375 / 526

大丈夫です!側にいますから。 19話

西島はゆっくりと起き上がる。 そんな西島を碧は心配そうに見つめ、「ちひろさん、大丈夫……」ですか?と言う前に抱きしめられた。 「ちひろさん?」 抱きしめてくる腕に力はあまり無く、ただ、身体の熱さを感じる。 「どこにもいかないで……」 「えっ?どうしたんですか?」 西島の弱々しい声が耳元で聞こえる。 「俺を置いていかないで……」 「ちひろさん……どうしたんですか?僕、ここにいますよ?」 「1人にしないで……」 碧の問いかけが聞こえていないのか西島は耳元で弱々しく言葉を発する。 「ちひろさんは1人じゃないですよ?僕や、諭吉に神林先生に此上さんが居ますよ?」 「……は、ダメ……」 「えっ?何て言いました?」 初めの言葉が聞えなくて碧は聞き返す。 「もう、置いていかれたくない……すて……な……」 「ちひろさん?」 名前を呼ぶと西島の力が抜けズルリと下へ落ちる。 「ち、ちひろさん!!」 碧は心配そうに名前を呼ぶ。 「寝ぼけてたごたるぞ?」 諭吉がピョンとベッドの上に飛び乗ってきた。 諭吉の言う通り、眠っているようで、そのままベッドへと寝かせた碧。 シーツをかけると顔を覗き込む。 涙のあとを指先で拭う碧。 どんな夢見ていたのだろう? 「子供ニッシーが顔ば出したみたいやな?」 「えっ?」 「さびしんぼうの子供ニッシーが不安で出てきたっちゃろな、熱あると碧もようワシやお母さんや皆ば泣いて呼びよったもんな」 「ゆ、諭吉、そんな昔の事……」 諭吉の言葉で顔が赤い碧。 「ニッシーはな、ちゃんと気持ちば言えないけん、こういう時にしか言えん、酒飲んだ時も素直になってたやろ?多分、ワガママとかば言える状況じゃなかったとやろな……」 「ちひろさん……置いていかないでって」 「うん、怖いとやろ、自分がまた、捨てられるって……ワシはこの気持ちわかるばい……捨て犬と捨て猫はそう簡単には人間ば信用せんけんな……もう、敵になるとぞ、そこには恐怖とな寂しさしかないと」 「諭吉もあるの?」 「ワシは碧と碧の家族に出会えた……あの時のワシは碧がダメだったらずっと野良猫で良かって思っとったけんな」 「諭吉……ダメだったら野良猫になるつもりだったの?」 「賭けばい、ばってんな、賭けには勝ったけんな、ニッシーもな、賭けたとかもな……碧を信じたとやろな」 「僕を信じたの?ちひろさん」 「そんだけ碧に価値があるとやろな」 「僕に価値が?ほんと?」 碧の顔は凄く良い顔を見せる。 「ニッシーが信じたとばい?ニッシーは人間不信やとワシは思う。野良猫が人間が怖いとと一緒、でもな、諦めずにずっと優しさば注げばなその人間からならご飯ば貰うし、その人間が来るとば待っとる、公園の猫と一緒ぞ……あの子は碧とニッシーは信じとるけんな」 「ニャンコ……そうなの?ニャンコは僕とちひろさんを信じてくれてるの?」 「そうばい!ニッシーと一緒ぞ!ニッシーは信じれる人間が少ないとさ、碧と神林と佐々木……そいと此上」 「ミサキお姉さんは?」 「ミサキには遠慮ば感じる、ニッシーはミサキば信じてないわけじゃないとけど、遠慮しとる」 「お姉さんなのに?」 「片親しか繋がってないけんやろ?ニッシーは引け目があるとかも知れんな」 「ミサキお姉さん優しくて良い人だよ」 「そこが碧と違うとこば!碧はまだ、人に裏切られた事ないやろ?親に愛情ば沢山貰うとるけん、愛情貰えんかった人間の気持ちはわからん、寂しいっては分かるばってんが辛さとかその中にある気持ちは理解出来ないやろ?ニッシーは優しいお姉さんにも引け目がある、そげん気持ちを持ってしまうって悲しかな……そんな環境におったとばい」 どこにもいかないで…… 置いていかないで…… 1人にしないで…… 西島の孤独が碧の中に入ってくる。 そんな孤独を碧は味わった事がない。知らない気持ち。 「ちひろさん……」 碧は泣きそうになる。 「碧……大丈夫ばい!ニッシーは隠れてた小さい子供が顔を出してきてるって事は本当に碧だけは信用しとるって事ばい?神林とか佐々木には見せてないやろ?多分、此上にしか見せてないと思う、1番近いのが此上やけんな、そして、やっと、他人を信じれると思ったのが碧さ、だけん、碧がニッシーの側におれば良かとさ、そしたら安心するけんな」 「うん……うん」 諭吉の言葉に碧は涙をポロポロと流す。 寂しかったね、小さいちひろさん…… きっと、1人で泣いてたんだ…… ちーちゃん先生……あの時もきっと、寂しかったんだね。 「大丈夫です!!僕がずっと、ここにいますよね?側いて、離れませんからあ」 碧は西島の手を握り涙を零す。 安心して下さいちひろさん。僕はどこにも行きませんから!! ずっとずっと、守ってあげますから!!! そう誓う碧だった。

ともだちにシェアしよう!