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人って温かいんですよ? 2話
◆◆◆◆
部屋に入るといつも隅っこで自分を守るように身体を丸め何も話さない……顔を伏せて、怯えている小さな子供。
それが西島との出会いだった。
無理やり連れて来られたのだから警戒もする。
嫌だと散々泣いていた。
部屋に連れて行くと隅っこにうずくまり動かなくなってしまった。
彼の為に用意されたソファーもベッドもあるのに隅っこにうずくまる。
全てを拒絶しているように見えた。
その頃、此上は彼の父親のボディガードをしていて雇われている者の中では1番若いから世話役を頼まれたのだが、自ら志願したのもあった。
小さな彼に食事を作って持って行っても食べようとしない。
お腹空いているだろうが……きっと、状況も把握出来ないし、怖いだろう……
1人にしてしまうと何をするか分からないし、何よりも不安だろうから、此上はその場から離れずにいた。
連れて来られて数時間、近寄って見ると疲れたのか眠っていた。
起こさないように抱き上げる。
子供は本当に軽い。
ベッドへ寝かせると散々泣いたあとがあった。
そりゃ泣くよな……
いきなり世界が変わるんだから。
大人だって戸惑う、ましてやこんなに小さな子供。
西島を初めてみた時の印象は女の子みたいに可愛い……。
西島の側に座り、此上は一晩中一緒に居てあげた。
目が覚めた時に1人だと、さらに不安になるだろう。それは可哀想だと思うから。
朝、彼が起きる前に朝食を作った。
昨夜は何も食べていない彼、子供にはもう辛いはずだから食べてくれるとは思うけれど……
朝食を用意して、彼の様子を見に行くと、シーツの中でモゾモゾと動いた。
起きた?
声をかけようか躊躇っていたら、シーツから顔を出して大きな瞳で此上を見つめる彼。
此上と目が合った瞬間に怯えられてしまった。
身体がビクッとなり、怯えたような瞳。
「大丈夫だよ、怖がらないで」
優しいトーンで話し掛けてみても、怯えるよね。
「朝ごはんあるよ?お腹空いただろ?」
そう言ったらシーツの中に潜り込んでしまい、そして、身体を丸めている。
やっぱ、怖いよな……
此上は彼が慣れるまでは……と側から離れずにいる事にした。
でも、水も食事もしないのはやばい。子供だから体力ないだろうし。
お腹空いたら食べるだろうと、作り置きはしている。
せめて、水だけでも飲んでくれないかな?
丸一日は何も食べていない彼。
無理矢理にでも食べさせるか?
でも、そしたらきっと更に怯えてしまう。
どうしようかと思っていた、夕方前、シーツの中から顔を出してこっちを見ているのに気付いた。
「お腹空いた?」
声をかけるけれど、黙ったまま……
今日もダメかな?って思うけれど、そろそろ、食べ物を食べてくれないと体力的にも危ない気がして此上は若干焦っている。
直ぐにシーツに潜るかな?と思っていたけれど、ゆっくりと起き上がって此上を見た。
そして、「……ご飯食べないの?」と言葉を発した。
お腹空いたとか、食べたいとかではなく、食べないの?と聞いてきた。
「君が食べないのに、横で食べれないし」
そう答えると「ズルイ」と返ってくる。
「どうしてズルイの?」と聞くと、
「僕が食べないなら食べないんでしょ?それ、僕のせいじゃん……」
と答えた。
「君が食べてくれたら食べるよ?おいで、お腹すいてるんだろ?」
此上は彼の近くへ行き、彼を抱き上げた。
急に抱き上げられ驚いたように此上を見る。
大きな瞳……。
本当に可愛い顔をしているんだなって思った。
椅子に座らせて、「食べたいものがあったら言って?作るから」と微笑む。
「……オムライス」
小さい声でリクエストをしてくれた。
「分かった」
オムライスを作る前にホットミルクを彼の前に置く。
それと、冷たい水も。
彼は一気に冷たい水を飲んだ。そりゃ、喉乾いてるよね……
此上は空になったグラスにまた水を注ぎながら「俺は此上篤……よろしくね、千尋」と自己紹介をした。
「此上……」
「うん、此上……よろしく」
彼の頭を撫でた。
嫌がる事もなく、ホットミルクを素直に飲む千尋。
少しは慣れてくれたのかな?
そして、オムライスを作って目の前に置く。
「此上は食べないの?」
「千尋が食べたら」
「一緒に……食べてよ……」
俯いて可愛い事を言う。
「だって、此上もお腹空いてるでしょ?僕が先にたべれないもん、僕のせいでご飯食べてないんだから」
この言葉で、この子が凄く優しい子なのだと思った。
自分よりも此上を心配する。お腹空いてるのに先に食べずに待っている。
この時にこの子をずっと守りたいな。って思った。
不安なのに、他人を心配してくれる優しい子。
八つ当たりしてもいいだろうに文句も言わない。
子供なのに凄い……
「分かった、一緒に食べよう。待ってて」
此上は作り置きの食事をレンジで温め直して千尋と一緒に食事を始める。
此上が食べ始めると千尋もオムライスを食べてくれた。
「美味しい?」
感想を聞くと頷く。
「良かった、口に合って」
千尋はがっつく事なく、行儀良く食べている。
躾がちゃんとされている。
姿勢もちゃんと伸ばして、スプーンの持ち方も綺麗だし、片方の手は皿を押さえていた。
片手で食べるのは行儀悪いわよ!!と此上は幼い頃、母親に良く叱られていた。
食べるのに直ぐに飽きて遊んでしまっていたものだから、食事中に叱られてない事は無かったくらいだ。
でも、千尋は行儀が良い。
作法も教え込まれて、可愛がられている子供。
愛されていたのに引き離されてしまった。
その理由を此上は少しだけ聞いていた。
でも、千尋は知らない。
戸惑いの中、他人を心配して、行儀良く食事をする。
強くて優しい子。
それが西島の印象。
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