326 / 526

気持ちいい事しません? 5話

◆◆◆◆ 「ちひろさんのパジャマ着ていいんですか?」 嬉しそうに西島を見上げて微笑む碧はブカブカなシャツがとても良く似合っている。 「うん、碧にその色似合うから」 「えへへ、僕、ちひろさんのシャツ着るの好きなんです。ちひろさんの香りするから」 シャツは洗ってあるから使っている洗剤の匂いでもあるのだが、碧にとってはそれも西島の匂いのひとつなのだ。 袖も長くて、萌袖というらしいが……指先だけ出るのは確かに萌えるな、なんて西島はニヤケてしまう。 「あの、下着知りません?」 碧はキョロキョロと周りを見ているのだが自分の下着がない。確かに先程、下着を出したと思ったのに。 「ん?そのままがいいなあって、ダメ?エプロン汚しちゃったし」 下着をかくしたのは西島。裸エプロンも好きなのだが、俺シャツにノーパンも大好きなのである。変態と罵られてもいい!!と開き直れるくらいに。 シャツにノーパン……下がスースーするが、西島の希望ならばと「は、はい」と恥ずかしそうに承諾する。 「夕飯手伝うよ」 西島は碧と一緒にキッチンへ戻る。 碧のカツ丼と西島がスープとサラダを作り、テーブルに並べた。 「カツば食いたか!」 匂いに釣られ、諭吉が走って来た。 「だめ、油が多いから」 「なんやケチくされ、くれんとじいちゃんに碧に裸エプロンとかパンツば穿かせんとかチクるばい!良かとか?」 西島のダメに対して脅迫する諭吉。 「お前なあ……マグロ食べただろ?」 「そいとこいは別ばい?ワシも美味いとは食べたかに決ってとろーが」 「……もう!」 西島は衣を取ると肉だけを諭吉に与える。 「諭吉、ダメでしょ?ワガママ言ったら、ちひろさんは諭吉の身体の事を考えてくれてるんだよ?」 碧は諭吉の皿に猫用ミルクを入れて床へ置く。 「おお、ミルクか」 諭吉は西島の側から離れミルクを飲みに行く。 「ちひろさんすみません……」 ペコリと頭を下げる碧。 「いいよ、人間のワガママより可愛いだろ?マグロはちょっと高いけど」 「ありがとうございます。ちひろさんがちひろさんで良かったって思います」 「はい?」 碧の急な言葉にキョトンとなる西島。 「諭吉の言葉を聞けて、ワガママも聞いてくれて……僕を大好きって言ってくれて……僕が好きな人は凄いなって思って」 諭吉の頭を撫でながらに言う。 「だって、普通なら猫が喋るとか信じないですし、酷い人なら研究所とかに売ったりお金儲けしたりするでしょ?諭吉と会話して、ワガママ聞いてくれるなんて、ちひろさんだからだと思います」 ふふ、と可愛く笑う碧。 「ばか……」 西島は照れたように笑う。 「俺も猫飼いたいってずっと思ってて……動物って何考えているんだろうなって子供の頃考えて……話せたら良いなって思ってたのが叶ったんだから、お礼言いたいくらいだよ?」 「ちひろさん」 「碧も……碧で良かったって思うぞ?可愛い外見なのに中身は俺よりもしっかりしてるし、男前だろ?」 「えっ?本当に?」 しっかりしているという言葉と男前という言葉にしっかりと反応する碧。 「うん……こんなに可愛い子に甘えていいんだって思うよ」 「は、はい!!いっぱい甘えてください!!」 碧は立ち上がり、力む。 「じゃあ、甘やかして貰おうかな?おいで」 西島は両手を拡げて碧を呼ぶ。 碧はその腕の中に嬉しそうに飛び込む。 飛び込んできた碧を膝の上に乗せる西島。 「何したらいいですか?」 「んー?じゃあ、ぎゅっとして?碧を充電したいから」 「はい!」 碧はぎゅっと抱きつく。 「ちひろさんお仕事お疲れ様です」 「うん、ありがとう」 「頭よしよしもしますか?」 「えっ?」 ちょっと戸惑う西島だが、「うん」と返事をする。 碧は西島と向き合うと頭を撫でる。 「お仕事頑張りましたね!偉いです」 ニコッと微笑む碧。 頑張りました。偉い…… その言葉は幼い頃に絵や運動、勉強を頑張る度に頭を撫でて褒めてくれた義父を思い出した。 母親は西島が描いた絵を壁に貼ってくれたり、御褒美にケーキを焼いてくれた。 母親の焼くケーキはどれも美味しくて……。 でも、褒めてくれる事はもうない。 引き離された日から褒められる事がなくなり、ミサキや世話係の此上が代わりに褒めてくれた。 でも、何か足りなく感じていた。 凄いねって言葉も頑張ったねって言葉も同じなのに何が違うんだろうって思った。 大人になって、褒められる事はそうそうない。 仕事もやって当たり前、頑張るのも当たり前……わざわざ褒めたりしない。 「うん、頑張ったよ」 西島は心がぎゅっと締め付けられ思わず碧を抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!