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大丈夫です!側にいますから。 9話

◆◆◆◆ 「あれ?碧ちゃん寝ちゃってる」 風呂から上がってきた神林が寝室を覗くとベッドに顔を伏せて碧が熟睡していた。 西島の手をしっかり握って。 可愛いなと2人は和んだ。 「碧ちゃん寝かせようか」 此上は碧の布団を持ってくると「碧ちゃん抱っこしてて」と神林に頼む。 抱き上げた碧は軽い。 「本当、軽いな碧ちゃんは」 「たぶん、千尋の中学生の頃の体重じゃないかな?碧ちゃん」 抱っこされた碧を見て笑う此上。 布団を敷いて寝かせようとすると碧が目を開けた。 「ん……神林先生……」 「碧ちゃん、このまま寝ていいよ?俺達が千尋を見ているから」 布団に降ろされた碧は「ん、大丈夫です……僕、ちひろさんをベロンベロンに甘やかすんですう」とウトウトしながら答える。 ベロンベロン?酔っ払いか?と神林は突っ込みを入れたかった。 「ベロンベロン?」 「そうです……ちひろさんの中にいる小さなちひろさんに優しくするんです」 碧はそう言うとそのまま眠ってしまった。 千尋の中にいる……小さな? 神林と此上は目を合わせてる。 「あ……なんか、碧ちゃんが言っている意味分かるかも」 と此上。 「なんですか?」 「身体は大人に成長しているけれど、千尋、心は未発達だなって思う事あるし…なるほどな、碧ちゃん鋭い」 此上は眠る碧の頭を撫でる。 「篤さん、千尋着替えさせた方がいいかも」 神林は何気なく西島へ視線を向けて、汗びっしょりの彼に気付いた。 「熱高いからな……着替えどこだろ?」 此上が立ち上がった瞬間に碧もムクッと起き上がる。 「うわあ!碧ちゃんビックリするよ!」 碧は寝惚けた顔で「ちひろさん……」とフラフラと立ち上がる。 「あ、碧ちゃん、寝てていいよ?」 神林は心配そうに声をかける。 「看病するんです!」 「でも……」 「ねえ、碧ちゃん千尋の着替えどこかな?汗かいてるから着替えさせたいんだけど?」 此上のこの言葉で碧はシャキ!となり「え、着替えですか?はい」と動き出した。 なんか、凄いなこの子……と此上と神林は碧を見ている。 「着替えです」 西島の着替えを此上に渡す。 「あと、タオルと……シーツも変えないと、汗で」 「はい!」 碧はいつもより動きが素早い。 ちひろさんの看病をしなきゃ……僕、いっぱい優しくしたい。 碧はその気持ちだけで動いている。 西島の身体は熱で汗びっしょりで、碧はその汗をタオルで拭う。 でも、着替えは碧の力では無理。眠ってしまって居る成人男性を着替えさせるのは結構な力がいるのだ。 なので、此上と神林が着替えさせてくれた。 そして、シーツを変える時に「俺が抱き上げているから2人でシーツを交換して」と此上に言われた。 此上は軽々と西島を抱き上げた。 凄いなあっと碧は思った。自分には無理。 シーツを神林と一緒に交換して、西島へ視線を向ける碧…… 此上にお姫様抱っこされた西島。 ほわわ!!!なんか、騎士と王子様みたいだあ。 夏姉ちゃんの部屋にあった漫画みたい。 碧は夏が持っているBLの漫画を読んだ事があった。 美しい王子を守る騎士の話だった。 軽々と西島を抱き上げた此上はどうみても騎士にしか見えない。 此上さん、カッコイイもんねえ。ちひろさんは王子様みたいだし。夏姉ちゃん好きそうな光景だなあ。 「碧ちゃん?何か目がキラキラしてない?どうしたの?」 神林が言う通り、碧の目はキラキラしている。 「夏……あ、姉が持ってた漫画みたいだなって王子様と騎士のお話」 「王子様と騎士?ファンタジー?」 「ファンタジーです!此上さん、騎士みたいだなって……僕も此上さんみたいに大きな身体になりたいです!そしたら、ちひろさんをお姫様抱っこできるでしょ?それに守れるもん」 此上は交換されたシーツの上に西島を寝かせる。 「碧ちゃん……千尋を守りたいの?」 「はい!」 「そっか、いい子だね碧ちゃん」 碧を褒める此上。 「でもね、知ってる?男はね、守られるよりも、守りたい相手が居てくれる方が強くなれるんだよ?千尋もきっとそう……碧ちゃんを守りたいから強くなろうとしてる……だから、守らせてあげてよ……」 「守らせる……僕を?」 「そう!千尋にとって、碧ちゃんは守りたい存在。今までそう思った事なんてなかったと思う。守られていた側だったから、でも、守られてばかりじゃ強くなれないし、生きていく価値も見いだせないんだ。