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人って温かいんですよ? 6話
◆◆◆◆
車で3時間近く走って着いたのは某所の天文台。
車を停め、「少し歩くぞ!」と荷物を後部座席から取り出す。
「どこ……いくの?」
「内緒……ほら、暗いから手を繋ごう」
此上は千尋に手を差し出す。その手を握る千尋。
「その荷物何?」
「温かい飲み物とか毛布とか?」
「毛布?何で?」
「着いたら分かるよ」
少し歩くと高台に広い場所があって……月明かりだけなのにそこは明るかった。
「空気が澄んでいると月明かりでも結構見えるな」
此上は立ち止まると千尋の手を離し、荷物を開く。
「何するの?」
「流星群」
「えっ?流星群?」
「そう、流星群……ほら、シート敷くからそこ退けろ」
此上はシートを敷くと更に敷毛布を置く。
「寝転がって見よう。流れ星が沢山見れるぞ」
此上は敷いたシートの上に寝転がり千尋に手招きする。
手招きをされ、千尋も此上の横に寝転ぶ。
寝転び見上げた夜空には星が輝いている。
手を伸ばせば届くような……そんな感覚に陥りそうだ。
キラキラ光って綺麗だ。
「なんで……ここ、来たの?」
千尋は空を見上げたままに言葉にする。
「誕生日……ちゃんとお祝い出来なかっただろ?千尋、入院しちゃったし」
誕生日には旅行に行こうと去年約束してくれた両親を思い出す。
星が綺麗な場所に行こうと言っていた。
「夏に連れてきてあげれなかったからさ……でも、ちょうど、流星群が見れるから冬になるのを待ってた」
キラキラ光る星の1つがスッと流れた。
「あ……」
流れ星を見た千尋は小さく声を上げた。
「流れ星だな」
「……初めてみた……」
「そっか、良かった」
此上は千尋の方を見る。
「寒くないか?」
此上は毛布を取り出し千尋にかけた。
「此上の分は?」
自分だけにかけられた毛布を気にする千尋。
「俺はいいよ、結構厚着してるし」
「一緒に入ろう」
千尋は此上にくっつくと彼にも毛布をかける。
「なあ、千尋……」
此上は千尋の身体に腕を回し引き寄せると、
「俺じゃ千尋の両親の代わりにはなれないと思うけれど……これから先も側にいる。千尋が寂しくなくなるまで……もう大丈夫だって言える日まで千尋の側にいて、守るよ」
「この……うえ……」
千尋は此上にぎゅっと抱きつく。
「だから、辛い事とか我慢せずに俺に言え!喧嘩もしよう!寂しい時は寂しいって言えば側にいるし、嬉しい時は一緒に喜ぶし、泣きたい時は泣き止むまで側にいるから……だから、自分の家じゃないとか寂しい事を言わないでくれ……」
千尋は何も答えずにただ、此上にしがみつく。
「誕生日もクリスマスも……一緒に楽しもう」
そう言いながら頭を撫でる。
側にいる……それしか出来ないけれど、千尋が自分を必要としてくれるならいくらでも側にいよう。
「ほんと?……ずっと、側に居てくれるの?」
「いるよ……千尋が嫌だって言っても」
此上にしがみつく手が震えていて、寒いからとかではなく泣いているからだと伝わってくる。
これから先も色んな事があるだろうし、寂しくなくなるわけでもないのは分かってはいる。
でも、それでも、誰かが側に居て助けてくれると知っていて欲しい。
此上は千尋の頭を撫でる。
親代わりには少し頼りなくて物足りないかも知れないけれど、ずっと側に居て守ろうと誓った。
彼が大人になって自分を必要としなくなるまで。
成長を見守ろう……彼の親の代わりに。
手放したくて手放したわけではないのだから。
◆◆◆◆◆
「このうえ……さん……」
鼻水を啜りながら碧は此上の名前を呼ぶ。
横に居た神林は碧にティシュを渡す。
「ありがとうございますう」
ティシュを受け取り涙と鼻水を拭う。
「ティシュじゃ間に合わないな」
此上は少し笑う。
此上から聞いた話で涙が止まらないのだ。
「ちひろさん……子供の頃のちひろさん……偉いです」
大きな瞳から涙が止まらない碧。
「そうだね、偉いよあの子は」
此上は碧の頭を撫でた。
一緒に話を聞いていた神林は立ち上がり、新しくホットミルクを作って戻ってきた。
彼もまた少し瞳が濡れている。
「碧ちゃん、ほらホットミルク」
碧に渡す。
「神林せんせえ」
今の碧は何を言っても、何を行ってあげても感動して泣くみたいで、ホットミルクを泣きながら飲んでいる。
その姿を見ると神林もつい、頭を撫でてしまった。
「ぼく、ちひろさん……元気になるまで側にいますう」
「うん、そうしてあげて……今の千尋には俺じゃなくて碧ちゃんが必要だから」
此上に言われ、碧は何度も頷いて、そして涙を零す。
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