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大丈夫です!側にいますから。 18話
「あー!!くそ!ゆうちゃんって資産家の息子じゃん」
惠は資料を見ながら悔しそうに言う。
「しかも、イケメン……あの会社って顔雇用なん?西島部長もかなりイケメンだし、医務室のメガネ君もなかなか……うん、いいよなあ……西島部長」
佐々木の写真を見ながら頷く惠。
愁は惠のをしゃぶりながら、本当に節操ないよね、この人……と思う。
何で、こんな節操がなくてブラコンでアホな人が好きなのだろう?
自分に疑問を覚える愁だった。
◆◆◆
アメリカへ渡ったのは高校卒業して直ぐだった。
日本の大学に受かっていたけれど、無理やり向こうの大学へと渡った。
それは逃げだった。どうしても、逃げたかった。
初めて好きになった人から……逃げたかった。
本当はこの世から消えてしまいたいって願っていて、もっと早くに消えてしまえば傷つく事が無かったのに。
自分が好きになる人は自分から離れて行く……
両親から引き離されて、どうしようもない孤独の中で信じてもいいと思った大人。
それが此上だった。
この人はずっと側に居てくれる。きっと、見放さない。
そう思ったのに。
結局は捨てられたのだ。
何がいけなかったのだろう?
子供の頃はちゃんと勉強もしたし、手伝いだってしていたと思う。
そりゃ、ワガママも沢山言って困らせもした。
それがいけなかったの?
ワガママ言ったから?
夏休みは家族で沖縄行きたいとか言ったから?
猫を飼いたいって言ったから?
子供ながらに懸命に考えた。
そしたら、全てがダメなような気がして。
じゃあ、もうワガママ言わないようにしようって思った。
望んだから捨てられたのなら、何も望まないし、考えない。
そうやって子供時代を過して、此上は信じてもいいかな?って思った。
でも、好きになってはダメだった。
ワガママを言わない代わりに愛情を求めてしまったから。
だから……
アメリカ行って、此上を忘れてようとしてた時に彼がやって来た。
その時に少し期待してしまった。
どうして人は封印しようとした感情を直ぐに蘇らせてしまうんだろう?傷つかないで済むのに。
アメリカに来てくれた此上に酷い事を言ったと今でも後悔はしている。
でも、彼は今までどんなワガママも文句も聞きいれてくれて、側に居てくれた。
きっと、心の中ではまだ期待していたのだ。よせばいいのに期待を持ってしまった。
酷い事言っても離れていかないって。側に居てくれるって……
でも、違った。
本当に居なくなってしまった。
俺の事はもうほっといてくれって、2度と顔を見せるなとか、見たくないとか、イライラするとか……色んな言葉をぶつけてしまったから。
日本に戻って就職しても、彼は現れてなくて……
あの時、酷い事言わなかったら、就職おめでとうとか言ってくれたかな?
成人したからお酒飲もうとか言ってくれたかな?
彼はサプライズが好きだった。
誕生日も、成績で良い成績取ったり体育祭や競技で一番になればお祝いしてくれた。
誕生日は嫌いになりそうだったけれど、此上のおかげで嫌いにはならなくて済んだ。
成績も競技も……一番取れば誉めてくれた。
あの頃は此上に誉めてく欲しくて頑張っていたと思う。
だから、その先もきっとあったはず。
此上が居なくなってから誕生日は誰にも言っていないから、唯一知っている神林とミサキ、佐々木がなにかしらやってくれた。
就職も同じ会社に入ったから神林と佐々木とで乾杯した。もちろん、ミサキもわざわざプレゼント持って来てくれた。
嬉しかったけれど、寂しいかった。一番祝って欲しい人が居ないから。
でも、自業自得。
誰かを好きになれば離れていくんだ……
離れたくないのに。
「ちひろさん」
今は名前を呼んでくれる碧もいつか離れていくのかな?
◆◆◆◆
「ちひろさん」
身体を揺すられて目を開けた。
「あおい……」
「ちひろさん、大丈夫ですか?」
「えっ?」
「泣いてるから」
碧の言葉で泣いていたんだと気付いた。
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