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大丈夫です!側にいますから。

◆◆◆◆ 「千尋、起きろ」 神林は西島の身体を揺する。 「ん……」 モゾモゾと動く西島。 「こら、起きろって!」 神林はシーツを剥がす。 西島は丸くなったままで、その寝姿は本当に子供みたいで可愛かった。 「千尋……」 肩を掴んで顔を覗き込む。 寝息がして、熟睡していて、相変わらず寝顔が可愛い。 起きていると眉間にシワあったり、怒っていたりするけれど、眠っていると、学生時代の彼のままなのだ。 可愛い……この一言に限る。 い、いや、見惚れてないから!! 「起きろ!!」 耳元でシャウトすると、ようやくモゾモゾと動いて目を開けた。 「かん……ばやし?」 ボンヤリした顔を神林へ向ける。 くっ!!!か、可愛いとか、可愛いとか思ってないからな!! 「時間!」 「ん~」 西島はよっこらせっ!という感じで身体を起こした。 まだ少し眠いのか、ウトウト気味。 「昨夜、寝てないのか?」 神林はコーヒーを淹れると西島にカップを渡す。 「ありがとう」 カップを受け取り、コーヒーを飲む。 「あつい……」 神林に熱いと訴える西島。 「あー、もう、ほら!」 神林は冷蔵庫から氷を1つ出して、彼のカップに入れた。 「ありがとう」 そのまま飲む西島。 くそう!!!可愛いとか!!くそう!!思ってないから!! 焦る神林をヨソに西島はコーヒーを飲んでいる。 「午後から何かあるのか?」 「ん、会議」 「大丈夫か?何だか顔色悪そうだけど?」 「大丈夫、起きぬけだから」 西島はコーヒーを飲み干すと空のカップを神林へ渡す。 「行ってくる……上着」 ベッドの端に座ったままに自分がかけた上着を見ている。 「あー!ほら、世話の焼ける!」 神林は上着を取ると西島に渡す。 「ありがとう」 西島は上着を着ると立ち上がる。 「会議何時に終わるんだ?飯は?」 「碧が食べに来るだろうから、会議だって伝えて、会議終わるの何時か分からないからさ」 「お前、飯はちゃんと食えよ?」 「うん、大丈夫」 西島は歩き出そうとして、フラリと足がもつれた。 側にいた神林が咄嗟に抱き止めた。 「千尋!お前、本当に大丈夫なのか?」 神林は西島の額を触ろうとするが、スルリと逃げられた。 「起きぬけだから足がもつれただけ」 笑って見せる西島。 「体調不良なら、後で来いよ?」 「うん、ありがとう」 西島はヒラヒラと手を振って医務室を出て行った。 アイツ、大丈夫なのか? 神林は少し不安になる。 ただ、寝方が何時もと違っただけ…… 寝起きだから、ふらついただけ? それだけだといいけれど? でも、不安は消えなかった。 ◆◆◆◆◆ 「碧、ご飯いこー」 昼休み、斉藤に声をかけられる碧。 「はい!神林先生の所へ行きませんか?」 「うん」 斉藤は鞄から弁当を出す。 「星夜くんが作ったんですか?」 「ううん、めぐちゃん」 「お兄さん……星夜くん、お兄さんをめぐちゃんって呼んでるんですか?」 「うん、めぐちゃんって呼んでるよ」 碧の横に並び一緒に歩く。 「恰好いいお兄さんですね」 「うん、めぐちゃんは恰好いいよ」 碧に褒められて嬉しそうな斉藤。兄が褒められるのは素直に嬉しい。 そして、医務室に着く。 「こんにちは」 ドアを開けて中を覗く。 「いらっしゃい」 笑顔で迎えてくれる神林に碧も斉藤も笑顔になる。 「碧ちゃん、千尋は会議だからちゃんと食べなさいって」 「えっ?ちひろさん、ここに来たんですか?」 「あ、寝てたよ西島部長」 「えっ?」 驚くように斉藤を見る碧。 「ぐ、具合悪いんですか?」 斉藤を見ていた表情が直ぐに心配そうな表情へ変わる。 「大丈夫だよ、碧ちゃん…千尋、前から会議の前は寝に来てたんだよ、頭をスッキリさせる為に」 神林は咄嗟に嘘をついた。 不安そうな碧を安心させたかったのだ。 「それならいいんですけど……昨日から、ちひろさん様子がおかしくて……朝も立ちくらみして」 「立ちくらみ?」 神林は西島が倒れ込んで来たのを思い出す。 起きぬけだからとか言ってたけれど、本当は体調が悪かったのか? アイツ、体調不良でも無理したりするから…… って、そうだ!千尋の大丈夫は大丈夫じゃなかった!! 神林はあの時に無理矢理でも診察すれば良かったかな?と思ってしまった。

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