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愛されるという事。8話
◆◆◆
「此上のやつ!碧に電話とか……本当にもう!」
西島は怒りながら服を脱いでいる。
「ふふ、きっとちひろさんの事が心配だったんですよ」
西島の横で碧は笑う。
「じゃあ、俺に電話してくればいいだろ?」
「ちひろさん切っちゃうでしょ?」
碧のこの言葉は図星なので西島は何も言えない。
「愛されてますねえちひろさん」
ふふっと笑う碧。
西島は服を脱ぎかけている碧を後ろから抱きしめると「愛されるのは碧だけでいいよ」と言った。
「ち、ちひろさん!人来ますよ?」
碧は真っ赤な顔で慌てる。
「ここ、貸切だけど?」
「えっ?」
さっきチラリとみた風呂は大きかったから他の客も一緒だと思っていた。
「大きいですよ?貸切なんですか?」
「うん、時期がズレてるから数時間なら貸切になるって言われて貸切にした」
「そうなんですか?」
碧は西島の方へ顔を向けた。
「そうなんです。だから、碧とイチャイチャできる」
西島はそういうと碧の唇に軽くキスをする。
◆◆◆
「誰と電話してたの?」
電話を切った直ぐに専務の声。一瞬、ビクッとなる此上。
「あ、いや、あの」
上司とは言っていたけれど、誰と……と聞いたのできっと話を少し聞いたかも知れないと此上は焦る。まさか、諭吉とは言えない。
「此上くんさ、ソロモンの指輪でも持ってるの?」
「はい?」
専務の言葉にキョトンとなる。
「諭吉って言ってたよね?碧くんの飼い猫の名前……それとも、知り合いに諭吉っているの?」
「えっ、、……あの」
やはり聞かれていたようで。なんて誤魔化そうかと考える。
「ふふ、君でも焦るんだね。そして、嘘つけない。そういとこがいいよね此上くんは」
ふふ、と笑う専務。
「やっぱあの子話せるんだ……この前も、その前も喋ってたんだよねえ。きっと僕の気のせいだと思ってたんだ。働きすぎで頭がおかしくなったんだって。諭吉が話した時、君達何事もなかったみたいに接してるから、あ……これ幻覚かな?鬱病かな?って真剣に考えたくらい」
専務の発した言葉に此上は固まる。
ええええ!!!専務にもバレてた!!!
「諭吉……話せます」
観念して白状した。
「やっぱり!凄いねえ」
専務は目をキラキラしている。
あ、この人いい人だ。
瞬時に思った。
西島を大事にしてくれて、碧との交際も佐々木の結婚もすんなり受け止める器あるんだから当たり前か……と此上はおかしくなってしまった。
「あはは、テルさん凄いですね」
「何が?」
キョトンとする専務。
「何でも受け止めて」
「そう?結構驚いているけど?」
「そんな風には見えませんよ」
「そうかなあ?」
なんて、2人で笑い合っていると神林がやってきた。
「あ、トオル!テルさんも諭吉が喋るの知ってた」
神林に軽く言うと「はあ?」と彼はかなり驚いて大声を出した。
「ふふ、君も知ってるんだね」
専務は何故だか楽しそうに笑う。
「凄いね、小さい頃にね、本で読んだソロモンの指輪が欲しくてたまらなかったんだ。あの指輪は動物と話せるからね」
子供みたい顔で話すものだから此上と神林は和んでしまった。
話はリビングでとなり、移動。
コーヒーを専務がいれてくれたので3人で飲む。
しばらくは諭吉の話題だった。
此上も神林も初めて諭吉が話すのを知った時の事を話す。
「千尋が諭吉とうまい具合に会話してたんだよな……初めはにゃーってしか分かんなかったのに次第に会話になっている事に気付いて」
「そうか、確かに今思えば君達が普通だったのは喋るのを知っていたからだよね」
思い出してふふふっと笑う専務。
「千尋の良い相談相手みたいですよ?俺に話せばいいのに」
最後の言葉を言う時の表情は少し拗ねているようにも見えた。
「でも、此上くんも諭吉に相談してたんじゃないの?」
「まあ……的確なアドバイスきますし」
「わかる!!俺もそうだもん!諭吉、ほんと、中にじいさんが入ってるんじゃない?ってくらい」
「だな!」
此上と神林は同意。
「そんなに凄いの?じゃあ、僕も何か相談しようかなあ?」
専務はワクワク顔で言う。
「諭吉、姿も可愛いから和むし、良いカウンセラーになりそう」
此上は頷く。
「会社に諭吉のカウンセラー室でも作っちゃう?」
ノリノリの専務に2人は笑う。
「千尋のあの笑顔は諭吉も一役かってたのかあ」
専務はしみじみとそういう。
「悔しいけど、そうですね。笑顔にしてくれたのは碧ちゃんと諭吉ですもん」
「ふふ、それと君と神林くんもって言わなきゃ。あの子はもっと愛されているという自覚を持った方がいいね。良い大人が拗ねてしまっているから」
専務に微笑まれた此上は「拗ねてません!!」と言い切った。
でも、此上も思う。
西島をみんな大事にして愛してくれている。
彼の実の父親の博巳もそうだし、母親と義父もそうだ。
愛しているから手放したのだ。
愛しているから手元に置いた。
それだけだったのに拗れてしまった。
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