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信じなきゃダメです

◆◆◆◆ 「神林センセ」 歩いていると、後ろから大きな声で名前を呼ばれ、ビクッとつい身構える神林。恐る恐る、呼ばれた方向に視線を向けた。 チャラい男性が大きく手を振っている。 斉藤くんのお兄さん? 神林は恵の方へ近寄る。 「ね、ほら、中に知ってる人居るっていったでしょ?」 恵は受け付けの女性に微笑んでいる。 「もうさ、西島部長呼び出そうとしたけど、お昼に出てますって言われるしさ、星夜は寝てるから呼べなくてどうしようかと」 恵が言った西島の名前につい、反応してしまう神林。 「あ、そうだね、千尋はランチだ」 「へえ、神林くん、西島部長を名前呼び?」 恵は羨ましそうというか、不思議というか、そんな顔をしている。 「斉藤くんでしょ?こっち」 神林は恵の質問に答えず、恵を連れて歩く。 「医務室の場所は昨日来たから覚えてるんだけど、受け付けのお姉さんが通してくれなくて」 ニコニコしながら話す恵。 「そりゃ、そうでしょ?アッサリ通されたら受け付け置く意味がない」 「確かに……星夜、昨日帰すんじゃなかったな。熱出すんなら」 ブツブツ文句を言い出す恵。 「ゆうちゃん、ちゃんと休ませてくれなかったんだな!」 「えっ?佐々木を知っているんですか?」 恵からゆうちゃんの名前が出て驚く神林。 「ゆうちゃんって佐々木っていうんだ……佐々木なに?ゆう?」 「佐々木裕次郎」 「裕次郎……それでゆうちゃんか、嵐を呼ぶ男か」 「古い映画良く知ってますね?」 「神林先生もでしょ?」 クスッと笑う恵。 「祖母が好きで」 「うちはじいちゃん……もしかすると、名前、裕次郎だったかも」 「佐々木の名前はそうらしいですよ」 「へえ……佐々木ってどんな奴?イケメン?役職は?」 「えっ?あれ?佐々木を知ってるんじゃ?」 質問してくる恵に余計な事を言ってしまったかな?と少し後悔する神林。 「名前だけ、昨夜、ゆうちゃんって名前をどれだけ聞いたか」 「まあ、斉藤くんと佐々木、仲いいから」 「会社でもイチャついてんの?」 「それはやらない。互いに迷惑になるだろ?」 「この会社ってオフィスラブ禁止?」 「まあ……それなりに。揉めるでしょ?」 「うちも客との恋愛は禁止してるな、女出来ると辞めちゃうから」 「家庭持つから?」 「違う、女は嫉妬深いだろ?女が辞めさせるんだ。他の女との接触を嫌がる……でも、頭使わないで稼いでいた奴は何食わぬ顔で戻ってくるけどね」 「大変なんですね」 「どの仕事も大変でしょ?神林先生だって大変な仕事してるし」 「俺は……」 「頭いいでしょ?神林先生……俺、そういう子タイプ」 「は?」 「昨日も思ったけど、本当、可愛い顔してるよね、メガネ取ってよ」 手を伸ばし、メガネを取ろうとする恵の手をガード。 「ダメです!勝手な事をしないで下さい!だいたい、可愛いとか男性に言う言葉じゃない」 神林はビシッと恵に注意する。 「ほら~神林先生のそういうとこ、ゾクゾクする」 「はあ?M?」 思わず口に出た言葉。 「俺、Mだよ?良く分かりましたね。神林先生に怒られたい……もしくは西島部長」 また、名前が出てピクッと反応しそうになる。 「怒りません!はい、着きましたから弟さん、連れて帰って下さい」 神林は持っていた鞄を恵に押し付ける。 「なに?急に怒って……ツンデレのツンの方?」 「どっちでもない!」 神林はベッドに寝ている星夜の肩を掴み揺する。 「お兄さんきたよ?斉藤くん!」 「星夜、起きろ!」 恵も一緒に声をかける。すると、目を開け寝惚け眼で神林と恵を交互に見る。 「めぐちゃん……ほんとにきた……仕事は?」 「星夜が熱出したんだ、仕事どころじゃない」 星夜の身体を支えるように起こす。 「ありがとうめぐちゃん、優しい」 星夜は恵にぎゅっと抱きつく。 ……神林は2人のスキンシップを見ながら、凄いと思っていた。兄弟ってこんなにスキンシップする? 俺だって弟いるけど……こんな?ね? 恋人同士みたいにイチャイチャしているようだ。 「ほら、靴下」 恵は手馴れたように星夜の前に跪いて彼に靴下を履かせている。 んん?やる?えっ?こんな事する? 待って……おかしくない?相手が幼稚園くらいならわかるけれど、成人した男性2人。 えっ……うそー。 神林が見ている前で靴下は2足とも履かせて、靴までも! 「あの~いつも、こんな風にやってるんですか?」 神林は不思議すぎて、つい、聞いてしまった。 「あ、つい……星夜は赤ちゃんの頃から面倒見てるから」 ふふふと笑う恵。赤ちゃんの時から? いやいやいや、納得出来ないでしょ?えっ?俺だって、弟は赤ちゃんの時からだよ!! 「ほら、星夜立って」 「ん~めぐちゃんダルい……抱っこ」 星夜はだるさから恵に抱きつく。 んん?神林はメガネをかけ直し、耳をかたむけた。抱っこっていいましたか?そう聞きたかった。 「仕方ないなあ」 恵は神林の前でヒョイと星夜をお姫様抱っこした。 ぬわあ!!!えっ?抱っこすんの?まじ? 神林は目を疑った。 「神林先生、すみません鞄持ってきて貰ってもいいですか?持てなくて」 驚く神林にお願いする恵。神林もつい、はい。と鞄を持ってしまった。 歩き出す恵。 えっ?えっ?まじで? 困惑しながら恵の後を神林はついていく。

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