386 / 526

人って温かいんですよ? 11話

◆◆◆◆ 「歩けるってば!」 じたばたと暴れる西島を完全スルーして寝室へと連れてきた此上。 ヨイショとベッドに降ろした。 「飯作ってくるからいい子にしてろよ」 此上は西島の頭を撫でる。 「てめえ!」 バシッと撫でる手を叩く西島。からかわれていると分かっているので怒っているのだ。 「歩けるとか平気とか大丈夫とか嘘つくからお仕置き」 「はあ?」 「大好きな碧ちゃんの前では騎士で居たいんだろうけど、俺の前ではお前はお姫様だからな」 ニヤリと微笑まれる。 お姫様…… また、チラリと高校生の頃の黒歴史が頭を過ぎり死にたくなる。 「子供扱いされたくなかったら嘘はつくな……こっちは千尋の嘘つく時の癖とか知り尽くしてるんだからな」 此上の言葉に不機嫌そうに横を向く西島。 その表情や行動は子供の頃のままで此上は頭を撫でたくなる。 離れていた時間が長かったけれど、自分が知っている彼のままで安心してしまう。 「此上の説教ジジイ」 ボソッと小さい声で呟く。 「聞こえてんだけど?」 「……本当、今更……何だよ」 西島はふてくされた顔をしながらシーツの中へと入る。 「千尋はほんと、分かりやすい」 此上は西島の頭を撫でる。 「あー!もう!!俺に構うなよ……飯作るんだったら早く行けよ」 此上の手をバシッと叩く。 「千尋……何か言いたそうだな」 「はあ?構うなって思った事を口にちゃんと出してるだろ?」 「言っただろ?千尋が嘘ついてると分かるって」 「……な、何だよソレ」 「言いたい事を我慢している時の千尋は絶対に目を合わせないから分かるよ」 此上の言葉に少しドキリとした。 確かに目は見れない。 「今、何を思ってる?」 「……べ、別に何も……」 「何か言いたい事あるんだろ?言わないなら千尋の黒歴史の写真を碧ちゃん見せる」 「はっ?」 西島は思わず此上を見た。視界の中の此上はニヤリと笑って、「お姫様の写真……ちゃんとまだ取ってる」なんて口にした。 なにいいい!!!!! 西島はシャウトしそうになった。 「すて、捨てろって言ったじゃん!!!」 慌てる西島。 「可愛いのに捨てれないだろ?」 「本当、此上ってムカつく!捨てろよバカ!」 「捨てて欲しかったらちゃんと思っている事を言葉にしろ」 「命令かよ」 嫌そうに言う西島。 「命令だよ」 「無いものは無い!何も思ってない!本当何なんだよ!神林も一緒になってさ……俺は本当に何も思っていない」 「トオルは心配しているんだよ、友達として医者として」 そんな事分かっていると叫びたい。神林は昔から心配ばかりしていた。優しい男だって知っている。 「何もないし!ほんと、今更……今更……何年も放ったらかしで連絡もよこさないでさ……ずっと側に居てやるとか言ってたクセに呆気なく離れて行ったじゃん!そんな奴なんて信用出来るかよ!」 子供みたいな事を言っていると自覚はある。でも、止まらない……心の中に閉まっていた思いを声にしてしまうと止まらなくなる。子供時代からストレス抱え込んで苦しくてどうにも出来なくってきた頃にまるで八つ当たりかのように此上に思っていた事を言葉にしてぶつけてた。 その時に出た言葉はなかなか止まらずに……たくさん嫌な事をぶつけてしまっていた。 それが辛かったのに言葉にした後は心が軽くなっていて、わざと此上が自分を怒らせて言葉を出させていると成長するにつれて分かってきた。 だから……これはきっと、此上の誘導…… その誘導に引っかからないようにしていたのに……今……見事に引っ掛かっている。 「俺の事捨てた人はもうほっといて」 西島はどうして言葉にしてしまったのだろうと後悔した。 そして、彼が傷付いてしまっているんじゃないかと不安になる。 不安になり過ぎて……気持ち悪くなってしまった。 どんだけ子供だよ? 「寝る!」 気持ち悪さを隠すように西島はシーツの中へと潜った。 言い逃げもいいとこ。 此上の気配は感じる。まだ、側に居るんだろう。 「千尋、言いたい事は全部言った方がいい。消化不良を起こす」 シーツの向こうから声がする。 これ以上は言えない。きっと、傷つける。 「……もういいから、飯作りにいけよ」 シーツの中から此上に返事をする。 「千尋……全部聞くから大丈夫だよ」 優しい声。 怒ってない?傷ついてない? 此上は……いつもこうやって全てを受けとめようとしてくれる。 「……いいよ、もう……言いたい事は全部言ったから」 「本当に?」 此上の手のひらをシーツの上から感じた。 「もう、言う事ないよ」 此上に言いたい事…… どうして……俺から離れたの? 好きだと言ったから?恋愛感情を持ってしまったから? 1番聞きたい事はきっと、一生聞けないかも知れない。

ともだちにシェアしよう!