342 / 526
信じなきゃダメです 4話
◆◆◆◆
もう直ぐ退勤の時間。
西島は目と鼻の先にいる碧にラインを送る。
ブブッ、とバイブする碧のスマホ。何かな?と碧はスマホをチラリと確認。
そして、キャッ!と危うく声に出しそうな勢いだった。
西島からのライン。しかも、自分の視界に入る彼は何食わぬ顔でパソコンを弄っている。
こっそりと開いてみる
『用事があるから先にスーパーに寄って欲しい』
きゃあ!ちひろさん……
こんなに近くにいるのにこんなやり取り。
高校生の頃をふと思い出してしまう碧。授業中、友達と手紙をコッソリ回していた。
それよりは胸がときめく行為だ。
『わかりました!じゃあ、今夜も僕が作りましょうか?』
碧が送ったラインは直ぐに既読になり、
『いや、一緒に作ろう』
一緒に……ふふふ、『はい。一緒に作りたいです』
碧はそう返して西島をチラリと見る。
彼も碧を見てくれたようで目が合った。
少し笑ったような西島の表情に碧は照れて俯いてしまう。
ど、どうしよう……ドキドキ、ドキドキする。
他のスタッフは碧と西島がこんなやり取りをしているなんて知らないし、そもそも、付き合っているなんて知らない。2人だけの秘密というのはこんなにもドキドキするのかと碧は思った。
それは西島も同じ。
学生時代は付き合っている人なんて居なかったし、西島が恋焦がれた相手は自分より大人の人だったのだから、皆に内緒で付き合うとか、同じ空間に居てコッソリとやり取りなんて、初めての体験だ。
なんか、いいかも知れない……
西島はニヤニヤしそうになるのを我慢した。
◆◆◆◆
「お、お疲れ様です」
退勤時間、碧は急いで鞄を持ち皆に挨拶をする。
「碧ちゃんお疲れ様、急いでるの?」
「は、はい!」
女性スタッフがバタバタしている碧に声をかける。
「今日、スーパーの特売なんです!!」
碧はそう言って出て行った。
「可愛い、スーパーの特売だって……碧ちゃんちゃんと自炊してるんだ、偉いなあ」
女性スタッフ達が感心している。
「お前らも負けてられないだろ?男の子が自炊してるんだから」
男性スタッフが会話に入る。
「え~セクハラ!!」
「はい、お疲れ様です、みんな、帰った、帰った!」
西島は碧の会話で盛り上がるスタッフ達に帰るように促しながら自分もそそくさと退勤する。
書類提出して、それから……なんて考えながらとにかく、碧に早く追いつきたい西島はいつもよりカツカツと早歩きだ。
雑用を片付け、出口に向かう途中で神林の後ろ姿を見かけた。
声をかけようとして止めた。
神林が誰かと話している。
見た事がある女性……、
佐々木の元妻。なんで、一緒にいるのだろう?
気になっていたら、彼女と目が合い会釈されてしまった。
よって、神林も西島の方を振り向き、自分の存在がバレる。
◆◆◆◆◆
そして、何故か3人で会社の近くの喫茶店に居た。
神林が佐々木の元妻と話していたのは偶然に会ってしまったからだった。
佐々木を尋ねてきたが、出張なので会えなかった時に偶然に神林が通りかかり、彼女から声をかけられた。という事だった。
さて、どうしようか?この空気……と西島が悩んでいる時に言葉を発したのは彼女だった。
「佐々木の出張って……お義父さんでしょ?多分」
「はっ?」
西島と神林の声がハモった。
「佐々木、男の子と暮らしているでしょ?」
その言葉に西島と神林は吹き出しそうになるのを耐えた。
「それが、お義父さん気に入らないんだと思うわ……私、離婚したのは正直、お義父さんが苦手だったからだもん」
「えっ?そうなの?」
また、西島と神林の声がハモった。
離婚の理由はいくら友達でも聞にくい事なので、詳しくは知らなかったのだ。
「そうなの!!ほんとね……もう、ぶっちゃけるならクソジジイよ!!」
元妻は鼻息も荒くそう言ったものだから、西島と神林は吹き出しそうになるのをまた、耐えたのだった。
ともだちにシェアしよう!