林。
「ふふ、だって嬉しいじゃない?でも、僕にもこんな風に笑ってくれたら嬉しいのになあ」
画面の西島を見つめてそう言う専務。
「千尋、専務にはちゃんと懐いているじゃないですか?家に遊びにいくとか碧ちゃんを恋人だってちゃんと言ったり」
神林の言葉にぱあと笑顔になる専務。
「そう?そう思う?」
本当に嬉しそうに聞くものだから自分達より大人な彼が可愛らしく見えてしまった。
「それにしても千尋の奴!こんないい歳した野郎3人を翻弄している」
此上は画面の西島を指先で弾く。
「こんな風に笑えるようになったから……本当は兄達に会わせたいけれど……ダメだよね?会わない約束してるって言ってたから」
専務の表情はさっきの可愛い笑顔から寂しそうな表情へと変わる。
「……そうか、居場所知ってますもんね」
此上は専務を見つめる。
「うん……前にさケーキ食べさせたでしょ?あれ、作ったの義姉さん」
「えっ?」
此上と神林の驚きの声が重なる。
「長崎でねケーキ屋やっているんだ、2人で」
「なんっ!本当に?」
此上は目を大きく見開いて専務を見つめる。
「義姉は元々、料理やお菓子作るのが上手くて……借金を肩代わりしてくれた後に2人でやっていけるようにってお金を出してくれたって聞いたよ、千尋の本当のお父さんがね」
「肩代わりしてたのは知ってますけど……その後は知らなかったです」
此上は西島の父親の性格ならばそこまでするだろうな……と思った。
「感謝してたよ、千尋をちゃんと大学まで出してくれて」
「それは約束していたって言ってたから……成人したら千尋の自由にしていいから、もし会いたかったら両親に会いに行ってもいいと彼の父親は言ってました。でも、そこまで話するタイミングというか……なんせ千尋が」
西島がいつも精神的に自分を追い込むのも知っているし、前の彼だったら込み入った話は出来なかった。
でも、今なら……今なら少しづつでも話を聞いてくれるんじゃないかって思う。
3人で黙り込むタイミングでまた、神林のスマホにLINEがきた音がした。
碧から「お土産買ってきますね、此上さんにも」とメッセージ。
神林は返信に「ありがとう……、2人どこいるの?ご当地ものを欲しいな」と送った。
すると「長崎にいますよ」と返ってきた。
長崎という言葉に3人は思わず顔を見合わせた。
◆◆◆
「神林先生、ご当地ものがいいらしいですよ」
碧は返信の文字を言葉にして西島に伝える。
「えっ?カステラ?」
「カステラ!!僕も好きです。おじいちゃん達にも買いたいです」
可愛く微笑む碧。
「お土産は明日買うとして……温泉にいくか?」
「はい!」
西島の言葉に碧は元気に返事をして、2人仲良く温泉に向かった。
諭吉は自らお留守。
そこに碧が置いていったスマホがチカチカしている。覗き込むと神林からのLINE電話。
諭吉は器用に肉球で画面をタッチして「なんや?ニッシーと碧は風呂ばい」と対応したのだった。
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