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人って温かいんですよ? 7話
◆◆◆◆
碧は西島の寝顔を見つめる。
此上から聞いた彼の身の上話はとても悲しく寂しかった。
もし、自分が同じような事になったら……冷静で居られるだろうか?
碧は西島の頭を撫で始める。
「ちひろさん……偉いですね……凄く頑張ったんですね……子供なのに……小さい子供なのに……たくさん、たくさん、頑張ったんですね」
頭を撫でながら言葉にしたら涙が止まらなくなってしまった。
あの頃の彼の気持ちを想像すると涙が止まらない。
大人なんて信じたくないかも知れないのに……周りに気を使う優しさ。
「ぼくには真似……できないです……きっと、泣いてばかりで……きっと、たくさんの人を恨んで優しくなんてできないです……ちひろさん……」
泣きながら西島の頭を撫でる。
きっと、たくさん愛されて育つはずだった。
なのに……
僕は何が出来るだろう?
何をしてあげればいいのだろう?
色々考えてみるが考えがまとまらない。
「あおい?」
急に声がして西島の方をみた。
「なに……泣いて?」
西島の手が碧に伸びる。
「泣いてないです!欠伸しただけ」
碧は伸ばされた手をぎゅっと握る。
「そっか……良かった……あおい、おいで」
西島は碧に握られた手を握り返し、自分の方へと引き寄せた。
「一緒に寝よう」
「……はい」
碧は西島の腕の中にスルリと入ると彼の首筋に両手を回ししがみつく。
「温かいな碧」
西島はすっぽりと自分の腕の中に居る碧を抱きしめながらに言う。
「温かいのはちひろさんです」
碧は顔を上げずに言う。顔を上げてしまうと泣いていたとバレてしまう。
「碧……甘い匂いがする」
「シャンプーですか?」
「ううん、もっと甘い……」
「蜂蜜ですか?さっき、ホットミルクを神林先生が作ってくれて、それに蜂蜜が入ってたから」
「ああ、蜂蜜かな?ふふ、碧っぽい感じ」
「ちひろさんも飲みたいですか?あ、熱ある時って何が欲しいんですか?」
「碧はアイスだもんな」
「ちひろさんは?欲しいものありますか?」
「ん?碧が居ればいいよ」
「僕はずっと居ます!それに僕、熱が下がるまでちひろさんを甘やかすって決めてるんです」
「何だそれ?」
「僕が熱出した時に甘やかしてくれたでしょ?だから僕も」
まさか、諭吉に言われたからとか、此上から身の上話を聞いたからとは言えない。
「あ、そうだ……子供の頃、よく此上がココアにマシュマロを入れたのを作ってくれてたな」
「ココアにマシュマロですか?」
「あれ?飲んだ事ない?」
「はい」
「じゃあ、今度作ってあげるよ」
「はい……あ、違います!今はちひろさんの欲しいものです!」
思わずはい。と返事を返して顔を上げて西島をみた。
目を閉じている彼。
あれ?眠っちゃった?
「ちひろさん?」
名前を呼ぶが寝息が聞こえてきた。
眠っちゃったのか……
碧は西島の寝顔を見つめる。
起きている彼とはまた違う感じの幼さが出ていて、愛おしく思う。
碧は西島の額に優しくキスをして、「おやすみなさい」と小さく呟く。
◆◆◆◆◆◆
「トオル、大人しいね」
此上から声を掛けられ神林は彼を見る。
「……なんか、胸がつまっちゃって……」
「千尋の事?」
「はい……思ってたより、ずっと、ずっと、苦労してたんですね千尋」
「そうだね」
此上はソファーに座る神林から離れ、自分と神林の2人分のコーヒーを作り、戻ってきた。
「トオルも碧ちゃんと同じホットミルクにしようかと思ったけど」
少し笑いながら神林にカップを渡す。
「ホットミルクは似合いませんよ俺……碧ちゃんなら似合う」
受け取りながら笑う。
「千尋も小さい時はホットミルク好きだったんだ……蜂蜜入れてあげたり、黒糖入れてあげたり」
「ああ、だから自然と碧ちゃんにホットミルクを作るのかアイツ」
「眠れない夜とかね……あと、テストで良い点とか取ったらココアにマシュマロ入れてあげたり」
「めっちゃ甘そう」
神林はコーヒーを飲みながらにその甘さを想像した。
「一番のお気に入りだったぞ?まあ、成長すると飲まなくなったけど」
「千尋……甘いの嫌いだと思ってた」
「ああ、普段食べてないからだろ?本当はアイツ、甘いもの大好きなんだよ」
「そうなんですか……結構長く一緒に居ても知らない事って沢山あるんですね」
「そうだね……いま、千尋が何を考えてあんなに落ち込んでいるのか……俺にも分からないから」
「篤さんは……」
「ん?」
神林は言いかけて止めた。聞いて良いのかと思ったから。
「なに?」
「何でもないです」
ふふっ、と笑って神林はコーヒーを飲む。
「気になるだろ?」
「ほんと、何んでもないです」
「……言わないとここで、襲うぞ?」
「は?」
「碧ちゃんと千尋が寝室にいるけど、構わず襲うぞ!」
此上はじりじりと神林に近寄ってくる。
「えっ、ちょっと待って!!」
たじろぐ神林。
「じゃあ、言って!」
彼には隠し事なんて出来ないって分かってるくせに……なんて、自分に突っ込んでみる。
「1度も千尋を……意識しなかったのかな?って……ほら、千尋って昔っから可愛かったし……その、えっと、色々とあったんでしょ?」
あとの方がしどろもどろになってしまったが心で思った事を言葉にした神林だった。
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