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大丈夫です!側にいますから。 4話
なんで、こんなに気持ち悪いのだろう?
眩暈もするし、吐き気もする。吐き気は多分、眩暈のせい……クルクルと回る乗り物に乗って酔った感じに似ている。
神林は大きな駐車場へと入り車を停めた。
車が停ると今がチャンスと逃げ出そうとするが、此上がガッチリと腕を掴んでいる。
「もしかしなくても逃げようとしてるだろ?」
ニヤリと笑う此上。
行動がバレてソッポを向く。
「千尋の行動パターンは分かってるんだから諦めろ……それに、ここはもう病院の敷地内だ」
「マジ……」
西島は身体を起こして外を見る。
此上の言う通り、病院の駐車場だ。
あー!!!!くそ!!
「降りない」
子供みたいなワガママを言う。
「トオル、ドア開けて」
此上に指示され神林は後部座席のドアを開ける。
「だから、降りないってば!」
そんなワガママが此上に通るわけもなく、アッサリと車から降ろされた。
嫌がる西島を肩に担ぎ、歩く。
「降ろせってば!馬鹿!」
ジタバタ暴れて文句を言う西島を無視して、此上は病院へ入って行く。
正門ではなく、裏から。
「篤さん、入口こっち」
神林が不思議そうに玄関口を指さす。
「いいんだよ、こっちで」
何だか慣れた感じというか知っているのだろうか?
迷わずに歩いて行く。
裏手に回ると外来患者用の小さな受付があった。
「あれ?此上くん……と千尋くん?」
受付の前にいた初老の医師が此上を見て微笑む。
神林はあれ?っと思った。
この医師は2人を知っている。
「久しぶりじゃないの?千尋くん、相変わらず、世話焼かせてるんだね」
肩に担がれた西島へと声をかける。
「だから、嫌だって言ったんだ!いい加減に降ろせ!」
文句を言う西島。
「文句を言う元気はあるみたいだね、じゃあ、こっちおいで」
医師は手招きする。
診察室へと連れて来られた。
「あら、千尋ちゃん?久しぶりじゃないの」
年配の看護師が西島に微笑む。
ああ!!!もう!!!
本当、ここにだけは来たくなかったのに……西島は帰りたくてたまらない。なんせ、この病院は子供の頃から通ってた病院。
病院に連れて行くと此上に言われた時にいつも来ていた病院が近くにあると思い出したのだ。
だから、嫌がった。
西島は不機嫌なまま、椅子に降ろされる。
「千尋くん、大きくなったなあ……いま、大学生だっけ?」
「院長先生、千尋ちゃん、とっくに成人してますよ?」
年配の看護師に言われ「ありゃ、そうか!」と笑う。
本当、だーかーらー!来たくなかったんだあ!!!と西島は心でシャウト。
「久しぶり来て無かったのに、どーした?」
「熱が高くて」
医師の問いかけに此上が答える。
「なんで、此上が答えてんだよ!」
「千尋はどうせ答えないんだろ?」
「どうせとか言うな!熱なんてないから帰る」
西島は立ち上がろとする。
「あるから来てるんだろ!大人しく座ってろ」
「命令するなよ!」
「言う事利かないからだろ!」
「うるさい!」
2人の会話が段々と喧嘩越しになっていくのを神林はハラハラして見ている。
「あ、あの止めた方がいいですか?」
年配の看護師に小声で聞く神林。
「ああ、いいのよ。兄弟喧嘩みたいなものよ」
慣れたような感じで答えれた。
院長先生と呼ばれた医師も迷惑そうではなく、楽しんでいるように見える。
「千尋ちゃんと此上くんは千尋ちゃんが小学生の頃からの常連なの……常連っておかしい言い方だけどね」
あ、だから慣れた感じなのかと思った。
「えーと、昔っからあんな感じなんですか?」
「んー、小学生の頃の千尋ちゃんは大人しくて話さない子供だったわ。心療内科にも通ってたし……中学に上がった頃からかしら?あんな風に言い合うようになったのよ……ふふ、相変わらずね千尋ちゃんも……此上くんが唯一甘えられる存在だからあんな感じになるんでしょうね」
ふふ、と笑う看護師。
「そろそろ、気が済んだだろ?」
院長が言い合う2人の間に入る。
「どうせ、診察されるんだから」
その言葉で此上に逃げられないように羽交い締めにされる西島。
西島も言い合って気が済んだのか、それとも、体調不良のせいなのか、大人しくなった。
◆◆◆◆
点滴を受ける頃には疲れたのかベッドで眠ってしまった。
「トオル、千尋を見てて、先生に診察結果聞いてくるから」
此上は神林にお願いすると、椅子に座る院長の側に行く。
「ふふ、散々言い合うと毎回これなのよ」
点滴の様子を見ながら看護師が笑う。
「なんか……初めてみました。子供みたい千尋」
神林はベッドの側の椅子に座る。
「……そうね、千尋ちゃん……心に問題抱えてた子だったから……此上くんの前なら素直になれるというか、子供みたいになるのよ」
確かに……
言い合う彼は子供みたいで……子供が駄々をこねる。あんな感じだった。
初めてみた、子供みたいな彼。
大人に甘える子供……兄弟みたいな?
いや、……親?
父親?
神林は眠る西島を見つめて、そんな事を考えていた。
◆◆◆◆
「トオル、点滴終わったら連れて帰っていいって」
肩に手を置かれ、此上の方を見る。
「結果は?」
「目が覚めたらガッチリと怒らないとダメなレベル」
「は?」
「千尋、丸一日何も食べてないし、水分もあまり取っていなかったみたいだ……熱はストレス」
「えっ?食べてなかった……」
神林は気付かなかった自分に少し腹が立った。
側にいたのに。
「気付かなかった……医務室で千尋、寝てて……きっと、熱あったから寝てたんだ」
神林はもう少し注意深く彼を見ていたら……と思ってしまう。
調子悪そうだった。足がもつれたって言ってた時に無理矢理にでも。
「医務室で寝てたのか?」
「うん、シーツをすっぽりかぶって丸くなってたから熱があるとか気付かなかった」
「丸くなってたのか?」
「はい」
「そうか……」
此上は西島の頭を撫でる。
「本当、起きたら説教だな」
此上は愛おしそうな表情を浮かべている。
その表情に神林はチクリと胸が痛くなった。
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