347 / 526

信じなきゃダメです 9話

人を好きになるって簡単な事ではなかった。 セックスも気持ち良いからしていたし、気持ち良い事の何が悪いの?なんて思う。 気持ち良い事は好き。 でも、セックスは好きな相手……恋人としての相手、愛しい存在。 その人の事を考えるだけで楽しかったり辛かったり泣いたりするけれど、その先にはセックスよりも気持ち良い世界があった。 初めての世界かも知れない。 本当に人を好きになる前にセックスを覚えてしまってセックス、イコール好きではなかった。 だって、気持ち良くしてくれる相手は世の中に数え切れない程にいる。 一夜だけの関係を文句も言わず付き合ってくれる人、恋人や結婚相手が居ても簡単に体を開く人が数え切れない程にいて、本当はそれで幻滅していたのかも知れない。 面倒くさくなったら離れれば済む。そんな簡単な関係。 相手の為に泣きて悩んで喜ぶなんて家族以外に存在するなんて思わなかった。 佐々木は今までの相手と違った。 セックスして終わりの関係になりたくないと初めて思えた相手。 どうして、それが佐々木なのだろう? しかも、相手は男だ。 男同士の恋愛が存在するなんて初めて知った。 佐々木と居ると初めてな事に沢山出会える。 女の子を抱いてた自分が歳が離れた男に抱かれている。 しかも、会社では上司だ。 不思議だ。自分でも不思議としか思えない。 そんな話を掻い摘んで碧に話す。 「星夜くんは運命の相手に出会えたんですよ!佐々木部長は運命の人です」 電話の向こうの碧の言葉にハッとする。 「運命の相手……?」 「夏……あ、姉がいつも言ってたんです。僕、社会人になるまで恋人はおろか好きな人さえ居なくて、子供なのかな?って悩んで居たら運命の相手を探しているだけだから気にしなくて良いって……姉がちひろさんは運命の相手でちひろさんに会う為に僕はずっと待っていたんだって言われて、ああ、そうか!って納得しました」 照れたような声のトーン。 「星夜くんは佐々木部長と会う為に特定の人を作らなかったんですよ!いつか、絶対に出会えるって星夜くん知っていたんですよ、僕、幼稚園の時に教会に通ってて、そこで人は産まれる前に生まれてからの辛い事ばかり聞くって、でも、そしたら人は生まれたくないから嫌だって神様に言うと神様はひとつだけ、良い事を教えてくれるんだって……例えば運命の人に会えるよ?とか、それを聞いて人は生まれてくるって言ってました。でも、生まれた時にはその良い事を忘れているのだけど、心の奥にちゃんと記憶してあって、会った瞬間にドキドキして……あ、この人だって分かるんです!星夜くんにとっての良い事は佐々木部長なんですよ!星夜くんは佐々木部長に会いたくて生まれてきたんです!だから、ドキドキするんですよ!」 碧の言葉を黙って聞いていた。 うん……運命の相手…… 凄くドキドキする。 凄く好きだって思う。 ああ、そうか、ゆうちゃんの事を俺は聞いて生まれて来たんだ。だから、今までの相手とは違うドキドキがするんだ。 うん……そうだよ、運命の相手だ。

ともだちにシェアしよう!