碧ちゃんも千尋を守ろうと思った時に強くなりたいって思ったでしょ?」 此上の言葉に碧は頷く。 「千尋にとって碧ちゃんは何もかもが初めての存在なんだよ」 初めての存在……僕がちひろさんにとっての? それを聞いて碧は凄く嬉しくなった。 憧れて大好きな人。初恋の人。 その人にとって、自分が初めての存在。本当に? 僕……どうしよう。凄く嬉しい。 どう表現して良いか分からないけど、どこからか力が湧いてくるようだ。 嬉しいと思った瞬間に元気になった。あ、もしかして、こういう事? 此上さんが言ってる事って……? 何となく此上が言ってる事が理解出来た碧。 「はい」 嬉しくて笑顔で返事をした。 「此上さん……分かりました!!あ、でも、此上さんはちひろさんを昔から知ってるんですか?」 「うん、知ってるよ……子供の頃から。ずっと、世話をしてたんだ。千尋はね、僕にとっては弟みたいな子で……」 碧はふと、幼稚園の頃にちーちゃん先生と一緒にいた背の高い男性を思い出した。 顔までは思い出せないけれど、あれ?あ、じゃあ、あの時一緒にいたのって此上さん? 「此上さん……ちーちゃん先生と一緒にいました?」 「えっ?ちーちゃん先生?」 キョトンとする此上。 「僕、幼稚園の時にちひろさんをちーちゃん先生って呼んでたんです。僕の行ってた幼稚園にほんの少し間手伝いに来てたちひろさんをちーちゃん先生って呼んでて」 幼稚園……?あっ!!! 「うん、行ってた……そういえば千尋、子供達に懐かれてて、楽しそうだった。碧ちゃんもその時にいたの?」 「はい」 ニコッと微笑む碧。 「そっか、あんなに小さい子供がこんな風に大きくなるんだ……そりゃ俺も年取るし、千尋も成長するな」 ふふ、と笑う此上。 「僕の初恋の人なんです。ちひろさんは」 照れた顔で話す碧。 「でも、ちひろさんと再会した時は分からなくて……でも、好きになってて後から驚きました」 「そうか!じゃあ、もう運命の人だな」 運命の人!! 此上の言葉に碧はまた、飛び跳ねるくらいに嬉しくなった。 やっぱり、運命の人なんですかね?ふふ、嬉しい!!!凄く嬉しい。 碧の中でまた、不思議な力が湧いてきた。 守られたいし、守ってあげたい。そんな思いも生まれる。 「僕、ちひろさんに守られたいし、守りたいです。そう、考えたら何でも出来そうな気持ちになれますね!此上さんみたいな騎士にもなりたいし!騎士に守られる王子様にもなってみたいです」 目をキラキラして答える碧。 「あはは、騎士か……碧ちゃんが大人になれば自然になれるよ?まだ、18だろ?俺は20歳過ぎても身長伸びたし」 「ほ、本当ですか?!」 碧は此上の言葉に食いつく。 僕だって、ちひろさんを抱っこ出来るくらいになりたい!!! だって、カッコよくない?王子様を助ける騎士!!! 碧は夏の漫画の影響をかなり受けているようだった。 「本当だよ?でもね、知ってる?身長とかはちゃんと睡眠とらないとダメなんだよ?だから、碧ちゃんはもう寝なきゃ」 「え……で、でも、看病」 「俺は明日休みだし、碧ちゃんは仕事あるだろ?トオルと交代でみるし」 「う……で、でも」 「仕事中にウトウトしちゃうと他の皆にも迷惑かかるし、千尋が上司なんだろ?怒られるのは千尋だよ?」 はっ!!!そうだ!そうだった! 碧は悩んだ結果、「お、お願いします」と素直に好意を受け取った。 「いい子だね」 此上は頭を撫でた。 碧は布団に入ると、直ぐに眠ってしまったので、そうとう眠かったのかも知れない。 「篤さん子供の扱い方上手いですね」 クスクス笑う神林。 「千尋でかなり鍛えられたから。碧ちゃんは千尋より素直で助かる」 「ふふ、騎士と王子様か」 神林は此上と西島を交互に見て笑う。 「碧ちゃんのお姉さんが読んでた漫画が気になるな……ファンタジーなんだろうけど」 「碧ちゃんは騎士というより、千尋が騎士で碧ちゃんがお姫様。これがしっくりくるな」 「子供は騎士に憧れるからな」 「でも、確かに篤さんは騎士っぽいですね」 「騎士っぽい?じゃあ、トオルの騎士になろうかな?お姫様」 ニコッと微笑む此上。 「お、お姫様はやめて下さい!!」 「俺もトオルを守りたいって思うよ?だめ?」 此上は熱い視線を神林に送る。 ちょ、ここで、そんな視線やめて!!!と悶えそうな神林。 「だ、ダメじゃないです」 と小さく答える。 ああ、くそ、身体が熱い。篤さんのばか!!! 心で叫ぶ神林であった。

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