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幸せって意外と近くにあるもんですね。 3話
此上を好きになって、拒否されて落ち込んで日本から逃げたけど……今となればあの気持ちは憧れの延長だったと分かる。
碧と出会って、好きになって、人を愛するとか大事にするとか全てを碧から学んだ。
人を好きになると強くもなれるし、弱くもなる。
ヒーローみたいに強くなれるけれど、その愛する人から嫌われたくないって弱くもなる不思議さとか……
自分が変わって行くのを感じていた。
昔の弱い自分を忘れさせてくれるくらいに碧の存在は大きいのだ。
日本に戻って来て良かったって思う。
あの会社に入って良かったって思う。だって、碧に会えたから。
逃げてばかりいても前に進めないって猫に教わったし。
「昔は本当に逃げてばっかだったな……何で此上が自分を好きになってくれないのだろうってばかり考えて……此上が好きな神林を見るのが辛くて学校も休みがちだったし」
西島のその言葉で彼が学校へ来なくなった理由を知って動揺する神林。
お、俺のせい?
入院したり……あれも?
その頃の事が走馬灯みたいに一気に流れ込んできた。
一度、自分のせいでは?と考えてしまった事が本当だったので神林は座り込みたいくらいな衝撃を受ける。
「でも、神林は悪くないしさ……唯一の友達だし?まあ、逆恨みってやつだったな……本当に子供だったんだ。あの頃よりは成長していると思うよ、イチャついてる二人見てももう何も感じなかったしさ、ああ、やっとくっついたのか?って……そう思った」
西島の言葉を聞いてはいるが、彼を見れない神林。
ああ、何って言ったらいいんだろうか?
ごめん?
いや、違うよな?
あー!!!俺って語彙力ないよな?
全然思い浮かばない。
心の中で葛藤を始めている神林に西島は気付かない。
「二人、くっつくのに時間かかったのは……俺のせいだよな?俺が色々と子供だったせいで此上は先に進めなくて……あの頃はさっさとくっつけ!か、此上には誰ともくっつかないで欲しいとかの矛盾した考えがグルグルしてたから……なんか、ごめん、此上」
西島は此上を見つめて反省したように謝罪をする。
此上はそんな西島の頭をワシャワシャと撫でると、「成長したって事かな?」と微笑む。
「あー!もう、止めろってば」
子供扱いは碧の前ではやらないで欲しい。
「お前らが高校生の頃にどうやるとかは考えていなかったよ、未成年だし?手を出したら捕まるだろ?」
此上は笑ってみせる。
「捕まるの覚悟でくっついて欲しかったかも?そしたら、ズルズルと引きずらなかったと思う……留学したのもさ、卒業したら二人はくっつくのかな?とか思ったからだし……あの頃は祝福を素直には出来なかったし、今は大丈夫だけどさ」
今は大丈夫……だって、碧が居るから。
西島は此上から視線を外し、横に居る碧をチラリと見る。
碧も視線に気付き、西島を見てニコリと微笑む。
「千尋……」
神林に名前を呼ばれた。
「ん?」
彼の方へ視線を向ける。
「ごめん……俺……何も知らなくて」
神林はそう言うのが精一杯だった。
あの頃はどうして西島が学校へ来ないのか?と考えたりしたが自分が原因だとは思ってはいなかった。
「神林?えっ?なんで、泣きそうなんだよ?昔の事だよ?今は平気だから」
神林が今にも泣きそうで西島は驚く。
「だって……」
俺のせいだった。
好きな人に別の好きな人が居て……その気持ちは凄く分かるから。なんせ、自分もずっと西島が好きだった。
何年片思いしたか分からないくらいに。
あの頃、告白なんて怖くて出来なかった。自分は男だし……男を好きになるなんて、きっと、おかしいんだって沢山悩んだ。
自分が男を好きだと彼に知られたら友達として側にいられなくなるって怖かった。
でも、西島の好きな人が誰かを知った時……ショックだったが安心もしたのだ。
自分は異常だと思っていたけれど、好きな相手の好きな人も男性だった。
それを知った時にあと少し勇気を出せたらって思った。自分も好きだと勢いで何度か言おうと思ったのだけれど、彼の目に自分はどう映っているのか分からなかったから進めなかった。
それは逃げなんだろうけれど……あの頃はどうしようも無かったのだ。
今更な事。
「此上が神林を好きだからって理由で嫌いにはなれなかったし、ただ……あの頃は本当に子供でさ自分勝手な考えばかりを他人に押しつけてた」
西島は神林に笑いかける。自分は平気なのだと。
「そんな顔するなよ」
「ごめん」
神林は泣きそうな気持ちを押し殺す。
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