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信じなきゃダメです 16話

◆◆◆◆◆ いつもよりザワザワとした教室。 いつもはしない香水の香り…… 「ほら、静かにして!授業始めますよ!」 女性教員がザワつく生徒に一喝。 参観日。……西島は参観日が嫌いになっていた。 だって、待っても母親は来てくれないって知っていたから。 今の家に来るまでは参観日は恥ずかしいけれど、楽しかった。 親に良い所を見せられる日。ワクワクした。 でも……もう、来てくれない。 西島は俯いていた。 ガラガラ、と教室のドアが開く音がしたので、生徒達はそちらを一斉に見ているようだが、西島は見ない。 だって、誰も来ない……待っても来ない……。 「えー、カッコイイ……誰のお父さん?」 「えっ?お父さんなの?若くない?」 女子達がザワつくから、つい、西島も後ろを振り返った。 振り返ると、そこにはスーツを着て母親達の視線を一気に浴びる此上の姿があった。 西島と視線が合うとニコッと笑って手を振る。 ちょっと驚いた。 参観日の話なんてしなかったのに。 「えっ!!西島くんのお父さん?カッコイイ!!」 女子達が自分と此上を交互に見て興奮している。 「ほら、みんな、授業始めるから!」 騒ぎを一喝するようにまた、教員が正面を向くようにと声をかける。 西島はもう1度、後ろを見た。 此上が口パクで「前を向きなさい!」と言っていて、なんか、笑ってしまった。 誰も来ないと思っていたのに、自分を見に来てくれる人がいた……凄く、凄く嬉しい事だった。 それから、此上が自分の特別の人のような気がして……きっと、自分の側にずっと、居てくれるって思っていた。 一人ぼっちにはしないって…… でも、「千尋の俺への想いは恋じゃないよ……大丈夫、ちゃんと、自分から好きになる相手が現れるから」って、突然……拒まれた。 自分勝手な想いだったのだと思い知らされた。 所詮……自分は1人なのだと。 此上にももう、頼ならない。どうせ、人は1人で死んでいくものなんだから。だから、1人でも平気。 そう、引き離されたあの日から、1人だったのだ。 1人は凄く寂しくて怖くて死にそうなのに、平気な振りをしなければならなかった。 泣きたいのに我慢しなければいけなかった。 本当は誰かに助けて貰いたかった。大丈夫!1人じゃないよ?って言って欲しかった。抱きしめて欲しかった。 心に隠した願いを見つけてくれたのが碧だった。 自分より年下で子供みたいな可愛い顔をしているのに、中身はきっと、自分より強い。 碧が自分の名前を呼んでくれると心が温かくなる。 大好きだと言葉にしてくれると、安心する。 やっと、見つけた……。 此上が言ってた……自分で見つけられると……その相手が碧だ。 だから、絶対に離したくない。 自分の側から居なくならないで…… もう、1人は嫌だ…… そう思っていたら、誰かが泣いてるのに気付く。 西島は誰が泣いているのだろうと目を開けた。 「ひっ!!」 つい、声が出た。 目を開けると自分を見下ろす光る目が2つ。 「しっ!!碧が起きるばい!」 プニプニした肉球が西島の口に置かれた。 諭吉か!! 西島は諭吉を片手で掴むと起き上がる。 ちょっと、喉渇いたな……と諭吉をベッドの下へ降ろし、自分もベッドから降りた。 冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを出す。 「ニッシー、ミルクば飲みたいばい」 「ミルク?ちょっと、待ってろ」 西島は諭吉用に買ったミルクを出して少し温める。 「ニッシーもミルク飲もうや」 「俺も?」 「蜂蜜あるやろ?ミルクば温めて蜂蜜入れて飲め!婆ちゃんが碧が眠れなくて泣いてる時によう作ってやっとった」 ホットミルク…… 西島にも思い出がある。母親がホットミルクに黒糖を入れてくれた。 甘くて美味しかった。 此上も……夜中に、泣いてるとベッドまで温めたミルクを持って来てくれて、寝付くまで側に居てくれた。 懐かしいな……と、西島はミネラルウォーターを冷蔵庫に戻し、ミルクをカップにつぐ。 電子レンジで温めて、蜂蜜を少し入れた。 椅子に座ってミルクを飲むと懐かしい味がする。 諭吉も西島の足元でミルクを飲んでいる。それを眺めていると心が落ち着いてくる。 不安な気持ちが見え隠れして、正直眠れない。 子供の頃みたいだ。あの頃は今よりもっと弱くて不安が心と身体を蝕んで直ぐに熱を出した。 あの頃より大人になっているはずなのに……少し、眩暈がするような感覚に襲われる。 「ニッシー、どげんしたとや?」 ミルクを飲み終わった諭吉がピョンとテーブルに上がった。 「ん?何でもないよ」 西島は諭吉の頭を撫でる。 「ニッシー、悩みがあっとやろ?」 「えっ?」 「うなされとった、だけん、上に乗って起こしたとばい」 ああ、だから諭吉が上に居たのかと思った。 「うなされてた?」 「そうばい、泣いとった」 「泣いて……た?」 えっ?あれ?誰か泣いてるって思ってたのは自分?マジで?……いい年した大人なのに? 「ニッシー、心に余計なもんば貯めるとな、息ができんくなっとぞ?寝ている時に泣くとは泣く事ば我慢しとるけんぞ?ちゃんとな吐き出せ」 西島は諭吉を引き寄せ、胸の上で抱きしめる。 モフモフとした毛が柔らかくて温かい。 諭吉はペロペロと西島の髪の毛を舐める。 頭を撫でる手がないからかな?なんて西島は思った。 「大人でもな、泣いてよかとぞ?泣いてはダメとか決まりはないぞ?心のモヤモヤは毛玉みたいに吐き出せ」 「毛玉……」 西島は笑う。 「そうばい!毛玉みたいに吐き出すと良か」 「諭吉……人間は毛玉は吐かないぞ」 「同じようなもんやろ?モヤモヤするとやけん」 「そうだな……」 西島は諭吉の頭を撫でる。 「ありがとう諭吉」 西島はギュッと抱きしめる。 ◆◆◆◆◆ ゆうちゃんに早く会いたい…… 斉藤からのメッセージ。 俺だって会いたい……なんて、返事をする。 「お前がそんな顔してるの見れば親ならば許すもんなんだろうけどな」 斉藤とやり取りをする佐々木を見ながら微笑む叔父。 「相手が男だから……ってわけではないとは知ってる、俺の結婚した相手も嫌ってた……一般の家庭だからとか時代錯誤な理由つけて……ほんと、平成の世なのに笑ってしまう」 佐々木は叔父と目を合わせて微笑む。 「縁を切ってくれた方が助かるのに」 「それはしないだろ?お前、長男だし」 「遺産とか興味ない、自分で稼いでるし…ヒロ兄にも権利あるじゃん?」 「俺もな、金はあまり興味ないんだ!あれば助かるけど、多すぎる金は余計なモノまで引き寄せるからな……金に目がくらむ奴ら腐る程見てるから」 「苦労してんだね」 佐々木は笑う。 「お前は自由にして欲しいと俺は思うよ」 「ありがとう……」 「とりあえず、飯は食え!」 叔父は目の前に並ぶ料理を食べるように促す。

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