388 / 526
人って温かいんですよ? 13話
◆◆◆◆
此上が神林の元へ戻って来た。
キッチンで碧や自分達の分と西島用の食事を作っている神林は「篤さん座ってて、もう直ぐできるから」と此上へ支線を向ける。
「いや、手伝うよ」
神林の横に立つ此上。
「篤さん……あの、すみません……俺が余計な事言ったから千尋が…」
元気なく言う神林に此上は優しく笑う。
「謝る事はないよ……千尋にはああやってハッキリ言っていかないと逃げてしまう。逃げていては前には進めないから」
「心理学やっている友人がいるんですよ……彼に色々と聞いてみようかと思います」
「ありがとう。トオルは優しいね」
「俺……千尋と篤さんの関係でちょっとヤキモチ妬いたりしたけど、千尋ってさほっとけない……保護者的な感情が出てきてしまうんです……小さい時の話聞いたら余計に」
「ヤキモチは何時でも歓迎するけどな?嬉しいし」
ふふっと笑う此上だったが、ふと、西島に言われた言葉が頭を過ぎる。
「俺の事を捨てた人はほっといて……」
そんな風に思っていたのか……と初めて知った。
そんなつもりは無かった。未だに見捨てたとか捨てたとか自分では思ってはいない。
アメリカに居た彼を訪ねて、恋人みたいな男性が隣りに居て少しショックだったのを覚えている。
あの頃、西島は勘違いしていたと思っていた。親身になって接してくれる大人をただ、好きになってしまっただけだと。
女性に向けられる感情を親身になってくれる自分に重ねただけだと。
自分が同性愛者だから何となく同じような人間は分かってしまう。自分と同じだと……でも、西島は違うと思ってた。
早く勘違いに気付いて欲しいと願った。
家族に恵まれなかった彼には早く幸せな家庭を築いて欲しいと願ったのだ。
大喧嘩をして、ほっといてくれと言われた時に離れた方が早く間違いに気付いてくれると思ったから。
もしかしたら、離れない方が良かったのかな?
たられば……を思っても、仕方が無いのに考えてしまう。
「篤さん?」
神林に名前を呼ばれて我に返る。
「なんでもないよ」
ふふっ、と笑って此上は手伝いを始めた。
◆◆◆◆
食事を終えた諭吉が寝室へとやってきて、ピョンとベッドに飛び乗ってきた。
「ココアや?ワシもくれ」
ヒクヒクと鼻を動かし甘い匂いを嗅いでいる。
「諭吉はダメだよ、カフェイン入ってるんだよ」
碧から言われた諭吉は「じゃあ、ミルクばくれ」と要求。
「もう、仕方ないなあ諭吉は」
碧は諭吉の頭を撫でるとベッドから降りる。
「ちひろさん、ココア飲んでしまったならマグカップ持っていきますよ?」
西島に手を出す。
「あ、うん……俺も行こうか?」
碧にマグカップを渡すが西島も行きたそうな雰囲気を出している。
「ちひろさんは良い子で待っててください!」
良い子で待ってて……言われた西島は新鮮な感じがした。此上に言われると腹が立つが碧に言われると何故か嬉しい。
「うん」
なんて、つい、返事をしてしまう。
つ、つい、良い子でって言ってしまいました!!
言葉にしてしまった後、碧はちょっと戸惑ったが「うん」と返事を返され、嬉しさと興奮でどうにかなりそうだった。
ちひろさん、うん!とか可愛い。
僕がいつも言われてる事だけど、自分で使うと照れちゃう。
ちひろさんが返事してくれて良かった。
碧は嬉しくて心弾むような感じでキッチンへと向かった。
「ニッシー!」
碧が寝室を出た後、諭吉は西島の目の前にちょこんと前足を揃えて座る。
「なんだよ」
「分かっとーと思うけどな、一応言っとくばい」
「なに?改まって?」
「此上も神林もニッシーの敵じゃなか」
「は?」
「ニッシーば心から心配しとる……神林はキッチンで余計な事言ったって凹んどったし」
神林が?
諭吉の言葉に西島は黙り込む。
「周りばな、注意して見とったら分かるばい!ニッシーは怖がってるごたるけど、此上と神林は敵じゃなか……味方ばい。碧もワシもニッシーの味方ばい?だけん、怖がらんでも良か!」
諭吉の言葉は……どうしてだろう。今すぐ泣きたくなった。
ともだちにシェアしよう!