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人って温かいんですよ? 15話

◆◆◆ 自分の誕生日に住んでいたアパートへ行ったあの日……全てが終わったと思った。 家には戻りたくなくて、いつも遊んでいた公園で途方に暮れていた。 「千尋!!!」 此上に名前を呼ばれた。 迎えに来てくれた……凄く、凄く嬉しかったのを覚えている。 冬に流星群を見に連れて行って貰った事…… ずっと、側に居て守ってくれると言ってくれた…… あの時、この人は味方だって思った。思ったのに……今の今まで忘れていた。 本当はちゃんと分かっている。 此上も神林も……ミサキも……敵ではない。 ただ、自分が臆病なだけ。 あと、一歩を踏み出せないだけ。それだけなのだ。 今、抱きしめている碧が凄く温かい。この子がいると安心出来て、そして、勇気が出る。 あと、一歩……頑張ってみようかな?って思える。 きっと、碧は手を離さないでいてくれる。 笑顔で名前を呼んでくれる。 もし、誰かに引き離されそうになったら自分で阻止すればいいだけ。もう、子供ではないのだから。 碧を守ればいいだけ。 強くなりたい……もっと、強く。 心の中にいる小さいな弱い自分を強くしたい。 「ちひろさん他に何かして欲しい事ありますか?」 「……側に居てくれたらいい」 「はい。側にいます……ずっと、ずっと……一緒です」 碧の言葉に安心してしまう。 うん、……そうだよ、強くならなきゃ。 碧は味方だ。 諭吉の言う通り、みんな……味方で居てくれるんだ。 何を怖がっているのだろう? 碧を抱きしめる腕に力が入る。 ……ほんと、しょんなかばい。人間は大人になっても弱か。 諭吉はミルクを飲みながら考えている。 ばってん、少しづつ……ニッシーも強ようなっていくやろうな。楽しみばい。 ミルクを飲み終えた諭吉はベッドへと飛び乗り、少し身体を立たせ、西島の顔近くにヒクヒクと鼻を寄せる。 「ニッシー、飯ば食え、元気になるばい」 その言葉で諭吉を見る西島。 「お前、ミルク臭い」 口元からミルクの匂い。西島は笑った。 「ミルク美味かったばい、ニッシーもミルクば飲め!」 「そうだな」 「えっ?ミルク飲みたいですか?僕、持ってきますよ?」 西島と諭吉の会話を聞いていた碧はそう言う。 「いや、いいよ……ご飯食べに行こう。元気にならなきゃ」 西島は碧から離れると微笑む。 「はい……ご飯食べましょう」 碧もニコッと微笑む。 ◆◆◆◆◆ 2人と1匹で神林達の元へとやってきた。 「千尋、朝食なら持っていくのに」 神林が慌てたように側に来た。 「大丈夫だよ、目眩もしないし、ずっとベッドに居たら逆に辛い」 西島はテーブルにつく。 碧は西島の隣に座る。 「でも、熱はまだあるんだから食べたらベッドで大人しくしろよ」 此上の言葉に「ほんと、此上って心配性で困る」と返した。 此上が昔と同じように自分を心配してくれるのが嬉しい。 嬉しいって感情に気付くと少し素直になれる。 西島と碧の前に朝食が置かれた。 「神林先生と此上さんの分は?」 置かれたのは2人分。 「作りながら食べたんだ」 神林は心配してくれる碧に微笑む。 「そうなんですか?皆で食べたかったんですけど、僕、家族が多いのでご飯は皆で食べるの好きなんです」 「ああ、そうか、ごめんね碧ちゃん、次は一緒に食べよう」 可愛い碧の発言に神林は彼の頭を撫でる。 「そうだよ、一緒に食べたら良かったのに」 西島も神林と此上を交互に見る。 皆でワイワイ騒ぎながら食べる事に憧れがあった西島。 子供の頃は此上といつも2人だった。たまにミサキが乱入してきたけれど。 1人より、2人がいいし、2人より……もっと沢山の人がいたらいいなって思ったりもした。 大人になって、1人が多くて寂しかった。 でも、碧と出会って……碧の家族とご飯食べた時にああ、本当はずっと、憧れていたと気付いたのだ。 1人は寂しい。 言葉にしたら弱さを認めるようで怖かったけれど、元々、弱かったんだから声にしても良かったんだ。 やっと、気付けた事だった。

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