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人って温かいんですよ? 4話

◆◆◆◆ 海ではミサキとはしゃいでいるように見えた千尋。 でも、本当に笑っているようには見えない。無理して元気にしている……そんな印象。 その時に思ったのは無理矢理連れて来られた場所でも気を使う子供だという事。 もっとワガママになって沢山不平不満を口にしても良いのだろうに……それをしない。 もしかして、諦めてしまっているのだろうか? 不平不満を口にしても、ワガママ言ったとしてもそれは通らない。 通らないと分かっているから言わない。 これは大人でも難しいのに、あんなに小さな子供がやっている。 凄いな……と思う反面、心配だった。 親にはもう会えないのだから期待させてしまっても可哀想なのだが、これから全ての事に対して諦めが先きにきてしまったら。 現に「友達は作らない」と言った事。 それが気になる。 「ちーちゃん、何見てるの?」 ぼんやりとどこかを見ている千尋に声をかけるミサキ。 「……此上って、僕の世話が仕事なの?いつも、側にいる」 千尋の視線の先には此上が居た。 「ちーちゃん来る前はボディーガードだっけ?守る仕事……的な事をやっていたような?」 「ボディーガード……」 千尋はその言葉がカッコイイとちょっと思った。 テレビや映画で良く見たりする。 「銃とか持ってるの?」 「銃は持って……ないんじゃないかな?警察とかじゃないなら」 「じゃあ、銃持ってる人が襲ってきたらどーするの?」 「……どーするんだろ?」 ミサキもじーっと此上を見つめる。 「格闘技でやっちゃうんじゃない?強いって聞いたよ?空手とか拳法とかやってるって……」 「えっ?カッコイイ……ストリートファイターみたいな感じ?」 「うん、身体大きいでしょ?筋肉とか凄いって」 「ミサキ……見た事あるの?」 「えっ?ないよ!!ない!!」 ミサキは一気に顔が赤くなった。 どうして、赤くなるのか千尋には分からなかった。 「お、お腹空かない?」 会話をそらすようなミサキの言葉に「うん」と答える。 2人で此上の元へと戻りお腹空いたと訴える。 此上手作りのお弁当を広げた。 「わあ!凄い!此上さんが全部作ったの?」 ミサキはお弁当の中身を見て感動している。 「千尋も手伝ったんだ」 「えっ?ちーちゃんも?ちーちゃんって料理出来るの?すごーい!私、作った事ないよ?」 ミサキはキラキラした瞳で千尋を見るものだから照れる千尋。 「僕だって、作れないよ……此上が教えてくれるから」 「へぇ、凄いなあ!料理出来る男の子はモテるよ」 「も、モテなくていいもん」 「えっ?どーして?ちーちゃん可愛い顔してるからそれだけで、女の子にモテるよ?」 「女の子……めんどくさい」 女の子めんどくさいのは本当。 学校で特定な友達は作らないが勉強も出来て運動もできる千尋。オマケに顔も可愛い。 女の子が騒がないわけがない。 女の子が騒ぐと自然に嫉妬する男の子も出てくるわけで、イジメまではいかないが、少し面倒くさかった。 「女の子がうるさいから男の子の友達が寄って来ない……別にいいけど、友達いらないし」 千尋はそう言うとおにぎりを1つ掴む。 「千尋、こら、先に手を拭いて」 此上は除菌シートを千尋に渡す。 甲斐甲斐しく世話をする此上をじっーとみるミサキ。 「ミサキちゃん食べないの?」 視線に気づきミサキに食べるように促す此上。 「ちーちゃんいいなあ。此上さんが居て……ちーちゃんのボディーガードなんでしょう?」 「えっ?」 千尋はボディーガードという言葉にまた反応すると、「此上は銃持った人が来たらどーするの?弾避けるの?」とキラキラした瞳で聞いてきた。 んん?弾避ける?ん?なんで? 「千尋、ここ、日本だから銃持ってる人はいないよ?」 「そうなの?テレビとかでは持ってるよ?」 「それはテレビだから!!映画で魔法使い見ても現実にいるとは思わないだろ?」 「魔法使いはいないよ?バカじゃないの?此上」 真顔で言われた。 この野郎!と思ったが千尋の次の言葉で全て許された。 「魔法使いはいないけど、サンタはいるよ?」 この言葉で此上は千尋をぎゅっと抱きしめたくなった。 それはミサキも同じようで、可愛い!!!という表情をしている。 ミサキはとっくにサンタがいないと知っていて、プレゼントも親からだって知っている。 「うん、そーだね、サンタは居るよね」 ミサキは可愛い弟の頭を撫でたい衝動に駆られたが我慢した。 嫌がられるのが目に見えているから。 仲良く3人でお弁当を食べて、もう少しだけ海で遊んで家へ帰ってきた。 千尋は帰りの車の中で眠ってしまい、此上が抱き上げて部屋へ連れて行った。 「今年のクリスマスは此上さんがサンタさんしなきゃダメだよ?ちーちゃんサンタさん信じてるんだから」 別れる前に念を押された。 「そうだな」 「いいなあ、此上さん」 ミサキは急に寂しそうな顔をした。 「どうして?」 「ちーちゃん、此上さんには懐いてるもん……私には遠慮してる」 「ミサキちゃん」 子供でも、やはり気付くのだろう。彼が遠慮をしているという事と、馴染んでいないという事。 「お父さんにはまだ、会わないんでしょ?」 「会いたくないって泣かれるから」 「……仕方ないよね。無理矢理連れてきたんでしょ?私の事も本当は嫌いなのかな?」 ミサキの大きな瞳が少し潤む。 「そんな事ないよ?今日の海も千尋がミサキちゃん呼んでって言ってて、お弁当作る時もミサキちゃん何が好きなの?って聞いてたから」 「本当?ちーちゃん、私の好きなモノ入れてくれてたの?」 「うん……千尋はもう少し時間かかる……それはミサキちゃんも分かってるよね?千尋はミサキちゃんを嫌っていないのは確かだし、時間を与えて欲しい」 此上はミサキの頭を撫でる。 「うん!」 少し元気になって微笑むミサキ。 「ちーちゃんを待つ」 「うん、待ってあげて」 本当に心を開くまで……どれくらいの時間がかかるのだろうか? でも、焦ってはいけない。 それだけは分かる。

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