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人って温かいんですよ? 9話

「か、神林助けて」 担がれたまま助けを求める。 「千尋、子供じゃないんだから……」 神林は少し呆れているように見えて、あれ?助けてくれるんじゃないのかな?と西島は拍子抜け。 「風邪じゃないから風呂はいいんだけど、フラつきがなくて自分で立てるならいいんじゃないの?上、着てない方が風邪を引くから」 「神林!!」 西島の顔が神を見るかのような表情になる。 「ほら、下ろせよ!」 此上に文句を言って下ろして貰うがなんと、足がもつれてしまう。 「おっと!」 此上が当たり前のように支えて、「お前……1人で歩けないじゃんアウトだな」と耳元で勝ち誇ったように言われた。 「はあ?躓いただけじゃん!歩けるし!」 此上の腕を振りほどこうとするが「とりあえず、千尋上着て」と神林に着ていたシャツを羽織らされた。 あれ?これってアウトって事? 2人からガッチリホールドされ、諦めるしかない。 寝室に戻されるかと思えばソファーに座らされた。 「熱計ってみ?」 神林から体温計を渡される。 ないよ!と駄々こねるわけにもいかないと空気を読んで素直に体温を計る西島。 「フラつき無ければお風呂いいよ、でも、誰かと一緒にね」 誰か?誰かって…… 碧……だよな? うん……まあ、いつも一緒に入ってるしな。 そんな事を考えていると体温計のピピッとデジタル音がした。 表示を見ようとしたけれど体温計はあっという間に此上に奪わる。 「お前、今日も1日ベッドな」 「はあ?なんで?もう大丈夫だし!」 此上の言葉に文句を言う西島。 「千尋、大丈夫って決めるのはお前じゃないから」 神林からも言われ西島はふてくされたような表情を見せる。 「なんだよ、神林まで……うるさいのは此上だけで充分なんだよ」 西島は立ち上がろうとするが神林に両腕を掴まれ座らされた。 「篤さんも俺も千尋を心配しているだけだ……それにフラつきがあるだろ?少し心配なんだよな……念のため病院で精密検査受けるか?」 「はあ?なんで?別になんともないのに受ける必要なんてない、直ぐに治る」 「千尋の直ぐは結構時間かかるからな」 此上からそんな事を言われ益々、不機嫌になる西島。 「なんなんだよ、2人して!俺は大丈夫なんだって!」 強く言葉を言った。何でかイライラするから。 構って貰いたくないから…… それに病院とか冗談じゃない! 「千尋の大丈夫は大丈夫じゃない事くらい分かってるよ」 神林は西島の目の前にしゃがみこんで彼の顔を見上げる。 「千尋…心配しているのは俺達だけじゃない。碧ちゃんが一番心配している。千尋を運んで来た時、碧ちゃんはかなりパニックになって泣いてた……碧ちゃん心配させたままでいいのか?泣かせたままでいいのか?」 真顔で聞かれた。 碧…… あ、そうだ……昨日泣いてた…… ふと、昨夜の事を思い出した。 「……それは……嫌だ……」 碧が泣くのは嫌だ。笑うと可愛いあの子にはずっと笑っていて欲しい。 「だろ?千尋は1人じゃないだろ?碧ちゃんが居るんだから……だから無理しちゃダメなんだよ」 1人じゃない…… その言葉にハッとした。 ずっと、1人だって思ってたから……1人で生きていると思ってたから他人は気にしていなかった。 気にする必要がないと思っていたのだ。 でも、そうだ……今の自分には碧が居る。 忘れちゃダメなのに。こういう時は疎かになってしまう。 「碧ちゃんの為なら何でも出来ると思うよ、だから千尋……ちゃんと話せ」 「えっ?」 神林の言葉にキョトンとする。 「今、心に抱え込んでいる事……お前の熱はストレスから来てると思う。フラつきも多分……でも、原因は違うかも知れないから病院に行った方がいい」 西島は神林の問いかけに答えず彼をただ見ている。 「何を抱え込んでいる?それが解決すれば少しはスッキリするかも知れない」 解決…… スッキリ…… あれから何年経っただろう? 心に抱え込んでいるものは未だに解決していないし、スッキリさえもしない。 今更……解決なんて…… きっとしない…… 「別に何も抱え込んでなんかいない」 西島は目を伏せる。 何も考えずに過ごしたら時間が過ぎていって、いつの間にか大人になっていた。 悩んでいても、泣いていても時間は過ぎていって気付くと身体は成長していた。 心はどこかに置いてきたみたいにたまに何も感じなくなってしまった。 感じなければ傷つかない。 だったらそれでいいと思ってた。 でも最近……心がザワザワする。 碧と出会ってから、碧を好きになってから……どこかに置いてきたと思っていた心が近くにあって、それがたまに胸を痛くしてくる。 忘れようとしていた事を思い出させようとしてくる。 何も解決なんてしない。 自分でもザワつくものの正体も今みたいに熱を出したりするものの正体は知っている。 知っているけれど、わざと知らない振りをしてきた。 もう、傷つきたくないから。 「吐きそう……」 「えっ!!」 神林の方へ倒れ込んできた西島を支えた。 「吐くなら洗面所!」 此上が西島を抱え上げた。

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