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人って温かいんですよ? 5話

◆◆◆◆ ドライブした日からミサキを含め、遊びに行くようになって、少しは慣れてきたかな?と思った矢先。 千尋が居なくなった。 ほんの少し目を離した間だった。 夏休みに入り、学校の宿題をミサキと一緒に部屋でやったり、買い物にでたり、ドライブに行ったり……千尋も楽しんでいるように見えたのに。 確かに無理して笑っているようにまだ感じたけれど、慣れて来ていると思っていた。 人手を借りて近辺を捜すけれどどこにもいない。 「此上さん、ちーちゃんどこ行ったの?」 ミサキは泣きそうで…… 「大丈夫見つけるから」 泣きそうなミサキの頭を撫でる。 「此上」 部屋にある人物がやってきた。 「お父さん!ちーちゃんがいないの!」 ミサキの父親で千尋の本当の父親でもある人物。 「すみません!ちゃんと見ていなかったから」 此上は深々と頭を下げた。 「千尋は多分、ここだと思う……此上は千尋を連れに行った時は居なかっただろ?」 そう行って此上にメモ紙を渡す。 そこには住所が書かれてあった。 「今日、千尋の誕生日だから……多分、あの子は待っているんだと思う。去年と同じに祝って貰えると」 「えっ?ちーちゃん誕生日なの?」 驚くミサキともちろん此上も。 誕生日……だったのか。 メモ紙の住所が千尋が前に住んでいた場所なのだと分かった。 誕生日だから、待っていてくれる。 そう思っているだとしたら寂しい。だって、その場所に行っても何も待っていない。 辛い現実があるだけ。 此上は車の鍵を持ち足早に部屋を出た。 千尋がきっと傷ついている。 あんなに小さいのに……周りにずっと気を使って元気な振りをしていた彼。我慢の限界だったのかも知れない。 此上はメモ紙の住所に急いだ。 ◆◆◆◆ 千尋は本当にそこに居た。 アパートから少し離れた公園の遊具の中に膝を抱えて小さく丸くなって顔を伏せて……まるで、消えたいって訴えているようにその場に居た。 丸い土管のような遊具。 子供の千尋には余裕だけれど、此上にはキツい。 「千尋」 名前を呼ぶとピクっと反応をしたが顔は上げてくれない。 「帰ろう千尋」 土管の中に無理矢理入った。 凄く狭い。 千尋は嫌だと頭を振るだけ。 「ここ、暑いだろ?熱中症になる」 8月31日、気温はかなり高い。 夏休み、最後の日。千尋の誕生日。 きっと、毎年祝って貰っていたのだろう。 まさか、それが突然無くなるなんて思わない。今年も当然のように祝って貰えると思っていたに違いない。 「……帰らない」 消えるような声で答える千尋。 「ダメだよ、ここには居られない」 此上は千尋の腕を掴むが振りほどかれた。 「此上だけ帰ればいい」 顔を上げずに言う千尋。 「分かってるだろ?千尋を置いて帰れない」 此上はまた腕を掴む。 「かえらない……」 千尋は顔を上げない。 無理矢理でも連れて帰るか?と彼の身体を引き寄せる。 「やだ!帰らない!!」 顔を上げて強い口調で言った千尋の顔は涙でぐしょぐしょだった。 「此上だけ帰ればいいでしょ!!あの家は僕の家じゃない!!」 大粒の涙を零しながらに反抗をする千尋。 「千尋……」 どう答えてあげればいいのだろう?納得する言葉なんて与えてはあげれない。 「なんで?なんで……?僕が悪いの?約束したのに!!来年の誕生日は星がたくさん見えるとこに行こうってお母さん言ったのに!お父さんも……キャンプしようって何で嘘つくの?何で出来ない約束するの?僕がいい子じゃないから?じゃあ、僕はどうしたら良かったの?分かんないよ!全然わかんないいいい」 泣きながら訴える千尋を此上は抱きしめる。 「千尋は悪くないよ」 「じゃあ、どーして?お母さん達引っ越してた!違う人が住んでた……僕が帰ってくるのを待ってくれてると思ってたのに……」 腕の中で震えて泣く…… ショックだろう。 千尋の家族は彼が連れて行かれた後にアパートを引っ越していた。理由は後から聞いた。 こうやって千尋が戻ってくるから。ここにいないと分かれば諦めてくれるだろうが、これはやり過ぎではないか?と此上は思った。 幼い彼が壊れてしまう。大人を信用しなくなる。 此上は千尋が泣き疲れて眠るまでそこに居た。 千尋が眠ってしまったので外へ出るとオレンジ色の空が広がっていた。 まだ夏の暑さだったが日が沈むと少し風が冷たく感じた。 眠った彼を抱き上げて、車に乗せ、見つかったと電話を入れた。 あの家は僕の家じゃない!! 千尋はずっと、そう思って暮らしてきたのか……そう思うと辛い……。 連れて帰っていいのか悩んでしまう。 でも、連れて帰らないわけにはいかない。 千尋は心を壊さずにいられるだろうか?それが不安だ。 自分が側に居てあげても……心は埋まらないだろう。 でも、それでも側に居て守ってあげたいと思う。 ◆◆◆◆◆ 家に戻ってから直ぐに高熱を出してしまった千尋。 きっと、精神的ダメージからだろう……と此上は思った。 心配そうに様子を見に来たミサキも千尋には会えない。 学校も休む羽目になり、そして、この家に来てから、初めての入院になってしまった。 そこから、情緒不安定になる度に入院の繰り返し。 大人でも、壊れそうなのに千尋はなんとか心を保ってくれていた。 本当に凄いな……と此上は感心した。 初めての入院は2週間程だった。家へ帰ってきた千尋は前程元気はなかったけれど、それでも…… 「此上……一緒に寝てもいい?」 此上には甘えてくれるのが嬉しく思った。 季節がゆっかり過ぎて、秋が来て……冬になりかけた頃。 「千尋、今から出掛けるぞ!」 と夜に千尋を誘い出した。 「温かくしてろよ」 上着を着せてマフラーも帽子もつけさせた。 「夜だよ?どこいくの?」 助手席で千尋は不安そうに此上をみる。 「いいとこ……怖いとこじゃないから、そんな不安そうな顔するな!」 微笑んで彼の頭を撫でた。

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